26 王国の情勢
今回は今後の伏線的な話です。
「今、ハルマ王国は公的には平和な状態にあるわ。周辺国とも戦争もしていないし、それどころか、同盟関係を結んでるぐらい」
「ということは、非公式だとあまりよくない状態ってことですね?」
サヨルさんがうなずく。
「そういうこと。この国では王様は政治的混乱を小さくするために存命のうちに子供に位を譲るのが一般的で、今の王様、ハルマ24世もそろそろ王位を譲ることを検討されてらっしゃるわ。その候補が一人に決まってはいないのよ」
少し、サヨルさんは声を小さくした。
あまり堂々としゃべっていいことではないのだろう。
「第一候補は長男の皇太子ね。ただ、この皇太子はあまり出来がよくないの。それで、カコ姫を王にすべきじゃないかという声も大きいのよ」
俺たちがこの国に飛ばされてきた時にも出てきたお姫様か。王族なのに腰が低くて、俺たち異世界から来た人間の待遇をよくするようにとさんざん言ってきてた人だ。
たしかにあの人はとても先見の明がありそうというか、英邁な君主ってイメージがある。一回会っただけだけど、少なくとも権力をかさに着るような人間ではない。
「それで、両陣営が対立してるのよ。自分が応援する側が王様になるかどうかは、自分の将来にも大きく関わるから当然、貴族や重臣も力が入ってる。逆に言うと、大きく国が分裂する恐れもあるの」
「なるほど。意味はわかりました。そこでもしほかの国が介入してきたりすると困りますね」
「やっぱり、あなたは優秀ね。その危険すらあるのよ。もし自分が応援するほうが王になれば、大きな恩も売れるしね。とくに隣り合ってるセルティア帝国は何か仕掛けてくるかもしれない」
その国名ぐらいはさすがにすぐにわかった。歴史や地理も多少はアーシアのプリントで習っているのだ。
「セルティア帝国といえば、かつてこの大陸の大半を支配していたこともある大国家ですよね」
「厳密には『元』大国家ね。今はハルマ王国と大差ない国力を持つ一つの国家でしかないわ。昔の通例として、今でも君主は皇帝を名乗り続けてるけど」
大国家が分裂して、いくつかの異なる国家になった。よくあることだ。そして、今の大陸も基本的にはそういう構図になっている。現代人には大国家があったなんて意識はもう残ってないだろうが。
「かつての大国家が再び領土を拡大する野望を抱いていても、そんなにおかしくないですよね」
「そういうこと。事態が激変することを恐れてか、ハルマ24世も後継者を明言してないけど、だからこそ、さらにもめるかもしれない」
俺も声をこれまでより一段階落とすことにした。ここから先はいよいよ不敬なことになるのはわかりきっていたからだ。
「そんな状態でもし、王様が殺されたりしたら大混乱になりますね。次の王をどっちにするか決まってないわけだから殺し合いになる。俺のいた世界でもそれで内乱に突入したケースを知ってます」
たとえば上杉謙信が急死したあとの越後とかな。二人の養子がつぶしあって、国力が大幅に落ちた。どうにか統一した後もかなり弱体化していて、危うく滅ぼされかけた。
「ほんと、そうなったら最悪ね。なんとか、今の状態が二年はもってもらいたいんだけど……。話はこれでおしまい」
サヨルさんはぱっと表情を明るいものに切り替えた。
現時点では漠然とした不安のレベルだし、すぐにどうこうできるものでもないしな。
しかし、自分を高めていくことしか考えてこなかったけど(学生だからそれが正しいことではある)、自分が所属している国家自体がトラブルに遭うってことも、たしかにありうるな……。
でも、今は自分が強くなっていくしかない。俺が王様に何か言いにいく権利も効力もないんだから。
できるだけ早く、補助系の魔法も多めに習得しておこう。それができるかどうかで柔軟性が変わってくる。
俺は再び、気合を入れなおした。
●
そして、授業のほうでも、もう一つ大きな変化があった。
それは剣技でついに木剣を使っての模擬戦が始まったのだ。
あくまで木剣だし、剣というより棒といったほうが正解に近いようなものだが、それでも少しずつ剣士になるためのカリキュラムが進んでいるのは事実だ。
これまではずっと木剣での素振りやランニングだった。つまり体力をつけるメニューが中心だった。やっと、戦闘の真似事が始まったのだ。
俺はそっちの方面は正直言って、まだ全然だった。
兜をかぶっていたとはいえ、初日から三発ほど頭を叩かれた。それだけ隙が多いということだ。もし、戦場なら斬り殺されていたかもしれない。
「どうやら、魔法の天才も剣技は難しいようだな。そのほうがみんなもやる気が出てくれるから悪いことではないんだけどな。すべてぶっちぎりだとみんなやる気を削がれる」
そう言って剣技教官のスイングは笑っていたし、実際クラスメイトも「島津が弱くて、ちょっと安心した。剣技でも無双されたら勝てるものが残ってない」とか冗談半分で言ってたけど、俺としては当然こっちも強くなりたい。
魔法剣士になるには剣技も鍛えないといけないからだ。
だけど、それはあくまでも先のことだ。今は魔法を極めにかかったほうが絶対にいい。中途半端になってしまうと、一番よくないことになるからな。
無詠唱魔法もコツがわかってきたのか、かなりハイペースで習得できてきている。
今、習得を目指しているのは、敵の魔法を無力化したり妨害するタイプの補助系だ。これをしっかりマスターできれば、実戦でも相手魔法使いに対して遜色なく戦える。少なくとも、勝てるチャンスが生まれる。
周辺一帯のすべての魔法の威力が半減するとか、そういう魔法もこの世界には存在する。そんな広範囲に機能する魔法を使われた時、攻撃魔法だけでは手の打ちようがない。
目指すは魔法使い対魔法使いの戦闘で勝利できる力だ。それがなければ、実戦に出ることはかなわない。出ること自体はできても、相手の魔法次第で、あっさり殺される恐れもあるからだ。
しばらくは無詠唱での魔法数強化だな。
二日前に新連載はじめたばかりなのに、某ゲームのネタに乗っかって「エレメンタルGO この世界で私だけ精霊の居場所が見える」という出オチ的な連載を始めました(笑)。更新ペースがまずいことになってますが、努力します! よろしければご覧ください! http://ncode.syosetu.com/n9585dk/
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