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電悩空間 (2)

バーチャル空間で害虫退治の仕事をしていたタクスとリラ。


そこへ自作怪獣を繰り出し割り込んできた電脳魔法少女アミィ。

彼女の狙いはリラだ。


TS女を賭け、サイブリッドと魔法少女のビデオゲーム対決が始まった。

ゲームは赤いオッサンを操る俺からスタート。

流れるような軌道で脚生えキノコやカメをプチプチ潰し、金貨を取り、オッサンから尻尾を生やし、白い足場でしゃがむ。

あっと言う間にゴール地点まで到達し星型のカードをゲット。


「なかなか上手いじゃないか」

「一面なんだから普通だろ」

「アナタ見たところニュービーなのに、このゲームやったことあるのね。まあ、ちょっと意外だったけど所詮はニュービーね」


負け惜しみじみたセリフを早々に吐いたアミィが緑のオッサンを二面に突入させる。

フィールドに出てきたオッサンは最初からPゲージをパンパンに漲らせていた。


「おい、どうしてスタートしたばかりなのにフルパワーなんだよ!?」

「バーチャルスペースの流儀でやるって、言わなかった?」

涼しい顔で言い返してくる少女に思わず掴みかかろうとする俺を、リラが肩を掴んで制す。


「ウィザードはお互いに改造コードを差し込み合ってゲーム対決をするんだ」

「ハッカー同士、腕の競い合いということよ。お分かり?野蛮人」


「チート野郎なんかに負けてたまるか!やってやらぁ!」

火がついた闘志をAボタンに込め、選んだのは四面。


怒涛の勢いでコースにある全ての金貨をゲットし、クリアー。


ワールドマップに突如、左右に揺れるキノコハウスが出現した。

画面を見守っていたリラが胸のすくような驚きの声を上げる。

「白いのがでた!?」

「どうだッ!」


今回はスコアアタックなので隠しアイテムを取る意味は薄いが、この要素を出すことで子供の頃から培った俺とヒゲのオッサンとの絆を見せ付ける意図があった。

が、魔法少女は相変わらずすまし顔を決め込んでいる。

「そこで金貨をとりまくればそうなるのはやり込んでれば誰だって分かるわ。テクニックだけで私に勝てると思わないことね」


アミィのターン。彼女は敢えて三面を無視し、何故か無敵状態が解除されないオッサンで砦を駆け抜け攻略。

砦の主を倒し大量の得点をゲットされる。


「さあ、お通りなさいな」

「そこまでテメーの土俵でやるつもりは無ェよ」


ご丁寧に手招きする彼女の狙いは分かっている。

対戦モードでチートマシマシにしてくるつもりだ。


付き合ってられるか。当然迂回。そして五面へ突入。


「見てろよチート娘」


四面で披露した勢いとは打って変わって注意深くコインを稼ぎ進む。

俺の視線は赤いオッサンと下に表示されているスコアゲージの両方に注がれている。


ゴール手前まで辿り着いた所で、オッサンを静止させる。


「ゴールしないのか?」

「まあ見てなって」


リラの何気ない質問に答えながら、片時も制限時間の表示から目を離さない。

そして“頃合”が訪れる。


「いまだッ!」


僅か一秒のチャンスを逃さずオッサンをジャンプさせステージクリア。

するとフィールド画面で徘徊していたハンマー兄貴がトランスフォームし宝船が出現だ。


場所は6面の向こう側。ベストな配置だぜ。

どうやらコイツの存在は知らなかったらしいアミィが目を丸くする。


「な、なによそれ!私も知らないコードなんて…」

少女に対し、わざとらしく人差し指を揺らしながらチッチッチと舌を鳴らす。

「お嬢さん。こいつはチートじゃねえ、ウルテクだ」


歯軋りしながらも俺に続き六面をクリアするアミィ。

今度はフルパワーでタヌキの着ぐるみを装着したオッサンでアスレチックステージを余裕で通過する。


何の面白みもない攻略を終えたアミィの不敵な笑みの意図に気付き、青ざめる。


「今度は“一本道”よ?さ…お通りなさいな」


俺のターン。アミィの潜伏するマスにオッサンを動かすと、当然のようにバトルが始まった。


小さいヒゲオヤジが向かい合って三層の足場が並ぶ一画面のフィールドで対峙。

本来なら一画面を動き回って倒した敵の数を競うゲームだが、実際は仁義無き殺し合いゲームとなることは皆の知るところだ。


開始早々POWブロック下を陣取ろうとする俺。

そこへアミィが勝利を確信した笑みで高らかに唱える。


火属性付与エンチャントファイア!」


甲高い詠唱と共に、緑のヒゲオヤジがまさかの巨大化&手から火炎弾を16連射。

