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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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33 姫様は偉大な魔法使い

 庭園に潜む者はいないと判断して、俺とイマージュは姫とタクラジュのところに戻ってきた。

 今度は俺は庭園の中ほどで、合図があるまで周囲を窺う。


 もし、勝手に姫のところに行って、また裸を覗こうものなら今度こそ双子に殺されかねない。

 お化けの話を聞いてからなせいか、たしかに庭園がどこか物寂しげで不安をかきたてるものに見える。


 水が透き通っているから浅く見えるが、これ、かなり深いんだろうな。透明度が高いと奥まで見えてしまうから、ここは浅いと錯覚しやすいはずなのだ。

 それと月明かりがある日は明るいが、それがなければ頼れる光源はほぼ何もない。それで誤って池に足を踏み外すと、命取りになるのもわかる。


 人の気配一つしないなと思っていると、遠くから「終わったぞ。来い!」という声がした。タクラジュかイマージュかそれだけだと判断できない。


 もう、姫は服を着替えていたが、わずかに長い髪が水につかったところだけ濡れていて、それで概念魔法を使っていたことがわかった。


「ありがとうございました、島津さん。今日のようにまたお手伝いをお願いできますか」


「はい。それと、もしよければ魔法の指南をお願いできませんか?」

「わかりました。では、まずはこのあたりからどうでしょうか」

 姫が提案した魔法はすでに習得済だった。


「それなら無詠唱で使えます」

「本当ですか! やはり島津さんは天才なんですね……」

 概念魔法を使える人に天才って呼ばれても微妙な気分だな……。

「少なくとも、現時点では姫のほうがはるかに偉大な魔法使いですよ。下手をするとこっちが守られる側になりかねません」


「それはそうだ。王家そのものが偉大なる魔法剣士の系譜だからな」

「まったくだ。神剣エクスカリバーを自在に操ったという伝説的な方を祖とする一族なのだから」

 双子二人がドヤ顔で言ったが、そこにとても重要な情報が含まれていた。


「えっ、神剣を王家が使ってたのか!?」

「うむ。伝説ではあるがな。ハルマ一世はもともと救国の英雄と言われた魔法剣士で、その活躍から王国から新しい王になるよう勧められて、その地位についたと言われている。そのハルマ一世が魔法剣士時代に使っていたのが、エクスカリバーという話だ」

「その所在はわからないが、現在の王室が高名な魔法使いの血を守っていることは紛れもない事実。だからこそ、このように長い期間、ハルマ王国は民に慕われて続いてきたのだ」


 遠慮がちに姫もうなずいた。

「はい。わたくしも魔法をお父様から授かりました。その……お兄様よりわたくしのほうがこの魔法を受け継ぐには適しているからと、概念魔法も……」

「それが本当だとしたら、もう国王陛下は姫に王位を継がそうとお考えなのでは……」


 言ってから少し口がすべっただろうかと思った。


「そのような簡単なことではないのだ」

 タクラジュが渋い顔で言った。

 それにイマージュも言葉を続ける。

「序列を乱すことになるし、そもそも皇太子に明確な落ち度があるわけでもない。皇太子も魔法使いとしての実力はかなりのものだ。何も出来ぬ愚人ではないからな」


 こういうのは、すぱっと割り切れるものではないか。


「わたくしとしては、この国が平和であれば、王であろうとそうならなかろうと問題ではないのですが」

 思った以上に姫は疲れているように見えた。これは概念魔法を使ったせいだけじゃなくて、心労のせいなんだろう。


「さて、魔法の授業に戻りましょうか。それでは、こういった魔法はご存じですか?」

 姫がいくつか提示してくれた魔法の中には自分がまだ使えないものも含まれていた。


 とくに強力な結界を張って、周囲一帯を守るサンクチュアリ・ライトというものが含まれていて、たじろいだ。


「これってとんでもなくすごい魔法じゃないですか?」

「範囲はそこまで広くないですがね。ただ、使用できる魔法使いは戦争で将軍や副将軍の地位につけられることが通例ですね。将軍がすぐに殺されると指揮系統が乱れるので、そうそう死なない力を持った者が抜擢されるのです」


 イマージュが「たしかヤムサックはこれを覚えようと血眼になっているようだが、まだ使えてないらしいぞ」と言ってきた。「まだ、あいつは青二才だ。もっと意識を操る方法に長けてなければならん」とタクラジュ。


 それを教えられる立場にいる姫はか弱そうな見た目と違って、将軍になってもおかしくない人物というわけだ。


「最初にわたくしがやってみますね。力を消耗するのであまり何度もできないのですが。加護の光よ、今こそ心正しき者をよこしまなる刃と唾から守れ。正義の頌歌を地上から天にまで届けるために――サンクチュアリ・ライト!」


 姫を中心に、ドーム状の光で俺たちが覆われる。いきなり温室に入ったような、あたたかさを感じる。


「こういったものです。この魔法の難しいところは発動させたあとも意識を上手くコントロールしないとすぐに効果が消えてしまうことですね。先人の中には釣りに例える方もいますが、わたくしは釣りをしたことがないのでよくわかりません」


 これをいきなり無詠唱でやるのは無謀だな……。


 さすがに失敗ばかりで形にはならなかった。

 難しい。けど、その分、一気に成長できるチャンスも秘めている。

 十五分ほどで、イマージュが「もう、おしまいだ。姫もお疲れになる」と言ってきた。たしかに夜遅くだし、あまり姫が外にいることもよくはないのだ。


「また、今度お願いします、姫」

「はい、喜んで」

 やさしく姫は微笑んでくれる。やっぱり、この人、ガチの聖人だ。


 帰り道、あまり話題がなかった。ずっと黙ったままなのは気まずいし、せっかくだし聞くだけ聞いてみようと思った。


「あの、概念魔法って、どうやって習得するんですかね?」


「そ、それは……」


 姫が口ごもる。聞いちゃダメなことだったかな……。


「島津、ぶしつけになんてことを聞くのだ!」

「タクラジュ、やめろ。島津は本当に何も知らぬのだ」


 なんだ、恥ずかしいようなことなのか……?


「わかりました……。お話しておきましょう」


 姫の言葉は先ほどより小さくなっていた。


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