プロローグ
新作はじめました! よろしくお願いします!
国語の授業中だった。
俺たちは中島敦が書いた虎が出てくる小説を読んでいた。
教科書から黒板のほうに頭を上げた。
黒板がなかった。
代わりに美しいステンドグラスが見えた。
なぜか、俺たちは天井の高い大聖堂みたいな場所にいたのだった。
ああ、夢かな……。授業が退屈で寝落ちしちゃってたのかな……。
でも、若くて美しい上月先生の授業を退屈に感じることなんてありえないことのはずだぞ。声を聞くだけでも癒される。
しかも、ほかのクラスメイトや先生の反応が妙に生々しい。
「おい、これ、どうなってるんだ!」
「どこだよ、ここ!」
「ほっぺたつねったけど、痛いんだけど……」
「先生、これ、何のドッキリですか?」
もちろん、ドッキリじゃない。
「私、こんなの知らないよ……黒板消えちゃった……」
上月先生もこうおっしゃっている。
やっぱり、夢じゃないよな……。
しかもそのことを裏付けるように、大きな扉が開いて、いかにも魔法使いといった雰囲気の男が出てきた。
長髪でまだ二十代半ばぐらいだろう。
女子の誰かが「かなりイケメン」と小声で言った。
「突然のことで驚かれているかと思う。実はあなた方の所属していた教室ごと、このハルマ王国に転移させていただいた」
身勝手なことをその男は言った。
「残念ながら、あなたたちは元の世界には帰れない。その代わり、この国は相応の待遇をさせていただく」
「帰れないってどういうことですか! だいたい、どうしてこのクラスの生徒が連れてこられないといけないんですか!」
上月先生が突っかかっていく。ああ、生徒想いのいい先生だ。
「このクラスが選ばれたのは、あなたたちの世界の人は多くのマナを体に有しているからです」
「マナ? 魔力みたいなもののこと?」
上月先生、若いからマナって聞いて反応できるんだな。
「そうです。つまり、あなた方は立派な魔法使いや剣士になる素質をお持ちなのです。国力維持のために王国ではそういった方々をここにお連れしたという次第です」
「お連れしたって、これは誘拐ですよ! 警察に連絡しますからね!」
「あなたの世界の警察にですか? どうやって?」
「それはもちろんスマホで…………圏外になってる……」
そりゃ、そうだよな。普通につながったらおかしいよな。
「強引な手法をとったことはお詫びいたします。しかし、こちらの世界に来てもらうための交渉をしようにも、あなたの世界で魔法を使える方がほぼ皆無のため、通信ができないのです。もちろん素質はあるので、こちらで勉強すればすぐに簡単な魔法は使えるようになりましょうが」
「わかりました……。ですが、生徒の安全は保証してください……」
上月先生もこれ以上、文句を言っても無意味だと判断したらしい。賢明な判断だと思う。
「当然です。こちらとしてはあなた方全員を王国軍の幹部にしたいぐらいなのですから」
俺は半信半疑で、その話を聞いていた。
こういうのって、あれでしょ、役に立たない生徒だという扱いを受けた時点でていよく追い出されたり、場合によっては刺客を放たれたりするんでしょ。
だって、国の外に出たおちこぼれは百パーセント、王国の悪口言うし、最悪、他国に情報売るかもしれんし、生かすメリットないもんな。
「なお、おちこぼれだからといって追い出すような真似はいたしませんので、ご安心ください」
まるでこっちの心を読まれたようなことを言われた。
「これは姫君の厳命なのです。人間を一方的に連れてきて、使えないなら始末するようなことをする国はいずれ滅びる運命だと。事実、そういったことをしていた遠方の国が滅ぼされた例があります。ひどい労働環境は必ず雇用者側にも傷を与えるのです」
異世界も過去の経験を踏まえて、進歩しているのだろうか。
「というわけで、謁見の場にいらっしゃっていただけませんか? 王よりご説明がございますので」
俺たちのクラスはぞろぞろと大聖堂みたいな建物を出て、お城のほうに移動した。
なんか学校以外の場にクラス全員でいると、社会見学っぽさがあるな。
楽天的な生徒は「これで勉強しなくてすむんだな。ラッキー」などと言っていた。
たしかに俺たちはまだ高二だが、じわじわ迫り来る受験勉強をパスして剣と魔法の世界に行けること自体は悪いことではない。
しばらくして、近衛兵みたいな剣士が「王のおなーりー!」と叫んだ。
白いふわふわのヒゲをたくわえた王様が玉座に座る。
「ご足労をかけた。この国の礼も知らんだろうから、楽にしてくれてよい。ハルマ王国の君主、ハルマ24世じゃ」
あんまり権威主義的な王様じゃなくてよかった。
「一言で言うと、君たちには勉強をしてもらう。勉強こそが君たちの仕事じゃ」
本日は4回更新の予定です。次は2話ほぼ同時に更新します。