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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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46 魔法剣士の指導

 姫は時計を見て、固まった。想像以上に時間が過ぎていたのだ。もう、夕飯を食べてもいい時間だ。

「ずっと、お引き止めしてしまって、本当に申し訳ありませんでした……」

 どうやらいつもの姫に戻ったらしい。


「いえいえ、姫の無聊を慰めることができたのであればうれしいですよ」

「あの……ご迷惑でなければまた一緒に遊んでいただけませんか?」

「はい、お願いいたします」

 俺がそう言うと、姫はほっとしたように胸を撫で下ろした。


「わたくしはしばらくたまっている政務に戻ります。二人は島津さんと一緒に散歩にでも行ってきたらどう?」


 そこで一つ案を思いついた。


「二人とも、俺に剣の稽古をつけてくれないか?」


「ああ」「もちろん」


 この二人に指導してもらえるなら、これまでゲームに耐えた価値もあるってものだ。俺達はその来賓客用の施設の外にある庭に出た。


「では、稽古をつけてやるか。島津よ、来い」「いや、タクラジュは下手だ。私のほうがいい」「黙れ、妹。お前にどんな才能がある?」「妹よ、お前こそ黙れ」「やるか?」「よし、やってやる」「来い!」

「俺とやってくれよ!」

 早速姉妹でケンカするのやめてほしい。本当にこの二人、仲が悪すぎる。


 結局、青いリボンのほうのイマージュと対戦することになった。お互いに木の剣を持って相見あいまみえる。

「さあ、どこからでもかかってきていいぞ」


 イマージュが木剣を構えた途端、恐ろしいほどの闘気みたいなものを感じた。

 なんだ、これ……。イマージュはまだ立っているだけなのに、近寄りがたい。


 とても踏み込めなくて、俺は無意識のうちに一歩下がってしまった。


「何も特別なことはしてないよな……?」

「当然だ。魔法を使ったら練習の意味がないからな」

 イマージュは涼しい顔で言う。実際、表情だけなら散歩中とでもいった感じだ。けど、剣を持っているだけでただならぬ空気になる。


「剣士はある程度の技量に達すると、空気だけで相手を制することができる。こうすることで、しょうもない輩は絡んでこんようになるから、便利だぞ。イマージュのものはたいしたものではないが」

 タクラジュが解説を加えてくれた。


「さあ、踏みこんでこんと練習にはならんぞ。来い!」

 イマージュのおっしゃるとおりだ。これは俺の頼んだことだからな。

 剣を改めて構えて、イマージュに向かっていく。


「うおおぉぉぉぉっっ!」


 声を出したのは恐怖心を克服するためだ。

 だが、次の瞬間、ぱっとイマージュが消えたように見えた。

 ――と思ったら、肩をぱしんと叩かれていた。

 小さな痛みが肩に走る。


「戦場なら斬り殺されてたな。もっとも、お前は魔法で応戦するだろうから、こんな実戦は存在しないが」

 イマージュの表情にはわずかに笑みも宿っている。


「いつ、動いた……?」

 間違いなくイマージュは自分の足で動いたはずだが、その始点がわからない。気付いたら叩かれていた。

「言葉では説明しづらいな。剣を学んでいるうちにこういったものは自然と身につくのだが。出来損ないのタクラジュはしゃべれるか?」「出来損ないのイマージュ同様だな。動いて斬るとしか言えん」


 二人とも教官ではなくて、剣士なのだから上手く言語化できないのは仕方ない。もっとも、言葉で聞いたからといって防げたり、真似ができるものではないだろうから、やはり数をこなすしかないんだろう。


「じゃあ、次を頼む。どこかでお前達の動きを盗んでやる」

 再び、俺はイマージュと向き合う。

「うむ。お前は魔法使いだが、心がけは剣士のそれだ。さすが、姫様のために飛び込んだだけのことはある」

 イマージュは静かにうなずいた。


 剣ではまだ青二才だが、イマージュはたしかに自分に敬意を持って接してくれている。それが単純にうれしい。


「本当の殺し合いだと思ってかかって来い。どちらかが致命傷と考える一撃を受けたら、一度そこで仕切りなおす。それの繰り返しでやろう」

「わかった! よろしく頼む!」


 今度はあまり自分から踏み込まずにイマージュの動きを観察してやろうと思った。

 イマージュの体が前に出る。

 動いた! 今度は認識できた!


 ――パシィィィン!


 しかし、自分が剣で止める前にまた肩を叩かれていた。


「ど、どうなってるんだ……?」


 いつ、自分が斬られる間合いまで移動されたのかわからない。


「言っておくがテレポートなんて魔法を使ってはいないぞ。この足で前に出て、お前に近づいただけだ。それ以上でも以下でもない」


 テレポートは文字通りの瞬間移動だが、狭い範囲でしか動けないし、間に壁などの障害物があると使えないので、使用頻度はそう高くない。でないと、暗殺者がすぐに王の間に侵入してしまって、あらゆる国が大混乱になるだろう。


 この姉妹二人は純粋な剣士ではなく、魔法剣士だ。ただ、攻撃魔法をどんどん使うというようなタイプではなく、あくまでも剣士としての実力をより上昇させるために、補助的に魔法を使うことが多い。


「もう一度、頼む。数をこなしたい」

「うむ。その心意気は買おう。さあ、行くぞ!」


 それから先も十分以上、俺は剣を構えて、肩を叩かれまくった。


 十分で何かつかめるほどの素質は剣のほうにないとは思っていたが、本当に何もつかめないままだとつらいな……。痛みもあるので余計につらい……。


「二人はこういう動きがいつ頃できたんだ?」

「練習をしているうちに、いつの間にかできていた」「ペーパーテストの問題ではないから、ある日からできたというものでもないだろう」

 とにかく、練習あるのみってことか。


「だが……」

 イマージュが思案するように言った。

「こういうことは、もしも原理がわかっても、それを実行する体力が必要であったりするからな。島津の場合はそれを頑張るべき時かもしれん」


 俺の頭に昨日のアーシアの特訓が浮かんだ。


 しばらくは走るしかないのかな……。


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