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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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34 概念魔法の秘密

「概念魔法というのは、使用者からの身体的接触で初めて伝えられるものなのです。なお、ただ触れるだけではなく、お互いが呪文の伝授を受けるという意識を共有しておく必要があります」


「使用者が少ない理由がそれでわかりました」


 概念魔法というのは師匠的な魔法使いから免許皆伝を認められた者だけが手にできる形式の魔法なのだ。

 学校で習って、みんなで使いましょうというような魔法とは明らかにジャンルが違う。


 アーシアが教えようがないといった意味もわかる。これはバトンを渡すリレーみたいなものだから、アーシア自身が概念魔法を習得していなければ、それを俺に伝えることもできない。


「使用者がよほど概念魔法を広めようとでもしない限り、使用者はごく限られた範囲で留まります。もっとも、よほど優秀な人間しか受け取ることもできないと言われていますが」


「ありがとうございます。おかげで詳しくわかりました」


 けど、どうして、姫は言いづらそうにしていたんだろうか?


「ち、ちなみに……わたくしはお父様とのキスで、この概念魔法を受け取りました……。あくまで、もっと幼い頃のことですが……」


 あっ……。身体的な接触のところをあまり言いたくなかったんだな……。

 まだ親だからいいけど、これ、師弟関係とかで聞いたらセクハラみたいな意味になりかねない。


「すいません……。配慮が足りませんでした……」

「別にいいです……。知らないからこそお聞きになられたわけですし……」

「また、魔法のご指導のほう、お願いします……」

「はい。島津さんはこの国の宝も同然ですから」


 姫こそ間違いなく王国の宝なんだけどな。

 俺は「失礼いたします」とゆっくりと礼をして、寮に戻っていった。



 夜に姫の護衛をするという生活パターンはそれからもしばらく続いた。姫がエルドラードを使用するのは、あと何回で終わりというものじゃないから習慣になるのは当たり前だ。


 その帰りに魔法を教えてもらっているのだが、これははっきり言ってなかなか時間を食っている。


「わたくしは幼い頃より、こういったあまり一般的でない魔法を教えこまれてきたものですから」

 姫はそんなふうにおっしゃっていたが、たしかに姫の魔法についての学習は、俺達用の教育指導要領とはまったく異質のものだった。

 俺達は高校生という時期になって、初めて魔法に触れる。一方で姫は物心つくかつかないかといった時からそれを教育される。


 テニスの英才を育てるには幼児から慣れさせるというが、いわば姫の魔法はそういうものだった。体に魔法がしみついているので、それを人に教えるということに関しては、そう得意でもない。

 だからといって、ここで逃げてもしょうがない。俺も食い下がるだけ食い下がるつもりではいる。


 ただし、時間の使い方については再考を必要とした。


 魔法の座学や実習に関しては、ヤムサックから一切出ないでいいと言われた。

 ならば、その時間は何をしているかというと、サヨルさんと補助系魔法の習得具合を確認しあったり、実戦についての動きについて学んだりしている。


「じゃあ、模擬戦三度目ね。かかってきなさい! 紅蓮の力は我の掌中に在り。踊るように戯れるように広がるがよい。それが燎原の大火となろうとも知らぬこと。炎が遊ぶのだ。やむをえまい――パイロキネシス!」


 遠方からサヨルさんがパイロキネシスで俺の目の前を発火させる。


 それに対して、俺は頭で「剛」という漢字を思い浮かべる。

 光の盾が炎と自分の体の間に現れる。

 マジック・シールド――魔法の攻撃を防ぐ一般的な方法だ。


 これを張りながら、前へ前へとサヨルさんのほうへ詰める。


 もう行けると思ったら、サヨルさんのほうへ飛び込んで、その腕にタッチ。これでクリアとなる。


 敵の攻撃を防ぎつつ触れるぐらいまで距離を縮めるという訓練だ。


「うん。マジック・シールドの精度も上がってきてるよ! いい感じ!」

 サヨルさんも褒めてくれて、ほっとした。かなりハイレベルな魔法も無詠唱でやれるようになってきている。


「最近、実戦形式の訓練多くないですか?」

 これ自体はいい刺激になるからいいんだけど、背後の敵を魔法で迎撃する訓練なんてものもやっている。ほかにも、わざと室内で魔法を使ったりとか、漠然とした戦闘訓練という域は超えていると思う。


「その必要性が生じる恐れが高くなっているからよ」

 厳しい表情でサヨルさんは言った。


「この二、三ヶ月のうちに王国では政変が起こるよ。あなたは気付いてないかもしれないけど、王城の気は露骨にきな臭くなってる。王城に長くいるとね、そういうのは敏感にわかるの」


 サヨルさんの目は演習場から城のほうに向けられる。


「もっと具体的に言うとね。ハルマ皇太子かカコ姫、どちらかが殺される」


 その言葉はもやもやした不安とは異質の気味悪さがあった。針でぐさりと刺されたような不快感を覚える。


「ハルマ24世が存命中にそんなことが起こりうるんですか? 政敵を殺したことがばれれば、一気に不利な立場に立たされると思いますが」

「その国王が病気がちだったとしたら?」

 不安がどんどん膨らんできて破裂しそうだ。


「公式発表では健康だということになっているけど、やけに咳き込むことが増えているし、これまで使っていなかった杖をついて会議の席に出るようにもなってるの。白髪もはっきりとこの一か月ほどで増えている。急激に衰えているのよ。誰かが毒を盛っているのではという噂すら立つほどにね」


「俺は王に会う機会がないからちっともわかっていませんでした……」

 あなたのお父さんはもうすぐ死にますかと姫に聞くわけにもいかなかったしな。


「毒が盛られているのかは知らないけど、いきなりばたっと倒れてもなんらおかしくないの。そして、困ったことに、本人は公式発表と同様にまだ大丈夫だと繰り返してる。そうやって、跡継ぎが決まらないままに王が死んだらどうなると思う?」


「内戦になります」


 もう一人の後継者候補を殺せば、後継者は自分の側に絞られるのだから。


「そういうこと。あなたは場合によっては学生ですと言い通すことができるかもしれない。でも、戦場に出ないといけなくなるかもしれない。だから、戦闘訓練をやってあげているの。死なないですむようにね」


「ちなみに、サヨルさんはどちらの陣営に味方するつもりなんですか?」

 サヨルさんは少し迷っていたが、それからこう言った。

「言えない。あなたの秘密をすべて知ってるわけじゃないから。でも――」


 そこでサヨルさんは反則みたいに笑った。


「私はあなたに死んでほしくはないな」

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