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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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99 防御に特化した魔法使い同士の争い

 それからポケットに入っているマナペンをぽんと叩いた。


「それと、立派な師に恵まれたんです」

「立派な師、ですか。それはとてもよい方とのご縁に恵まれたんですね」


 ラクランテさんはその答えで納得したらしい。説明だけなら、そう突飛な内容でもないはずだ。まさか、その師匠が精霊だとは思わないだろうけど。


「そうか! 島津、お前の気持ちに感動したぞ! これからもいい師匠でいるからな!」


 イマージュが自分のことだと思って、やけに喜んでいた……。まあ、喜んでもらって損することはないし、それでいいかな……。


 さて、これで俺たちが二勝したわけだが――


「ラクランテさん、この戦い、いかがいたしますか?」

 姫がほとんど表情を変えずにそう尋ねた。バカにしたような態度を見せて、関係を悪くさせてもいけないので、正しい対応だ。粛々とやるべきことをやるのがこの場合、正解だ。


「そうですね、もう皆さんのお力が確かなものであるということは嫌というほど思い知りましたが――せっかくですし、私ともお手合わせ願えますか?」

「はい、喜んで」


 謁見中にするような、どこか事務的な笑みを姫は浮かべた。


「姫の本気が見られるのか。これは儲けものだな」

 イマージュが心底うれしそうにしている。侍女がその反応なのも当然と言えば当然か。姫がばりばり戦闘をやるわけないもんな。


 一方で、教会側のギャラリーはずいぶん張り詰めた空気を出している。

「恥ずかしい戦いをしてしまいました……」

 俺と対戦した男も責任を感じているのか、うなだれている。


「かまいません。あなたたちの敗北は教会すべての敗北ですから。むしろ、第二巫女として、教会を任されている私の責任ですよ。なので――多少は汚名をすすぐつもりでいます」


 向こうもかなり気合いが入っているらしいな。


「それではお手合わせ願いますね」


 姫とラクランテさんが仮の戦場に出て、互いにうなずき合う。

 静かに、最終試合は幕を開けた。


 はじまりが静かなら、戦闘も誰もいない山中の湖面みたいに、動きがなく行われた。


 両者はともに補助系と思われる魔法を詠唱しだす。たまに発光が起きたりして、魔法が発動していることはわかるが、一歩もそこから動かない。


「姫様と同じタイプの魔法使いか」

 イマージュも真剣な眼差しで様子を伺っている。

 それはタクラジュも同じだ。うんうんとうなずいている。


「まずは自分の守りを徹底して固めているな。隠者の森教会は戦闘を好まないというし、こういうタイプの者が指導者側に来るのは自然だろう」


 俺も姫の魔法はわかる。マジック・シールドに、サンクチュアリ・ライトに、防御に偏重した魔法の連投だ。さらにグレイシャル・ウォールで物理攻撃への対処もしている。

 敵も半透明な膜みたいなものを張る魔法を続けているから、似たようなことをやっているんだろう。


 両者、身を守ることに徹している。おそらく、どちらも大将の立場だからだろう。自分が負けないための工夫がまず必要になる。


 けど、ここからどうやって攻めに転じるんだろう?

 両者は見つめ合って、出方を伺う。

 こういうのは先に仕掛けるとしばしば不利になるから、膠着するかもしれない。


「ご立派ですね。隠者の森教会に加わっていただきたいほどです」

「うれしいお言葉ですね。あなた方も王国側で参戦していただきたいですよ」

「帝国に抵抗しているという点では同じですが、積極的な戦争は我々の考えに反しますので」

「ですね、実に残念です」

 ふっと、寂しげに姫が笑った。

「まったくです。なので、第二巫女として、ひとまずこの戦いを終わらせましょうか。――碧空の中に一つの穴あり」

 聞いたことのない詠唱? のあとに、ほとんど白に近い火球みたいなものが飛ぶ。


 攻撃魔法としては弱そうだし、それじゃ状況の打開にはならないだろうに。

 しかし、その火球はグレイシャル・ウォールの氷の壁をすり抜けて、何かが割れる音を生み出した。


「マジック・シールドが破られた?」

 姫も不思議そうな顔をしている。一方、ラクランテさんは同じ詠唱を続けている。また白い球が飛んでいく。同じように何かが壊れる音。


「あのラクランテとかいう女、姫様の装甲を順番に解除しているな!」

「イマージュよ、それはこういった魔法使い同士の定石だ。驚くところなどないだろう」

「違う! あいつの詠唱は極端に短い! あんなもので補助系の魔法を一つ無効化することなんて、普通はできんのだ!」


 イマージュの言葉にタクラジュも何も言い返せなかった。

 たしかに戦局がラクランテさん優勢に変わってきている。


「この魔法自体はたいしたものではありません。ただし、私は相手の魔法の穴がわかるんです。その穴にこの球を入れれば、魔法はあっさり解除できます。攻撃魔法も威力のないものにできますよ」

 ラクランテさんも余裕が出てきたのか、自分の魔法を披瀝しだした。


「師匠、そんなことができるんですか?」

「わからん。しかし、あの女がウソをついているようでもないらしい。あの女の特殊な才能だろう……」


 姫はほとんど聞いたことのない魔法の詠唱を行っている。守りが薄くなっている分、次の防御を整えないといけない。


「このまま、あなたの魔法をすべてはぎとったあとに攻撃に入ります。あなたのようなタイプには負ける気はいたしませんね」


 何重にも張っていた姫の守りが一枚一枚奪われていく。

 姫もそれに対応して、何度かマジック・シールドを張ったりしたが、詠唱速度では間に合わない。


「さて、そろそろ攻撃に移りますが、負けを認めますか?」


 しかし、姫は首を振った。


「こちらも少しずつ中断を交えながら行っていた詠唱が完成しましたので」

 姫の顔には、勝利の確信めいた笑みが浮かんでいた。


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