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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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48 生徒から教官へ

 上月先生が帰ってから昼食までは、自主的に剣を振っていた。正しい握り方や振り方ぐらいは授業でやっているから間違いということにはならないだろう。


 振っているうちに汗が額をこぼれ落ちる。

 それでも気にせずに振り続ける。


 まだ、まともに練習している段階に入っているのかもわからないが、剣士としての技能は魔法使いのものとは質的に全然違うというのをすでに強く感じていた。


 魔法使いの勉強というのは学校の教科にすごく似ていた。知識を増やしていけば、実践編はあるとはいえ、成長が約束されている部分があった。階段を一段、一段昇っていく感覚がそこにはある。


 それに対して、剣技は仏教における悟りみたいなものに近いと思う。つまり、何かコツをつかんだ途端に急激に伸びるのだが、そのコツをつかむまではみんな五十歩百歩で似た場所でうろちょろしている気がするのだ。


 おそらく、アーシアにしても学校の勉強にしても、魔法が先で剣技が後になっているのは、それが理由だろう。成長が実感しづらい内容ということはやる気にもなりづらいということだからだ。

 もし、一か月やって何も改善された気がしなかったら、そこで諦める人間は割と多いはずだ。一か月でダメなら二か月も三か月も同じなんじゃないかと考えてしまう。


 それに耐えるには自分は成長するという確信か、強くなりたくてたまらないという意志か、どっちかが少なくとも必要になる。

 自分の場合、教えてくれるのがアーシアでよかった。アーシアにすべてを託そうという気になる。


 あと、魔法剣士になるのが目標なのだから剣技を練習するしかない。時間がかかろうと、しんどかろうと、ほかにどうしようもないのだ。


 もう、そろそろ食事休憩だなと思っていたら、サヨルさんがやってきた。


「よくやってるね。感心、感心」

 サヨルさんは魔法分野の教官助手で、俺の同僚であり先輩だ。様々な補助系魔法を使うことができる。攻撃魔法よりもそっちのほうが得意なぐらいだ。


「あれ、王や姫の護衛はしないでいいんですか?」

 教官達とはそのせいであまり顔を合わしていなかった。

「それだけ、落ち着いてきたってことだよ。ちょうど、島津君を探してたの」


 そう言うと、サヨルさんはぐいっと俺の手を引いた。

 あれ、サヨルさんってこんなにボディタッチしてくる人だったっけ……?


「き、来て、島津君……」

 やっぱり抵抗はあるらしく、サヨルさんの顔が赤い。これはあまり指摘しないほうがいいか……。

「わかりました……」

 俺も従うことにした。そんなおかしなところに連れていかれることはないだろうし。


「もうすぐ授業は平常な体制に戻るからね。ハルマ王国のほぼすべての勢力がカコ姫を皇太子として認めたから。もう、国内での争いの可能性は消えたと言っていいわ」

 移動中、サヨルさんがそんな話をした。

「王様のハルマ24世が生きていたっていうのが大きいでしょうね。今の王様に逆らうことになると、明確な謀反者になっちゃいますし」

「そういうことでしょうね。そのために王は死んだふりまでしてたわけだし……やっぱり落ち着かないわね……」


 結局、途中でサヨルさんは手を離した。

「あっ、いくらなんでも一見さんじゃないんで、迷ったりせずについていきますよ……」

「そうね……。余計なことだったね……」


 どうも気まずい空気になってるな。というか、サヨルさんが気まずそうなのだ。

「島津君の手……男っぽくなったね……」

「ありがとう、ございます……」

 全体的に落ち着かないな……。


「それで、学校も休みがあったし、ちょうどいい機会だから新体制に移ろうって話になっての」

「だから、教官助手の俺が呼ばれたってことですね」

 俺は生徒と教官助手を兼ねてるので立場上教師側の話を聞く立場にある。かといって、完璧に教える側の立場というわけでもないから事後承諾的に話を聞かされるということだろう。


 サヨルさんの話ですでに予想はついていたが、案の定、俺は教官室に連れていかれた。いわゆる、日本における職員室みたいな場所だ。

 長髪の若い男が出迎えてくれた。日本だと絶対に教師に見えない風貌だが、魔法使いとしてはなんらおかしくはない。教官のヤムサックだ。


「わざわざご足労願ってすまない。今は君は剣のほうに力を入れようとしてるみたいだな」

「話が通るのが早すぎますよ。誰から聞いたんですか?」

「姫の護衛と会う機会もある。だから、おかしなことはない。こちらとしてはぜひ、魔法もより一層の研鑽を積んでもらいたいが」

「もちろんです。まだまだ成長するつもりですからね。空き時間には図書館から古い魔道書を引っ張り出してますし」


「わかった、わかった。まあ、茶でも飲んでくれ」

 ヤムサックはすでにあたためていたポットからお茶を俺とサヨルさんのカップに注いだ。

「それで話っていうのは何なんですか?」

 たいした話だとは思ってなかった。ヤムサックもリラックスしているし。

 しかし、それはちょっと甘すぎた。

「島津、お前に授業を担当してもらいたい。つまり、教官助手から教官に格上げだ」


「え……?」

 カップを持った手が途中で固まった。

「俺がクラスメイトを教えるってことですか?」

「これまでもそういうことをしていたわけだから、そんなにびっくりするほどのことじゃないだろう」


「いえ、違うでしょ。教官助手はあくまで手伝いって次元でしたけど、教官ってなるとクラスメイトに堂々と指導するわけで……」

「まさに堂々と指導してやってほしい。それが適任だと思って言っている」

 ヤムサックとしては突拍子もない意見ではないらしい。


「私ももう少し魔法に時間を割きたくてな。今回のクーデターで自分の未熟さも痛感した。教師の時間を一部もらって、修練に当てたい。たとえばお前のように無詠唱が得意ではないからな」

「その心がけはいいと思いますけど、どうして俺なんですか? しかも現役の生徒が助手じゃなくて教官そのものをやるなんて、前例あるんですかね?」

「ない」

 即答された。


「ないが、それだけお前に実力があるということだ。もうお前は要請学校の授業で習う範囲はすべて学び終えているだろう? むしろ、生徒と距離が近い分、教えやすいはずだ」

 むしろ、教えづらいだろ……。数か月前までただのクラスメイトだったんだぞ。今日から教師だと思えって言うわけだから。


「あの、剣技の授業はどうしたら?」

「それはそのまま生徒として受けてくれ」

 とことん特殊なケースという扱いでいくらしい。


「というわけでお願いする」

 最初から俺に断る権利はないみたいだ。

「わかりました。魔法部門の教官拝命いたします」

 これで上月先生との関係が正式に逆転したな……。

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