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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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32 カコ姫の魔法

 姫のことをアーシアに伝えたが、そこまで意外そうな反応は見せなかった。


「そうでしたか。たしかにこのお城はやけにほっとするというか、何か魔法の力に守られているような印象があったんです。姫の概念魔法によるものだったんですね」


「そういうのは魔法使いなら誰でもわかるものなのですか?」


 アーシアは首を横に振った。


「そんなことはないですね。それなら、とっくに姫が何をされていたか周囲にもばれてしまっているはずですよ」


 たしかに魔法使いなんて王城の敷地内にいくらでもいるはずだ。


「概念魔法というのは、一言で言うと、教育課程から切り離された領域の魔法なんです。ですから、いくら魔法使いとして優秀であっても、それを理解しないままということは充分にありえますね。むしろそのほうが多数派です」


「そうなんですか。そういうことも含めて、教科書にも書いてないんですよね。ただ、概念魔法は難しいといったことしか書いてない」


 たしかに神剣ゼミですら概念魔法については具体的な言及がなかった。


「私も概念魔法については教えることができないんです。一言で言うと、教える資格がないんですよ」

「資格? 免許制度みたいなものがあるんですか?」


「う~ん。そういうわけではないんですが、資格がない人から教わって、手に入れることは絶対にできないんですよ。あ~、絶対は言い過ぎですかね。超ド級の天才であれば、有資格者からの継承なしで独自に生み出すこともできるかもしれませんが。どっちにしても、資格ががない人は教えようがないのはおんなじですね」


 それはさすがに俺でも無理だな。

 俺は教わって自分の能力を伸ばすのは得意だけど、オリジナルの魔法を次々に開発するほどの力はまだない。

 それって、おそらく何十年も魔法について研鑽を積んだ奴が初めて到達できるような次元の話だろう。

 高校数学で高得点が取れるのと、数学者になって新しい数式を発見するのとの違いみたいなものだ。


「とにかく、継承方法については実際に概念魔法が使える方から聞くのがいいかと思います。その人のほうがより詳しく知ってる可能性も高いですし。ただ、教えてくれる可能性は限りなく低いですから、そこは期待しないほうがいいですよ」


「はい。それ以外にも俺の知らない魔法を姫はたくさん知ってるみたいなんで、それを一つ二つでも手にできたらって思ってます」


 勉強の中には本などで学習していくことで手に入れられるものと、人から直接に学ぶしかないものとがある。姫からは後者を学べればと思っていた。


 夜の自主練習に関しては、姫を守る意味もあって、攻撃魔法を中心に行った。とくによりピンポイントな範囲を狙えるように気を配った。怪しい奴を確実に仕留める必要があるからだ。


 護衛をやるからには学生なんですなんて甘えは許されない。まず護衛を殺そうとしてくる奴もいるかもしれないし、敵を確実に倒す力がないと話にならない。


 そして護衛初日はすぐにやってきた。

 姫が概念魔法を使う頻度が高いから当然と言えば当然だ。


「護衛の手順だが、まず何者かに追われてないかを確認し、その次に姫様を守る者は残り、もう一方が庭園に怪しいものが潜んでないかを確認する。それが終わったら、全員で姫様と一緒に庭園に進む」


 タクラジュがそう説明した。ただし、リボンの色を交換されたりしていないことを前提にしているが。顔でタクラジュとイマージュの違いを見分けることはまだできない。黄色はタクラジュで青はイマージュと覚えている。


「島津にはまず庭園を調べるのについてきてもらう。そのあとで、姫様のところに戻ったら、庭園を少し進んだところで待機し、入ってくる者がいないか監視してくれ」

「わかった。ちゃんとやるよ」


 今度はイマージュのほうがヒモのついた小さなホイッスルを俺のほうに差し出した。

「何か危機があったら、これを吹け。厳戒態勢をとる」

「わかった。どうせなら吹かずにすめばいいんだけどな」

「今のところ、吹いたことはないな。そもそも夜に庭園を訪れる命知らずな奴はまずありえないから、人間と遭遇することもほぼない」


「命知らず? それはどういう意味だ?」

「この庭園の池はかなり深いところもある。しかも湧き水のせいか、水もかなり冷たい。もし、夜に一人で散歩でもして転落すると助からない。これまでも数名の溺死者が記録されていて、足を踏み外しやすい夜の散歩はまずありえないのだ」


 たしかに姫が体をつけていたのは例外的に浅いところだったように思う。


「その溺死者がお化けとなって顔を出すという噂まであるぐらいだからな。まともな人間なら夜の散歩など絶対にせん」

「おい、イマージュ、そういう怖い話はやめろ!」

 タクラジュが体を自分の腕でかき抱くようにして、文句を言った。

「タクラジュ、お前は怖がりすぎる。まったく、情けないな」

「しょうがないだろ! 目に見えぬ者は……た、倒しようがないのだからっ!」


 やっとこの二人の違いがわかった。

「二人の見分け方、わかりましたでしょう」

 姫様も楽しそうに俺のほうを見つめた。

「はい、今度から活用します」


「や、やめてくれー!」

 タクラジュは本気で嫌がっているようだ。


「逆に言えば、だからこそ、姫様はこの庭園を使っているわけだ。しょっちゅう誰かとかち合うような場所では秘密は守れんからな。ここなら誰かと遭遇しても、相手がお化けと見間違う。姫様を見てもきっと溺死者のお化けと思うだろう」


 冷静に考えれば、夜にこんな水の中につかっている人間がいると考えるわけないもんな。まして、お化けの話があるなら、それを信じるはずだ。

 姫をお化け扱いするのは不敬だけど、この場合、姫と気づかれないことが最重要なのだ。


 これにて口頭でのレクチャーはおしまいだ。

 ここからは実地で教わる番だ。イマージュと一緒に庭園を移動する。タクラジュは一人で庭園を進むのはあまり気が進まないらしい。


 ただ、イマージュの動きはとにかく隙がなくて、気を抜くとどんどん離されてしまう……。


「島津、遅いぞ。動きにあまりにも無駄が多い!」

「そんなこと言われても……」


 これが魔法剣士の実力なのか……。

 俺はどうにかついていきながら、人が潜みやすい場所を教えてもらった。

 これは実際の戦闘でも意味を持つな。ある種の訓練だ。ありがたく活用させてもらおう。


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