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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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30 レアな魔法の使用者

 また、「「ふんっ!」」と双子の魔法剣士は腕組みして顔を背けてしまった。

 う~む、姫の護衛が不仲でよいのだろうか……。


「この二人は幼い頃からケンカをずっとしてきて、それでその才能を開花させたんですよ。すぐ近くにライバルがいたというのは幸せなことですね。自分を磨くのにこれほど良い環境はないですから」

「なるほど。そういう考え方もできるんですね……」


「生意気な妹を倒すために魔法も剣技も全力で学んだのだ」

「姉不孝な妹を倒すために魔法も剣技も全力で学んだのだ」


 タクラジュとイマージュが同じようなことを言った。こいつら、相手を出し抜くために相当気合入れて学んだんだろうな……。


「さて、話を戻しますね」

 こほんと姫様はかわいい咳をした。


「わたくしが使っている魔法が知られていないのは無理もありません。おそらく、教官助手の立場では、まだそれに関する知識も手に入れられないでしょう」

「つまり、門外不出の魔法ということですね……?」


 ありえないことではない。すべての魔法が本に書いてあると考えるほうが不自然だ。一部の魔法使いだけが伝承するような魔法もきっとあるだろう。


「エルドラードという魔法は概念魔法なんです」

 言葉では知っていたが、それの使用者に出会えるのはこれが初めてだった。


 概念魔法――魔法の大半を占める現象魔法とは異なる、この世界のルールを書き換えてしまうような魔法だ。

 その分、使用者は極めて少ないし、おそらく教官のヤムサックでも一つも使えないと思う。


「わたくしが使うエルドラードは怒りや憎しみといった負の感情自体を抑えてしまうのです。より具体的に言えば、この城とその城下一帯まで、突発的な暴力が起こりづらくなります。ほとんどの傷害事件は、ついカッとなって相手を殴ったり斬りつけたものですから、これでそれなりの平穏が保たれるというわけです」


「そんな広範囲に作用するんですか……」


 半径二十メートルとか三十メートルとかって次元じゃないぞ。


「たしかに広いですね。だから、この湧き水が出ている池で使っていたんです。水自体がわたくしの魔法で聖別されますから、その水が流れていく場所に影響が及ぶんですね」


 なるほど。湧いた水もたまり続けるなんてことはなくて、どこかに流れていくからな。


「もちろん、感情を完璧にコントロールすることまではできません。あと、防げるのは突発的な怒りぐらいまでです。計画的な犯行や生来的な悪心は、人間が理性で行っているものなので、止められません」


 そうか、悪人が一切いなくなるような効果があったら、俺が亀山に狙われることもなかったはずだもんな。

 あいつらが俺を狙ったのは間違いなく当初から予定していたものだった。そういう頭で考えて選択された行動までは概念魔法も効き目はないんだ。


「姫様はこのエルドラードを二日に一回は使用しておられるのだ。すべては城と城下が平和であることを願ってのもの。その慈悲の心に感謝するがよい」

 タクラジュがドヤ顔で言った。


「事実、城下で起こる傷害事件は人口規模で見てもかなり少ないのだ。その落ち着いた環境を求めて、この地に移り住む者も多いのだぞ」

 今度はイマージュが言った。どうやらどっちかが何か言うと、もう片方も対抗してしゃべらずにはいられないらしい。


 けど、こんな魔法が実在するなら、そりゃ、偉そうな顔をしてもいいだろう。まさに国民に貢献している魔法だからだ。


「姫が民を思いやる心をお持ちなのは感じていましたが、本当にそうだったんですね」


 俺は心からそう言った。お世辞抜きでカコ姫は偉い。


「民のためにならないのであれば、王家は存在する意味がありませんからね。民を苦しめるだけの王家が尊敬を集めるというのは不合理ですから」


 わざわざ初対面の人間の前で、民などどうでもいいとは言わないかもしれないが、姫が人格者であることは間違いないだろう。しかも、口だけなんじゃなくて、この人の場合、有言実行している。


 これは次の王様候補と目されるわけだ。

 最低でもこの姫が王になって、国が揺らぐなんてことはそうそう考えられない。


「ただ……残念なことにわたくしがこの概念魔法を使うのは民のためだけではないのです……」


 姫の表情が曇る。


「どういうことでしょうか?」

「突発的な事件が起こりづらいということは、それでも何か事件が起こった場合、それはかねてからの悪心が原因だということです。その環境下で殺人事件があったとすれば、それは口封じだとか陰謀だとかいったものとつながっていることがわかりますね」


 かなり血なまぐさい発言が姫の口から飛び出した。

 そして、姫は自分の胸に手を置いた。


「わたくしを除きたい者、あるいは父である王を除きたい者も、きっといるはずです。そういう者の痕跡を早くに見つけ出すことができれば、大きな事件を事前に防ぐこともできますから」


 ああ、この姫様は理想論だけで生きてるんじゃなくて、現実も見据えているんだな。


 けど、一点だけ突っ込みどころがあった。

 わざわざ言うのもどうかと思うけど、黙っておいていいことじゃないんだよな。


「ですが……そのことを考えていた姫様が俺に接近を許しちゃったのって、まずくないですかね……? そこで姫が、その……身を害されてしまったら、何にもならないというか……」


 姫の顔が真っ赤になる。

 あと、それだけじゃない。侍女二人の顔はさらに真っ赤だ。この二人にとっても護衛に失敗したわけだから、責任問題だもんな。


「その……まさか庭の正面から堂々と賊が来るとは予想していなかったのだ……。来るとしたら庭の奥、繁みにでも隠れているはずだと思って、そちらを警護していた……。正面は妹のイマージュがやると考えていた……」

「私も正面からバカ正直に賊が侵入すると考えていなかった……。正面は妹のタクラジュがやるとばかり……」


 こいつら、全然、連携取れてないぞ!


「姫様、今回の責任は妹のイマージュにあるので首を斬るべきかと」

「姫様、すべては妹のタクラジュが悪いので首を斬るべきです」

「お前ら、身内に責任押し付けて殺そうとするなよ! そこはかばえよ!」

「「賊であるお前が言うな!」」


「なんで、そこだけハモるんだよ!」


 とにかく、間違いないのはどっちかの責任にしても無意味ということだ。


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