さらに頭上からもまるで『前作』のボスキャラがやるようなハンマーの雨。


地獄のような2WAYショットで、俺の操る赤オヤジは一瞬にして消し炭にされた。


「あぁら、怖い顔」


アミィの操るオッサンがコインの海を気ままに泳ぐ様を、下唇を噛みしめて見ていた俺。

またもフィールドに現れたのは“神経衰弱”だ。


「こいつは俺が貰ったぜ!」


点数もそうだが、せっかく出した宝船を横取りされたことが俺のマグマを煮え立たせている。

この神経衰弱は俺のパーフェクトクリアで飾ってみせる。


重要なのは左上の“一枚目”だ。そこからパターンを特定するのが定石。

勘と知識のすべてを動員してカードをめくらなければ。


――失敗は許されない。


不意に視界が青色に染まる。

すると、未だめくっていない筈のカードの絵柄がくっきりと“めくれて見えた”のだ。


浮かび上がる絵柄のビジョン通りにカードをめくっていくと百発百中。

あっという間に全ての札を手にして神経衰弱をクリアした。


「タクス、お前すごいやりこんでたんだな。今の、まるでカードが見えてるみたいだったぞ」

既に俺たちのゲーム対決を楽しんでみている節があるリラが、興奮気味に言う。


「いや…たしかにパターンを覚えちゃいるが、今のは違う。本当に見えてたんだ」

「“見えてた”か。なるほど、そういうことか」

「ああ…『透視』能力はバーチャル世界でも問題なく使えるみたいだぜ」


そう。超能力者にとってスプーンを曲げることと裏返しになったカードの絵柄を見分けることは、小学校で足し算と引き算を習うくらい基本的な事なのだ。


「アナタ!それ以上無断でリラさまとお話するのは許さないわよ!」


クレイジー娘がヒスを起こし始めたので、背中を押されるように城へ移動。

赤いヒゲオヤジは、いよいよワールド1のボスが待つ飛行船へ突入だ。


「おい、不良チート娘」

「その呼び方は心外ね」

「今からお前にゲームの真髄を教育してやる」


啖呵を切った俺の意志に応え、赤いヒゲオヤジが飛行船の碇に足をかけ潜入開始。


俺の操作するヒゲオヤジは尻尾を生やした状態。

早速上下正面から砲弾が飛んでくる。


「見てろ、これがロックンスピリッツだ!!」


最初に飛んできた砲弾を踏み、跳躍。

尻尾で落下速度を制御し、甲板に足を着くことなく次の砲弾を踏む。

画面に表示される得点は倍に。


飛行船は既に次の砲弾を発射。

俺の操るヒゲオヤジはサインカーブをゆっくり描いて次々と砲弾を踏み越える。


「おお、砲弾を踏むたびにどんどん点数が上がっていくぞ!」


観客リラの新鮮な反応にこちらの気分も高揚してきた。


「これぞ秘技・砲弾八艘跳びだーッ!」


道中の砲弾を着地せずに飛び移るたび、得点は跳ね上がる。

敢えて残機が増える直前で度々床に床に足をつけながら、ワールドボスの待つ土管へイン。

待ち構えていたカメを難なく撃破し、杖を奪取。


ステージクリアも含めて、圧倒的な得点をゲットした。


「お嬢ちゃん…ファミコンは一日最低一時間やらなきゃ勝てないぜ?」



「こ、こんなの認めない!リラさまは私と一緒になるの!」


俺とのゲーム対決に敗れたアミィは、不穏な捨て台詞を残しバーチャル世界スペースからログアウトした。


「あいつ今のうちにどうにかしないとこじれるな」

「あ、諦めてくれてないのかな?」

「当然だろ。このまま放置したら住所特定されて出したゴミ漁られて留守中に部屋に忍び込まれて地下室に監禁されて四肢切断からの調教エンドだぞ」

「キミの想像力の方が恐ろしいんだが…」


とにかく、曲がりなりにも相棒が消しゴムとかウンコとか食わされるかもしれない事態を見過ごすほど俺は薄情じゃない。

それに、“打開策”はとっくに思い浮かんでいるのだ。


「確認するけどよォ、リラ。この『モニターと巨大コントローラ』はアイツの持ち物だよな?」

この場に置き去りにされたままのコントローラに手を置いてたずねる。

「彼女が創り出したオブジェクトなんだから、そうなるな」

「……OK。このゲーム、俺たちが“王手”を指せるぜ!」


視界が青色に染まり、『透視』を始める。


――現代でも、透視能力を持つ超能力者がしばしば犯罪捜査に力を発揮していることはよく知られている。

彼らにできて、俺にできない道理はないのだ。


魔法使いウィザードアミィの置いていった“遺留品”に意識を集中させると、今彼女が居る現実世界の位置情報がハッキリと電脳に流れ込んできた。


青色に次いで、視界は白色に染まる。

リラを伴い、手にした位置情報めがけてテレポートだ。



