2 かわいい先生がいれば頑張れる
今回、赤ペン精霊が登場します!
「みんな、選んだな。じゃあ、魔法の授業を始めるぞ!」
こうして、俺たちのハルマ王国での授業がスタートした。
「つまり、魔法というのは現象魔法と概念魔法に大別され、さらに細分化されていく。なお、国によっては、分類法を変えているところもあるが、このため、他国の魔法使いと我が国の魔法使いでは使用する魔法に違いが生じるといったこともあり――」
授業内容は、思った以上に高度だった。
ヤバい……。これ、いきなりついていけないかもしれない……。
高校に入ったばかりの時に似てると思った。
俺がなんで成績が悪いのか。
進学校に進んでしまったからだ。
中学での成績はよかったから、行けなくもない学校だった。俺は通信教育のゼミを受けていたが、そこでの勉強がかなり自分に合っていたのだ。添削してくれる先生のアドバイスもすごく親身でうれしかった。
そこまで友達が多いほうじゃなくて内気な俺にとって、中学での成績がいいことは一つの武器だった。そのおかげで堂々と振舞えていた部分もあるし、どちらかというとおとなしいタイプの奴とはよく友達になれた。
だけど、高校に入ると、周囲は勉強ができるのが当たり前で、俺は成績でも下になった。それで、自信を持てるものがほぼなくなってしまったのだ……。
間に休憩をはさんでの二時間の魔法の座学のあと、小テストが行われた。
たとえば、こんな問題だ。
●問3 攻撃魔法において重要なのは( )と( )である。<両方あって正解とする>
なんだ? 一つは多分、威力だよな……。もう一つは何だ?
●問6 詠唱が速いが発音に難がある場合と、詠唱が遅いが発音は比較的正確である場合、どちらのほうが威力が出やすいか。また、一般に魔法使いは実戦でどちらのほうを選択するべきか答えよ。
ヤバい……。まともに聞いてなかった……。
●問9 炎熱に関する攻撃魔法を、名称で5つ以上答えよ。
えっ? そんなに名称あったっけ? ああ、 なんか言ってたな……。でも、個別に覚えてないや……。
そして、ちりんちりんとヤムサックが小さな鈴を鳴らした。
「はい、そこまでー。採点をするから後ろから回してくれ。じゃあ、休憩とする」
休み時間の後半、ヤムサックがやってきて、教室の後ろに成績表をいきなり張り出した。そんなたいした時間じゃないぞ。手際よすぎるだろ。
「やる気を促すため、成績は掲示するからな。覚悟しておくように」
俺の成績は20点中3点。
2点の奴がいるから最下位じゃなかったが、似たようなものだった。
これはまずいことになったぞ……。
――と、ぽんぽんと肩を叩かれた。
上月先生だった。
「大丈夫、大丈夫。間違って悔しいところはかえって記憶に残るものだから。一緒に頑張ろう!」
ああ、先生、なんていい人なんだ! 結婚してほしい!
ちなみに上月先生は16点だった。八割方できているのか。やはり、大人!
そして、今度はヤムサックが話しかけてきた。
「少年、くよくよする必要はないぞ。あくまで、これは座学の結果だ。魔法にも実習があるし、剣技の授業もある。挽回するチャンスなんていくらでもあるのだ」
ああ、励ましてくれてうれしいんだけど。
俺、実技はもっと苦手なんだよな……。
そのあと、昼食をはさんで、剣技の授業になった。
剣技はまた別の教官だった。いかにも剣士といった筋骨隆々の男だ。
「教官のスイングだ。まずは木剣の素振りからな。正しい型を覚えないと強くなれんからな!」
素振りのあと、体力をつけるためということで、王城の庭を走らされた。
こういうのは本当に得意じゃないので、かなり遅れてしまった。
ふらふらになって男子ではケツから二番目にゴールした。
教官が近づいてきた。怒られるかな……。
「お前は体力がないんだな。まあ、それなら魔法使いを目指せばいい。無理に剣士になるだけが道じゃないぞ」
「あ、ありがとうございます……」
ぶっちゃけ励まされるほうがきつい。
俺、どっちもできないかもしれないんだよ……。
日が経つにつれて、俺の成績がどれも悪いのがはっきりしてきた。
魔法の実技も微妙だった。なにせ魔法は大量の知識を詰め込んでそれを実践するようなものだから、知識がうろ覚えではどうしようもないのだ。
クラスからはバカにされることはないが、その代わり、ほとんどいない人扱いになっていた。俺が恥ずかしくてどこのグループにも入れないこともあるが……。
そんな中で上月先生だけがフォローしてくれた。
「最初は遅れをとることもあるよ。でも、諦めずにやればどうにかなるから!」
その優しさが痛い……。
でも、その時、妙案が浮かんだ。
そうだ、上月先生に補習をお願いしたらいいんじゃないか?
もうすぐ二度目の休養日(つまり、日曜日みたいなもの)が来る。その時に部屋で二人きりで教えてもらうのだ。これって最高じゃないか!
「補習で二人きりとか絶対ダメだからな」
俺の横を通りがかった亀山って男子に言われた。ちょっとチャラいタイプだ。
「無能な奴がおいしい思いするのは、おかしいだろ。それが社会の常識ってもんだ」
そうか、俺が先生と仲良くなった瞬間、俺は人畜無害から有害にランクアップ? するのか。
ダメだ。ここでクラスメイトから絞められるようなことになったら、異世界で生きていけない……。
「わからないなら、先生が教えてあげようか?」
「き、気持ちだけ受け取っておきます……」
上月先生とのフラグが立てられない!
●
そして休養日になった。
男子も女子もグループで寮を出て、城下町を遊び歩いているらしい。
俺はどこのグループにも属していないから、自分の部屋でじっとしていた。
草食系の雰囲気を出してる男子のグループに入れてもらうことぐらいはできるが、奴らはかなり勉強はできる。日本にいる時から大学受験の話題を普通にしていた。俺がいたら、やっぱり場違いなのだ。
それに少しでも勉強して追いつかないとまずいというのも事実だ。
異世界転移したのに、最下位の立場とか嫌すぎる。
しかし、教科書を開いても、とにかく難しい。
この世界に来た時点で、こちらの言葉は認識できるし、言語も日本語みたいに書けるのだが、日本語で書いてる教科書だって読む気が起きないようなものだ。なかなかつらい。
「孤独だな……」
誰か教えてくれる人がほしい。
こんな俺でも横にかわいい女の子や美人の先生がいてくれたら、やる気だってアップするだろうに。
「教科書読むだけじゃダメだな。手を動かして覚えないとな……」
俺は机に置いていた赤いマナペンをぎゅっと握った。
「あ~、かわいい系でも美人系でもいいから先生来てくれ!」
「わかりました!」
白い煙のようなものが出た。これはおそらく魔法の効果が出た時に発生するもののはずだ。授業で習った気がする。
そして白い煙が消えていったあとには――ピンクの髪をした女の子が立っていた。
「この赤ペンの精霊、アーシアが教えてあげましょう!」
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