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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編
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1 異世界でも授業

「一言で言うと、君たちには勉強をしてもらう。勉強こそが君たちの仕事じゃ」


 みんな、きょとんとした。


 てっきり、魔王軍と戦ってくれとか言われるのではと思っていたが、勉強。


「すでに王宮魔法使いのヤムサックが簡単に説明したかもしれんが、君たちの体には大量のマナが入っておる。個人差はあるが、それでもこの世界の平均よりははるかに多い。そのマナを魔力にそのまま転用すれば魔法使い、運動能力に利用すれば立派な剣士になれる。君たちは才能のかたまりじゃ」


 どうやら、マナというのは個人が持ってる才能みたいなものらしいな。少なくとも、魔力そのものではないらしい。


 そこで、こほんと王様のハルマ24世は空咳をした。


「しかし、才能がどんなにあろうと、剣を持ったこともない男は二流の剣士にも絶対に勝てんし、魔法の唱え方を知らぬ子供は程度の低い魔法すら使いようがない。そこには教育が必須なのじゃ。なので――教育を受けてもらうというわけじゃ」


 このあたりの論理はけっこうわかりやすい。未経験者じゃさすがに経験者に勝てないからな。


「ちなみに元教師の人もいるようじゃが、その方も生徒の側になってもらうのでよろしくな」


「えっ、私も教育を受けるんですか!?」


 上月先生の戸惑った声に笑いが起こる。


「先生と同級生! いよいよ恋愛フラグ立ったか!」

「バーカ、先生を奪ったらほかの男子に殺されるっての」

「俺たちのアイドルは清いままがいい! むしろ、まだ清い体であると俺は信じてる!」


 なんか、しょうもない声が飛んでくるが、まあ、いつものことだ。たしかに教師二年目の上月先生は俺たちのアイドルだからな。


「勉強場所はあとで案内するが、できるだけ君たちの学び舎に近づけておる。そこで魔法と剣技の勉強をしてもらう。競い合ってもらうほうが伸びるので、テストも実施する。週に一日は休日も用意するし、その時は羽を伸ばしてくれい」


 たしかに待遇はけっこういいな。


 そのあと、生活の場である寮や起床時間や食事時間の説明などが行われて、だいたいの話は終わった。


 だが、解散の前に声がかかった。


「すいません、少しお時間をいただけませんか」


 俺たちと同い年ぐらいの女の子が玉座の横にまでやってきた。ということは王族か。

 みんなの目が釘付けになる。わかりやすいぐらいに正統派の美少女だったからだ。彼女だと言われたら男子が百人中百人うらやましがる容姿だった。


「姫のカコです。このたびは皆さんに多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……。せめて、皆さんの生活が困らないように細心の注意を払いますので、どうかお許しください……」


 まるで企業の謝罪会見かというぐらいの平身低頭ぶりだった。

 いえいえ、俺たち気にしてませんからと言いたいぐらいだ。


「カコ、お前、いつもながら王族なのに腰が低すぎるぞ」

 王もさすがに困惑したらしい。

「いいえ、もしどこかの王国の村から子供を三十人さらってくれば、王国の評判は間違いなく地に落ちるでしょう。王国のためとはいえ、人倫にもとる行為であることは認識しておくべきです」


 こういう高位の人って性格悪いイメージあったけど、全然そんなことないな。間違いなく善人サイドだ。


 これはなかなか暮らしやすい異世界生活になるかもしれないな。


 待遇は本当によかった。

 まず、寮は一人一室。広さで言えば六畳一間ぐらいだったが、三人一部屋なんて詰め込まれ方をしてないだけマシだ。


 飯も味付けは日本と違うが、ちゃんと三食出るし、風呂も寮の地下に大浴場がある。


 これなら異世界でも生きていけそうという声がけっこう聞こえた。


 しかし、問題は翌日から生じた。


 そう、授業がはじまったのだ。



 教室には俺のクラス三十人プラス上月先生を入れた三十一人分の席がある。


 席は名前順だったが、島津時介という名前はちょうど部屋のド真ん中ぐらいだった。


 ヤムサックという最初に俺たちが出会った魔法使いが魔法の教官もやるらしい。


「では、出席をとるぞ。これからは教官と生徒の関係だと思ってほしい」


 やがて、俺の島津時介の名前も呼ばれたので、「はい」と答える。

 そのうち、全員分の出席がとり終わった。


「では、まず、筆記具を君たちに渡す。この世界ではマナペンという筆記具を使う。君たちの世界では筆記具を大量生産していたようだが、この世界ではそういうわけにはいかないのでな。大事に使ってくれよ」


 ヤムサックは木彫りの細い棒を取り出す。真っ赤なので結構目立つ。

 たしかにペンみたいに握りやすいサイズだが、あれでどうやって書くんだ。


「人間には必ず微量でもマナというものが流れている。このマナペンはそれに感応して紙に文字が書ける道具だ。インクと違ってなくなることがないので、いつまでも使える。では、各自一本、取りに来てくれ」


 こんな時、真っ先に行けないのが俺だ。

 ヘタレと言えばヘタレなんだよな。


 はっきり言うが、俺のクラスでの地位は高くない。

 理由は俺にほとんど得意分野がないせいだ。

 高校の成績は中の下というか、下の上といった感じ。

 得意なスポーツもなくて、帰宅部。

 顔は普通だと思うが、成績のせいで自信があまりないから覇気がある印象もない。


 あと、クラスでの友達もほとんどいなかった。


 これでヒエラルキー的に上に行けると考えるほうが無理がある。


 高校にまでなると、いわゆるイジメみたいなものもほぼなくなるが、俺みたいなタイプは単純にスルーされるのだ。誰からも注目されずに生きている。


 そういう後ろめたさもあって、マナペンを取りにいくのもほぼ最後になってしまった。


「おっ、かなりきれいなの選んでるじゃん!」

「これ、グリップ部分が握りやすかったんだよ!」


 みんな、見た目も美しいマナペンを選んでるなか、俺が箱を見た時にはボロっちいのが三本しか残ってなかった。


 かなりの年代物だな……。この世界でペンが消耗品じゃないというのは事実なんだろう。


 そして、まだ選んでなかった残り二人もペンをとっていって、俺に残されたのは最後の一本になった。


 ラスト三本の中でも一番ボロい。これ、力入れて握ったら、折れるんじゃ……。


 しょうがないか。

 これにしよう。


 ほら、残り物には福があるって言うしな。

 きっと、このマナペンが一番いいんだよ。そういうことにしよう。

次回、残り物に福があったことがわかります。精霊が出ないと話がはじまらないので、すぐに更新します。

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