バーチャル世界から直接、現実世界へテレポートした俺たちは雑然としながらも広々とした一室に降り立った。

その片隅には、バーチャル世界へのダイブ装置を手にしたまま固まっている少女が居た。


小学校高学年くらいの少女だ。

飾り気のないパーカーとジーンズ。たぶん自分自身が選んであつらえたものではない。

両目が丸ごと隠れるほど伸ばされた前髪が内気そうな雰囲気を際立たせている。


後ろ髪がサイドアップなこと以外は、バーチャルで出会った高飛車な魔法少女とは似ても似つかない女の子がそこに居た。


「どうしてここが…IP隠蔽は完璧だったはずなのに、どうやって…?」


突然目の前に現れた俺たちに、少女は怯えたようにうろたえている。


「確認だが、お前がアミィ・ペパーミントか」

「……うん」

「じゃあ俺たちが誰かわかるな?」

「……リラさまに、えっと…ウル技の人…」

「違ェねえ」


俺が一歩踏み出すと、少女の肩が跳ね上がる。

間近に見る“大人の男”に完全にビビっているようで、なんだかこっちが悪者になっているみたいで居心地が悪い。


「別にとって食ゃしねーよ。ただ、他の連中はともかく俺たちには好き放題は出来ねェぞ、って言いにきただけだ」


害意が無い事を伝えると、少し安心したようにため息をつくアミィ。

その後、呟くように小さな声音でたどたどしく言葉をつむぎ始めた。


「……私の完敗…ゲーム上手すぎだし、リアル突き止められるし」

「世の中広いってこった。お前もスゲーぜ。バーチャル世界じゃ敵なしってトコか?」


ストレートに褒めてやると、前髪に隠れていても分かるほどに頬が染まり照れていることが分かった。


「…今度、おしえて。アレ…ウルテク

「おう、コントローラとソフト持って来いよ」


爽やかな笑みを返す俺。これくらい爽やかなら、何本かフラグも立つってモンだ。


「アミィ。良ければ時々、私たちの力になってくれないか?」

リラに話しかけられるとアミィの表情がたちまち明るくなる。

「…勿論、です…!バーチャルの仕事なら…アタシ“ウィザード”だから」

「ふふ、ありがとう。心強い仲間ができて嬉しいよ」


興奮の余り卒倒しそうになっているアミィ。

少女の揺れ動く乙女心の機微に、当のリラは全く気付いていない様子だ。


「タクス」

「なんだ」

「…レンアイはユージョーとは別だから。リラお姉さまは…渡さないから」


前髪の奥から飛んでくる視線が、恋敵ライバル認定をした俺に鋭く突き刺さってきた。



「俺にいい考えがある」

「ボット虫ぶらさげながら言ってる時点でスゴクよからぬ考えっぽいんだけど」


ネット上では饒舌になるアミィがそつのないツッコミを入れてくる。


再びバーチャル世界にダイブした俺たち三人は、さっそく一匹の昆虫型スパイボットを捕獲していた。


「コレを『透視』すればよォー、『製作者』のところまで行けるよなァ?」


俺は口端を吊り上げニヤリ。これは「やるぜ、いいよな?」のサインだ。


そしてリラとアミィも似たようなニヤリで応える。「何をしているさっさとやりたまえ」のサインだ。


視界が青色に染まって透視。からの、テレポート!


「な、何だオマエら!?どこから入ってきた…ブゲェ」


テレポート先に居た根暗そうな男にゲンコツを見舞い、デスクトップ端末からデータを吸い出す。


「セコい真似しやがって、クソ野郎が」

「恥を知りたまえ」

「キモい!」


出会いがしらのゲンコツに怯みっぱなしの男に、各自一言ずつ罵声を浴びせてから再テレポートで退却。

リラとアミィに罵倒された男の顔は、どこか幸せそうだったことは忘れよう。



「ざっとこんなモンよ」


ボット開発者から強奪したデータを収めたディスクを掌で弄びながら風上に立つ。

アミィはようやく我に返り、顔中に“?”を浮かべ始めた。


「…こんなやり方見たことも聞いた事もない。タクス、何したの?」

「超能力だ」


一言で済ませる俺に、リラが使える能力の性質や消費容量がゼロであることなどを説明する。

一連の解説を、アミィは子供ながらの素直な理解力で額面通り受け止めてくれた。


「なにそれズルい…チートじゃん」


お前が言うかチートゲーマー。


「類は友を呼ぶ、ってことだな」


お前が言うかTSメガネ。


「……まったく、俺に関わるのは変なヤツばっかりだぜ」


二人の女の冷めた視線が「お前が言うな」と物語り、バーチャルな皮膚を心地よく鞭打った。


割と興奮した。

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