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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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39 皇太子のもとへ

 敵はすべてこっちの動きを読んでいた。俺達が少人数だから、少人数を確実に殺す部隊を用意した。それもセルティア帝国から魔法使いを借りて。


 やはり、王位のためなら先手を打って動かなければダメだったんだろうか……。姫と俺達は後手に回りすぎたんだろうか……。


 俺も一対一なら異国の魔法使いにも負けるつもりはない。だけど、五対一じゃ限界があった。

 圧迫感を覚えはじめた。このまま、つぶれてトマトみたいに……。


 味方とは違う悲鳴が聞こえた。


 黒いローブの一人がかまいたちのような風でズタズタに切り裂かれていた。

 左側からの圧迫が消える。俺はそちらに抜け出た。


「島津君! 助けに来たよ!」

 ローブの後ろにサヨルさんが立っていた。それだけじゃない。ヤムサックを含む教官達だ。


「俺たちの側についてくれたんだ……」


 これなら行ける!


 ほっとする暇もなく、俺は敵の連中に突っこんでいく。

 奴らは火の玉を放ってくるが、マジック・シールドで防げるレベルだ。

 そして、確実に狙い撃てるところから、パイロキネシスを放つ。

 向こうもマジック・シールドを使ったようだが――今度は背後から氷の刃で貫かれる。

 サヨルさんが攻撃を放っていた。


「挟み撃ちじゃ、どうしようもないでしょ?」

 潜んでいた弓兵も剣技の教官に斬り殺されていた。脅威は無事に去った。


「みんな、姫の側についてくれるんですね」

 それだけで俺は泣きそうだ。

「違うよ。私は同僚を助けたの。ほかの教官は教え子を助けたの」

 サヨルさんがはっきりと訂正する。


「私達は政変なんて知らないわ。ただ、同僚や教え子が命を狙われてたら当然助けるし、姫が殺されそうになっていたら国に仕えるものとして武器をとるでしょう? つまり、そういうこと」

「わかりました。俺は運よく同僚に助けられたってことにしときます」


 教官側としても、はっきりどちら側につきますとは明言しないつもりなんだな。もし、皇太子側が勝ったら粛清される。


 それから、ヤムサックが彼らを代表して、姫のところで膝をついた。


「我々はこれから姫の命を狙った者を見つけ出すために動きます。姫と行動を共にすることをお許しください!」

「はい。よろしくお願いいたします。わたくしも国家の安寧を脅かす者は逮捕せねばなりませんからね」


 もう、百人力と言っていいな。

 口実はどうあれ、教官が俺たちの側についたのだから。


「きっと、敵は城の中にいるでしょう。今からそちらに向かいます。ご同行をお願いいたします」

 姫はほんの数瞬前まで命の危機にあったとは思えないほどに落ち着いていた。

「島津さん、あなたはわたくしの護衛をお願いいたします」

「わかりました、姫」



 俺達は進路を城の中心へと向けた。

 おそらくだが、皇太子も慌てているだろう。あそこできっと姫を殺す手筈だった。それが失敗に終わって、敵の数が増える結果になった。


「どうやら暗殺者はいるが、狙えないらしいな。イマージュのように腰抜けらしい」

「この数だからな。目論見がはずれたのだろう。タクラジュのように愚かだな」

 こいつら、どこまでいっても仲悪いな……。それでも、刺客の存在を認識してるのはさすがだ。


 姫の周囲は何人も手練れが囲んでいる。これでは一人や二人で隠れていてもやり過ごすしかないだろう。


 それでもまだ安心はできない。敵の数がこれですべてとは考えづらい。


 予想は当たった。皇太子の部屋に近い門の前では魔法使いや剣士が三十人はいた。中には、先ほど相手を下セルティア帝国の魔法使いらしき者もいる。かなりの戦力だ。

 逆に言えば、あの奥で皇太子がいると言っているようなものだった。


「あの、皆さん、わたくしはお兄様と話がしたいのですが……」

 それはとても危険な話だった。一方で、それもそうだよなと思った。相手は姫にとって兄貴でもある。会って、話をする時間ぐらいはほしいだろうし、もしかしたら何かの誤解なのだと信じたいのかもしれない。


「お兄様は弱いお人です。それにわたくしは真相をこの耳で聞く義務があります」

「わかりました。俺がお守りいたします!」


 門に烈風を叩きつけて押し開けると、俺と姫は皇太子の部屋へと向かった。門の前にいた敵は、こちら側と戦うのでやっとのようで、姫を狙う余裕はない。狙えるだろうかと隙を見せた者は容赦なく斬り殺されていた。


「二人の従者をつけなくてもよかったんですか?」

「お兄様は攻撃に特化した魔法使いです。二人を近づけすぎては命を奪われかねません」


 ああ、これは後継者同士の会見ってだけじゃなくて、魔法使い同士の会見でもあるわけだ。


 部屋の前には護衛もいなかった。おそらく、すべて門の前に配置したのだろう。ここで一人や二人だけ離して置いても、戦力が分散してしまうだけだからな。


 姫はいちいち丁寧にノックしてから、「妹のカコです。入ります」と告げて、ドアを開けた。


 一目で王族とわかる服装の男がそこに立っていた。姫の兄だけあって、顔立ちは整っているが、かなり傲慢な印象を与える。


「まさか、生きてここまでやってくるとはな。平時に仕掛けられるだけの刺客をすべて振り払ってここに来られてしまった。こちらの負けだ」


 皇太子は両手を上げて、降伏のポーズをとった。


「君はカコの従者か。悪いがもう少しカコから離れてくれないか。二人きりで話がしたい。魔法を詠唱しだしたりだとか不審に感じたら、すぐに魔法で攻撃してくれて構わない」

 姫が「島津さん、すみません」とつぶやいた。姫の命令には従うしかない。俺は下がって壁に張り付いた。

 皇太子よりはどこからか暗殺者が潜んでないかのほうに気を配った。ここなら、何かが動いた時、すぐにわかる。


「なぜ、セルティア帝国の手を借りるようなことをしたのですか?」

「この国の兵力では、もし帝国と正面からぶつかれば大敗する恐れがあるからだ。この数年で急速に帝国は力を盛り返している。だからこそ、友好関係を築いているふりをしないといけなかった。これは正しい外交だよ」


 皇太子は両手を挙げたまま話をしている。現状、すぐに姫に危害を加えることは不可能だろう。本当にこのまま兄と妹の話で終わってくれればいいんだけどな。


「もっとも、カコから見れば帝国に付け込まれる隙を僕は作ったことになるんだろうね。決して、そんなことはないんだが」

「お兄様が何を言われたかわかりませんが、帝国は決して信用できません。今は大丈夫でも即位にまで手を貸してもらったという弱みを握られます」

「ならばカコが自分の手で即位させてやったと言い張ればいいのさ」


 ん? 皇太子は何を言いたいんだ?


「カコ、これまでのことは謝罪する。兄である僕に王位を譲ってくれないか?」


 この皇太子、この期に及んで、王にしろって言うのかよ……。

 しかし、悪い発想ではない。姫はおしとやかな人柄だし、長幼の序も守りそうだ。言うだけ言ってみる価値はある。


「どのみち、僕はカコの傀儡だ。それでも王にはなりたい。どうかな?」

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