3 赤ペン精霊アーシア
「この赤ペンの精霊、アーシアが教えてあげましょう!」
その子は間違いなくそう言った。
見た目の歳は俺とそう変わらないだろう。
ただ、かなり胸が大きい。というか、胸の大きさを誇るみたいなビキニみたいな布をつけている。
スカートもスリットが何本も入っていて、かなり艶めかしい。
格好だけ見ると、絶対に教師ではない。
でも、精霊と言っていたのだ。精霊と言われると、どことなくそういう気もする。ゲームによってはイフリートやジンがこんな見た目のものもあるし。
「あの、もしかして……この赤いマナペンに宿っていた方ですか……?」
「そうですよ、時介君――いや、もう大人と言ってもいい歳ですし、時介さんと呼びましょうか。私はそのマナペンに宿りし精霊、アーシアです。あなたの勉強して成績を上げたいという意思を受けて、やってきました」
こんな奇跡みたいなことがあるのかと思ったが、魔法が実在する世界なのだから、ありえないとも言えないか。
というか、実際に出てきちゃってるしな。
「私はこれまでもこのマナペンを手にした人の成績を何人もアップさせてきました。それで志望する職種についた人も多くいます。なかには自然と自信が出てきて、友達が増えたり、恋人ができた方も」
「すごい! 日本にあったゼミの漫画みたいだ!」
「そして、中には神剣エクスカリバーに選ばれたという伝説の魔法剣士までいるぐらいなんです。なので、この指導法を私は神剣ゼミと呼んでおります!」
「ど、どこかで聞いたことある名称だ……」
「ここから先は、神剣ゼミの説明になりますが、参加されますか?」
「する、する! やります!」
「では、説明いたしますね。私のゼミはプリント方式です。覚えておかないといけない要点や間違いやすいところなどを毎日お送りしますので、ちゃんとやってくださいね。採点と解説の時には私が出てきて、講義をします」
毎日やるのか。大変そうだけど、それぐらいやれば一気にクラスの連中をごぼう抜きできるかもしれない。
「すでに授業ははじまっていますから、最初は授業のおさらいや復習になりますけど、すぐにそれを追い抜いて教えます。あ、これ、ゼミで見た問題だ! という反応を時介さんはすることでしょう」
「わかった! 俺、努力します! 絶対に成績を上げます!」
「よーし! その意気です!」
アーシアは俺の頭を撫でた。
むずがゆいけど、悪い気持ちではない。
「冷静に考えてください。時介さんはみなさんと同じ学校に入学したんでしょう? ということは元々の能力にそこまで大きな差はないはずなんです。だから、コツをつかめば一気に伸びますって」
「た、たしかに……」
俺だけが才能の面で極端にクラスで劣っていたなんてことは考えづらい。
じゃあ、なぜ、俺の成績がずっと悪かったのか。
最初のうちの失敗を引きずっていたのだ。
それで、ずっとダメなのだとレッテルを貼ってしまっていた。
そんなもの、はがしてしまえばいい。
「俺、やるよ。クラスで一番になってやる!」
「その覇気、いいですね。若人はそうでなければいけませんよ」
また、アーシアは俺に微笑んでくれる。
「ですが――クラスで一番になるのは過程です。私の授業の最終目的はもっと別です」
一呼吸置いてから、アーシアはこう言った。
「ずばり、魔法使いと剣士を両方極めてもらいます!」
両方だと!
俺たちは魔法使いか剣士、そのどちらかのスペシャリストになるよう、教育を受けているはずなのに。
あえて、両方を極めるというのか……。
「それってハードル高くないですか……?」
キャリア官僚と野球選手に両方なれ的な難しさを感じる。
「難しいかもしれませんが、必ず達成できます。実際、魔法剣士という職業があるんですから。王国に数名しかいないエリートの中のエリートです。時介さんはこの魔法剣士になってもらいます! いえ、私がそこまで導きます! それが赤ペン精霊の役目であり生きがいですから!」
アーシアの気分もかなり高揚しているようだった。
その気持ちが俺にも伝染する。
「わかった! やるぞ! 俺は成績上げて、見返してやる!」
「はい! やりましょう! まずは魔法の基礎からです。少しかったるいかもしれませんが、基礎から確認をいたしましょう。必ず、時介さんにとってプラスになりますから」
そして、アーシアの姿は消えた。
「あれ、どこに行ったんですか、アーシア先生?」
アーシアの姿は見えなかったが、その代わり、机にさっきまでなかったものが置いてあった。
それは俺が中学生の時にやった通信教育みたいなプリントだった。
<魔法の基礎>
プリントの上段にはそう書いてある。
そのあとにはこう続いている。
<どうも、赤ペン精霊のアーシアです。今から私と一緒に勉強していきましょう。このプリントは私がしゃべっている体裁になっていますので、空欄をペンで埋めていってください。>
なるほど。そういうシステムなのか。
<どうして、しゃべっているような文体にしているかというと、このほうが覚えやすいからです。ほら、教科書の文章ってカタいですよね。カタいということは頭に入りづらいんですよ。もちろん、教科書だからなんですけど、だったら参考書とかほかの媒体ならライトにしてもいいですよね。>
たしかに日本でも漫画になってる参考書とか、講義形式の参考書とか売ってるよな。
それはずばりわかりやすいからだ。
教科書は読んだ人にわかってもらうために作っているはずなのに、堅苦しいから、頭に入るのが遅いのだ。
<では、早速、魔法の基礎を考えていきましょう。
魔法とは、ずばり、体内にある( )を使って、物理法則とは違う現象を起こすことですよね。>
これぐらいなら俺でもわかる。答えは「マナ」だ。魔法とはマナを使って、現象を引き起こすことだ。
俺はマナペンでマナと書く。
ちなみにマナペンは赤いが、書いたものまで赤色になるわけじゃない。それは黒になる。
<さらにこの魔法は( )魔法と( )魔法に分かれますね。前者は火や氷を起こす魔法で、こっちが一般的です。後者はかなりマニアックで、相当偉い魔法使いにしか使えないものです。いわば、この世界のルール自体を一時的に書き換えるようなものですね。>
これは前が現象魔法で、後ろが概念魔法だな。
最初の小テストでよくわからなかったやつだが、こう聞けばまだわかる。
<魔法を発動させる時には、いくつかの要素があります。まず、( )です。口に出すことです。>
これの答えは、詠唱だな。
<もう一つ大事なのが( )の集中ですね。なので、ぼうっとした頭で魔法を使うと威力が半減したりします。>
これは精神の集中だろう。酔っ払ったら上手く魔法が使えなくなるって、教官のヤムサックも言ってた気がする。
あれ。
想像以上にすらすら答えが出てくる。
明らかに授業よりわかりやすいぞ。
初歩だからっていうのもあるからなんだろうけど、このプリント、本当によくできてる。
これなら、授業の序盤でつまずいていた所をすべてリカバーして、さらにいろんなことを勉強できそうだ。
明日も複数回更新する予定です! よろしくお願いします!




