9 ゼミをやったおかげでモテました
俺はアーシアに魔法の座学と実習の両方を学ぶようになった。
やっぱり、こういうのは両方やるべきだ。
座学だけではいまいち実感がなかったことも、魔法を使うようになるとよくわかるなんてことも多い。その逆で、魔法を使うようになったことで、語呂合わせなんてなくても呪文も忘れないほど口にするようになった。
座学のほうでやるプリントも、どんどん進んでいるはずなのだが、壁にぶち当たることはなかった。もちろん、俺の実力だけでなく、アーシアの教え方がいいのもある。
そもそも、マンツーマンで教えてもらえるほど、ここには教官がいないし、数少ない教官もほかの仕事もあって、時間がない。
だから、アーシアが俺の横についてくれているだけで、一種のチート状態だとすら言えるのだ。
俺が魔法の座学の小テストでクラス一位になった日から、俺の独走状態となった。
覚えるのが速くて八割方解ける奴はいるが、それでもほぼ満点が取れるのは俺しかいない。
そんなことが一週間続いたので、亀山もカンニング疑惑など言ってこなくなった。
今では教官のヤムサックに「島津、これ、わかるか?」と授業中に名指しで聞かれるまでになった。
「わかります。事前に結界を張っておくのが正解だと思います。ただし、結界自体も敵の解呪魔法ディスマジックの対象になるので絶対に安全とは言えませんが」
「それで正解だ。もう、お前はそのうち生徒というより教員になりそうだな」
亀山みたいなチャラい連中は俺のことが苦手なのか、「ガリ勉で偉くなって楽しいのかよ」とか言ってる時があるが、おおむね、クラスからの評価も高くなっている。
ていうか、ガリ勉だろうとそれで実力を評価されたら楽しいだろ。しかも睡眠時間を削ってるわけでもなんでもない。むしろ、巨乳の先生と語らってるんだ。孤独ですらないからな。
最近だと、休憩時間に男女問わず、わからないところの質問を聞きにくる生徒がいるぐらいだ。
その日も上郡亜子さんが質問にやってきた。
「あのさ……島津君、ここのところ、教えてほしいんだけど……」
「ああ、これ、わかりづらいよね。俺も最初は手間取った」
手間取ったというのはゼミでプリントでやった時という意味だ。
別に俺は完全無双の天才じゃないから、最初にプリントで見て解けないところもいくつもある。でも、アーシアに教えてもらって、その都度、理解してきたのだ。
だからこそ、苦戦してる生徒の気持ちは割とわかる。みんな、つまずくところはほぼ共通しているからな。
「つまり、これは魔法の速度で相手に逆転することで相手を阻害するんだ。相手の魔法が発動する前に先に魔法を無効化する魔法をかけておくってこと」
「ああ、わかったよ! ありがとう、島津君!」
人から感謝されるのって、なかなか気持ちいいな。
「なんだか、ここに来て三週間目あたりから島津君、変わったよね。すごく落ち着いているっていうか」
「勉強して自信がついたんじゃないかな。そういうのが態度に出てるんだと思う。俺の人格が入れ替わったわけじゃないから、それぐらいしか考えつかない」
「だから、なんだけど……」
少し上郡さんは口ごもったが、
「島津君、かっこよくなってる気がする……」
えっ? 女子にかっこいいって言われるなんてことがあるのか!
「俺、整形したわけでもないけど……」
「自信ついたって言ってたでしょ。そういうの、多分、いろんなところに現れてるんだと思う。偉そうにしてる感じもなくて、自然体だし」
俺は中学の時、やってたゼミの漫画を思い出した。
ゼミをやって成績が上がるとなぜかモテるというか、好きな異性との距離が縮まることがよくあった。
そんなの都市伝説だろ、勉強やってモテたら苦労しねえよと思っていたが、そういうことが現実に起きようとしているのか!? いや、かっこいいと言われるのとモテるのは概念としてずれてるけど。
そっか、成績も悪くて後ろめたい気持ちがあったもんな。そんな気持ちで生きてたら、少なくともモテる可能性も確実に減少する。そこが改善されたから、女子によってはかっこよく見えたりしたんだ。
その日の授業後、俺は部屋でアーシアに会った時にそれを報告した。
ちょっと痛々しいかなと思ったが、これはアーシアのおかげなわけだし、お礼的な意味で言っておくべきだろうと思ったのだ。それにアーシアは俺の成長を我が事のように喜んでくれるし。
「へえ、それはよかったですね! たしかに時介さん、最初に会った時より確実にかっこよくなってますもん!」
「そうなんだ……。自分だと判断不可能だから、意外な感じですね……」
「でも、ちょっと悲しいですね……」
そこで、アーシアは物憂げなため息をつく。
「せっかく、これまで時介さんを独占できてたのに、徐々にクラスの女子が時介さんの魅力に気付いてきちゃいましたか……」
えっ、それって俺に気があるってこと?
落ち着け、落ち着け……。これはアーシアなりのリップサービスだ。
それでも二割でも本心が混じっていたら、それだけでもすごくうれしいけどさ。
「そういえば、もうすぐ中間テストですね」
そうだった。恋愛よりもそっちに気持ちを集中させないとな。
もう、三日後の六週目最終日に魔法座学のテストがある。
授業自体は王国の歴史とかほかのものもあるが、そういう授業時間が短いものは期末テストみたいな時にだけやるらしい。
「一応、これまでも復習を兼ねてプリントを読み返してたりしたんですけど、おそらく問題ないと思います」
「そうですね。ぶっちゃけ私もあまり心配していませんが、模擬テストもありますから、やってみましょうか」
アーシアが消えて、代わりに机に「中間テスト予想問題」というものが出てきた。
いつものプリント形式じゃなくて、高校でやったテストみたいな形式だ。
「よし、じゃあ、やってやるか」
ちなみに点数は97点だった。
「少し難しめに作ったんですけど、これは楽勝でしょうね」
「ですね。もう、魔法の実習のほうに移ってもらえますか?」
その日も俺は実習を演習場でアーシアとした。
アーシアいわく、もう魔法使いとして働いてお金をとれる次元だそうだ。
ゼミをやったらモテますよね。某ゼミの漫画もそういう展開ありますもんね。
次回も結構無双します!




