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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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27 アーシアとの青春談義

 俺の前に光の盾が現れる。


 マジック・シールド――敵の魔法による攻撃を防ぐ。防御範囲は広くないが、自分に直撃するダメージをかなり軽減できるので、魔法使い同士での戦闘ではよく使われるという。


「マジック・シールドが無詠唱で使えるようにまでなりましたね。はっきり言って、もう戦闘をやっても構わないぐらいの力はついているんじゃないかと」


 その日の夜も俺はアーシアに魔法を見てもらっていた。

 無詠唱が初めて成功してから一か月ほどが経っていた。魔法使いとしては一流とまでは言えないまでも実戦レベルには到達しているはずだ。


「もう、すでにプリントの内容では二年目の範囲もほぼ終わっていますよ。つまり、有事の際には戦場に出る許可がおりるぐらいの実力ということです。二年目でひとまずの授業内容は終わりますからね。過去に召喚された異世界の方もここから先は個別指導ということになります」


 だんだんとアーシアの俺への態度も、生徒に対するものというより、プロの魔法使いに対するものというのに変わってきた気がする。


 俺も一から知らないことを教わるというより、技術的な向上に関してのアドバイスを受けることが多くなったと感じている。


「でも、これぐらいのことができるようになってれば、そりゃ、戦闘だってできるか。手前味噌だけど、この程度の魔法使いが一クラス分いたら、かなりの脅威になる」



「あ~、それはちょっと違いますね。たとえば、時介さんが元の世界にいた時、テストでほぼ満点ばかり取っている人が全体の何割いました?」

「片っ端から満点なのが当たり前だったら、みんな最高学府に受かるだろうし、全体の一割もいないんですかね……」

「つまりそういうことですよ。授業内容はこのあたりまでだとして、それをほぼ完璧にマスターできている生徒さんはほとんどいないんです。そんな人でも魔法使いとして軍隊に編入されたりするんです」


 大学入試で六割や七割の成績でも、たいていは合格ってことになるもんな。


「だから、時介さんは超優秀なわけです。時介さんのような力は二年間の勉強を終えた後に、自主的にどうにか手に入れる範囲のことなんですよ。しかも、それだけのことを時介さんは無詠唱でやれていますから」


「ありがとうございます。これもアーシア先生のおかげですよ」

「う~ん……。うれしいお言葉なんですけど、一概にそうとも言えないんですよね」

 アーシアは腕を組みながら苦笑してみせる。


「だって、時介さん、かなりの時間、自主練習につぎ込んでますよね? 私が教えている時にはできてなかったことが次の実習には最初からできてるってこと、最近とくに多いんですよ」


 見事に見抜かれていた。


「あっ……寝る前に時間を限ってやってます……」


「やる気なのはすごくいいことなんですけど、睡眠時間は確保してくださいね。体調が万全でないと実力も半減しちゃいます。そこはペーパーテストと同じですよ」

「はい、六時間半は寝ることにしてますから」


 強くなりたいからっていうのもあるけど、単純に成長がわかると張り合いもあって面白いんだよな。趣味とか娯楽とかいったものでもある。


「では、今日はこれで終わりにしましょう。そのうち、これまでの成果を確認する大型テストも実施しましょうかね」


「はい、望むところです」

 それがある種の卒業試験になるのかな。


「ああ、それと、時介さんにはそろそろ言っておくべきかもしれませんが」


 アーシアは少し真面目な顔になって、こほん、と小さな空咳をした。


「時介さんの実力がついてきたことで、なんらかの政治勢力が時介さんに接触をはかってくることもあります。その時は細心の注意を払ってくださいね」

「今、国が不穏だって話のことですかね?」

 サヨルさんが前に語っていたことを思い出した。


「それもありますし、一般論でもあります。時介さんは成績優秀とはいえ、まだ学生です。学生の本分は勉強することであって、政治活動に身を投じることではありませんから。それに、なんらかの派閥に入れば、敵対する派閥に命を狙われる恐れも増大しますし」


 アーシアが本気で俺の身を案じてくれているのはすぐにわかった。


「過去に時介さんはクラスメイトに襲われましたよね。あれがもし政治的なものだったら時介さんは殺されていたかもしれません」

「ですね。気をつけたいと思います」


「とはいえ――」

 そこでアーシアの表情がまた、からっとしたものに切り替わる。やっぱりアーシアには笑顔のほうが似合うと思った。

「最後に決断するのは時介さんですからね。どうしても、自分はこうしなきゃいけないと思ったのなら、それを信じて行動すればいいんです。だって、学生って青春の時期じゃないですか!」


 ぐっと両手を握り締めてアーシアは力説する。


「そうですよ! 青春ですよ! 恋に情熱を傾けるのも、自分の夢に突き進むのも、学問で上の上を目指すのも、どれだっていいんです! 燃え上がればいいんですっ! それが青春というものですからっ!」

「先生、面白いですね。あと、やっぱり先生って、同い年ぐらいに見えるけど、長く生きてるんだなと思いました」

「へっ? どういうことですか?」

「だって、リアルに青春を過ごしてる人間って、そんなに青春を連呼しないですよ」


 すると、アーシアもそのピンクの髪に頬を染めた。あっ、こんなふうに照れることもあるんだ。


「お、おばさんってわけじゃないですからね! 精霊はこういうものなんですっ!」


 ところで、恋と学問はどういうものかすぐにわかるけど、俺の夢って何なんだろう。

 単純に、今より強くなるとか成長するっていうのは目標や目的であって夢とは違うよなあ。

 あっ、そうか。

 誰かを守る力を手に入れること、つまり、誰かを守ることだ。

 サヨルさんが後輩の俺を本気で心配してくれた時にそう考えた。


 力は手に入ってきたと思う。問題は、それで具体的に誰を助けるか、だよな。


 もちろん、誰も助ける必要がないぐらいに平和だったらそれが一番いいんだけどさ。


「時介さん、それでは今日のところはこれにて! また明日お会いしましょう!」


 ぱっと、アーシアは消えていった。

 俺はアーシアの宿っているマナペンがポケットに入っていることを確認して、一度部屋に戻ることにした。今日も寝る前にもうちょっとだけ練習するか。

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