110 帝都到着
俺たちは帝都へ入る旅に出た。というより、集落から逃げ出したといったほうが正しい。
適度に変装して、三々五々、帝都へ向けて進んでいく。
道は、隠者の森教会のメンバーが詳しかった。人通りがまずなく、かつ歩いているからといって怪しまれない、ほどほどの道を教えてもらっている。
俺は姫に、イマージュ・タクラジュ、それとサヨルと行軍している。
途中、王国の情勢がもちろん気になるので、サヨルにいくつも聞いた。もちろん、大きな声では聴けないが。
「王国は善戦していると言えるわ。ただ、それは結局、剣士同士の小競り合いなのよね」
サヨルはさばさばとした調子で言った。
「強力な魔法使い一人で戦局なんて簡単に覆るからなんとも言えない。ただ、魔法使いは魔法使いで今のところは食い止めてるわ。向こうも本当に優秀なのは自国にとどめてるし。でないと私たちみたいなのが来たら終わりだからね」
たしかにとそうだ。魔法使い一人を誰も止められないなんてこともこの世界だとある。だとしたら、帝都のあたりに重要な魔法使いは固められるのか。
「といっても、一気に帝都が落ちるなんて誰も思ってないわ。こっちが狙うのはそこ。その油断」
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帝都は王国の王都より二回りは大きかった。
ただ、活気があるかというと、怪しいところがある。こぎれいだけど、人通りはそうでもない。
「かつてはもっと人口があったけど、帝国の規模が小さくなったことで、人も減ったらしいわ。そのせいか全体的に陰気なのよね」
サヨルの言葉は的を射ていると思う。どうも、負の空気みたいなものを感じる。
それと、戦時中だからか、軍人の数が多い気はする。とはいえ、威張っているのでもなく、得意そうなのでもなく、やっぱり幸薄そうな顔になっている。
その帝都の北に城がそびえている。平地ではなく、小高い丘をそのまま要塞化したような建物だ。
あれに侵入して、帝国を落とす。
平地じゃない城に潜入するのは難易度も高いけど、それでもやる。敵もまさかいきなり城が攻撃されるとは思わないはずだ。
「まずは、教会の人たちと合流しましょう」
姫は町娘のおのぼりさんというキャラでうろちょろ帝都を歩いている。ここに姫が紛れ込んでいるだなんて信じている奴はいないだろう。
「じゃあ、合流する時間まで一度各自、別れましょ」
ずっと団体で動くと変なので、俺とサヨルは姫の一行から分離する。
せっかくなので、ふらっと酒場に入って、酒とつまみを注文した。昼から飲んだくれているのがけっこういた。
一般市民の話を聞く場としては悪くないだろう。
「戦争はこっちが勝ってるのか?」「勝ってるとしてもこっちの暮らしにゃ関係ねえよ」「それもそうだな」
そんな話が聞こえてくる。
「まさか帝都まで王国の兵士が攻め込むだなんてことはないよな?」「まあ、この帝都にはザイン様がいらっしゃるからな。ザイン様ほどの魔法使いはいないって話だ」
それが帝国最強の魔法使いってやつかな。
「そうそう、精霊付きのザインに任せればいいのさ」「まったくだ」
客の声に引っかかるものがあった。
精霊付き?
それってアーシアみたいな精霊を持ってるってことか?
絶対にないこととは言えない。公言するのも黙っているのもその人間の自由だし。
その精霊がまともな奴ならいいんだけど、亀山の件もあるからな。
邪悪な精霊が力を貸しているとしたら、すごく厄介だ。
ザインという名前に関しては、サヨルからも少し聞いていた。実力者の魔法使いであることは間違いないらしい。けど、精霊付きなんてのは初耳だ。
「あのさ、そのザインってどれぐらいすごいんだ? 田舎から来て、全然知らないんだ」
俺も情報収集に入る。
「ああ、いいぜ。ザインは帝国の学校でトップの成績を修めてたんだ。まだ若かったと思うけどな」
「精霊の声を聴くことで、どう戦うのが最適なのか、すべてがわかるんだとよ。まあ、誰の目にも見えないからウソかほんとかはわからないけどな」
やっぱりアーシアに似た存在だろうか。
俺はポケットを服の上から押さえた。
そこにマナペンが入っているのだ。
「精霊を知ってる魔法使い同士の戦いになるのかもな」
似たものを倒すっていうのはあまり楽しい話でもないけど、しょうがないか。
心配いりません、というアーシアの声が聞こえた気がした。
うん、ここまで来れたんだ。このまま先生を信じて最強の魔法剣士になってやる。
帝国を倒すぐらいのことができれば、神剣を扱えるだけの魔法剣士ってことになるだろう。
「おい、何をぼうっとしてんだ。話聞きたいんじゃねえのか?」
「あ、悪い、悪い。もう一度話してくれないか?」
俺はザインという人間の顔を頭に思い浮かべた。
いつのまにか自分とよく似た顔になっていた。




