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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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45 姫とゲ-ム

 その日は昼に姫に呼び出された。


 現在、姫は警護の問題上、客人用に作られた石造りの建物にいた。そこなら建物の周囲を護衛で固められるからだ。城の中だと棟続きなので、どこか警護の甘いところから建物内部に侵入するということができなくもない。


 俺が行くと、すぐに中に通された。姫は新たな皇太子としての所領安堵の書類を作っているところだった。皇太子が変わったので、その影響下にあった荘園などの混乱を静めて、安心させる必要があったのだ。


「島津さん、ごきげんはいかがですか?」

「お疲れ様です、姫」


 姫はほがらかな笑みを満面に浮かべて出迎えてくれた。


「わざわざ呼びつけてしまって、ごめんなさいね。まだ、外に出るなと言われていて、退屈してきちゃったもので……」

「いえ、俺も呼んでもらって光栄です」

「一時期と比べれば、かなり民心も安定してきたようですし、そろそろお城に戻れそうではあるんですが、タクラジュとイマージュがもう少し待てと言うので」


 姫の両側には同じ顔にしか見えない護衛が一人ずつ立っている。黄色のリボンをつけているほうがタクラジュで、青いリボンのほうがイマージュだ。


「よく来たな」「茶でも飲め」

 ほぼ同時にしゃべられると、どっちがどっちかわからなくなるのでやめてほしい。


「現在、城の警備に不備がないかの確認をしている」「それが終われば、新体制に正式移行する」

「二人も姫の護衛だけじゃなくて、遊び相手にもなってあげてやれよ」

 この二人、堅物そうだからな。ずっと、純粋にボディガードですという顔でいられちゃ、姫も気詰まりになるだろう。


「「それが……」」

 なぜか二人同時にうつむいた。いったい何があったんだ?


「ボードゲームをやっていたんですが、二人とも弱すぎて勝負にならないんです」

 珍しく得意そうに姫が言った。

「それで、島津さんに対戦相手になっていただきたくて、お呼びしたんですよ。一局お願いいただけませんか?」

「はい、喜んで。でもルールは知らないんで教えてくださいね」


 最初に出てきたゲームはいわゆるチェスだった。コマはリアルな騎士や馬の彫り物になっている。ただ、コマの配置がちょっと違う。また、一度相手からとったコマを使っていいというルールがあるのだ。コマの形がフィギュア的なので攻めてる方向がはっきりわかるのだ。

 初戦はかなり初期から攻められてあっさりチェックメイトになった。


「さすが、姫様!」「姫様、お強いです!」

 ギャラリーのタクラジュとイマージュは当然姫様押しだ。


 ただ、微妙に感覚がつかめてきた。

 これって、チェスというより将棋に近いな。だったら、棒銀とか矢倉とか将棋の戦法を使えるんじゃないだろうか。


「わたくしの勝ちですね。もう一局いかがですか?」

「はい、ぜひお願いします」


 俺はとられたら終わりの王のコマを少しずつ移動させて盤の隅っこにまで持ってきた。


「えっ? こんな戦法見たことないですよ……?」

 姫が困惑している。どうやら将棋的な戦法は開発されてないらしい。といっても、将棋とは似ていても違うゲームだから、効果的なのかは全然わからないが。


 その対局は姫が攻めあぐねている間に俺のほうが侵攻してチェックメイトまで持っていった。


 姫の戦法は先手必勝で攻め切るものだから、序盤を防ぎきられると、途端につらくなる。というか、守るのはおそらくあまり得意じゃない。


 それにしても、普段の性格とゲームの性格とかなり間逆だな……。意外と深層心理では攻め攻めの性格なんだろうか。


「俺の勝ちですね」

「なっ……。わたくしが完敗……」

 姫はかなり落ち込んでいるようだった。

「もう一局やりましょう、島津さん! 次は勝ちますからね!」

「はい、いいですよ」


 横から二人が「次は姫様に勝たせろ」「臣下として引き際を知れ」と言ってきた。

 だが、むっとした顔で姫が二人をにらむ。

「手加減なんてダメですからね! あくまでも全力勝負でやってもらわないと意味がありませんから!」

 二人も「「申し訳ありません!」」とぺこぺこ頭を下げていた。


「わ、わかりました……。俺も気合入れてやりますから……」


 姫は攻略法をまだわかっていなかったようで、次の対局も俺が同じ手を使って勝った。


「これで詰みましたね。俺の二勝一敗です」

 姫が「ぐぬぬぬぬぬ……!」という顔になっている。そうか、姫ってこんな顔もするんだ。


「もう一回です、もう一回やりましょう!」

 ムキになって姫が言う。なぜかカコ姫の新しい表情をたくさん見ることになってるな。


「わかりました。では、次をラストにしましょうか」

 結局、次も俺が勝った。


「ありがとうございました。そろそろ日も傾いてきそうですし、ご政務にも影響が出るかと思いますのでこれで」

「ダメです! もう一回です! もう一回を要求いたします!」

 あっ、これ、姫が勝つまでやめない流れじゃないか……?


 護衛二人も「あ~、やっちゃったな」という顔をしていた。

「姫は無類の負けず嫌いなのだ」「だから保険として弱い我々がやっていたのに……」


 そんなこと、わかるわけがない!


 まあ、いいか。手を抜いて負けるようにすればいいだけのことだし……。

 しかし、わざと悪手を打つと、姫の目が厳しくなる。

「島津さん、今の手、おかしいですよね?」

「な、何のことでしょうか?」

「とぼけても無駄です。手を抜こうとしたことが表情の変化でわかります。わたくし、人の本心を見抜くのは得意なんです。王族であるわたくしの前で本音を言う方などほとんどいませんからね」


 たしかに……。


 ということは、これって姫が実力で俺に勝つまで終われないんじゃないか……?


 そのあとも俺が三連勝した。

 日はほぼ沈みきっている。


「あの、俺はそろそろおいとましようかと……」

「いけません! まだ勝負を続けてください! これは姫であるわたくしの命令です!」


 姫の強権を使われた! 普段はそんなこと言う人じゃ絶対ないのに!


 その後、俺が疲れてきて、素でミスを連発しているうちに、やっと姫が勝った。


「やりましたわ!」

「姫、おめでとうございます!」

 なぜか、俺まで全力で姫の勝利を喜んでしまっていた。

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