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エピローグ 電脳念力野郎

「綺麗だなあ。あれは流星かな?違うな。流星はもっとバーッってなるもんな」


 見上げれば星空のドーム。思わずそれらしい言葉が口をついて出てしまう。


「大丈夫か、タクス。頭もそうだが、体の方も」

「ん、何ともない。絶好調だぜ、リラ」

「……そいつは良かった」


 電脳の無線通話越しに、彼女のため息が聴こえてくる。俺が元気なのがそんなに不満だというのか。


「まったく。そこは仮にも“宇宙空間”だぞ。どうして普段着で出て行って平気なんだ……」

「毎朝コーンフレークを山盛り一杯食べているからかな?」

「今朝はうどんだったじゃないか」


 朝食談義に話題が逸れそうになるが、足元に広がる絶景がふと目に入ったところで気持ちが引き戻される。

 足元には、青と緑鮮やかな惑星――地球が数多の星々さえ霞むほど美しく在った。


 いま、俺が立っているのは起動エレベーターの頂点てっぺんだ。

 フリスビーのような円盤状の頂点施設。その屋根の中心にあたる場所に、吸着ソールを使って立っているのだ。


 大気の恩恵を受けられない場所でも、全身をくまなくサイコキネシスで覆ってやれば何の問題も無かった。


「キミは本当に何でもできるんだな。ゆくゆくは全知全能の神でも目指すか?」


 リラの問いには、冗談だか本気だか分からない微妙な音色が込められている。

 だから俺も、こうして宇宙空間に普段着で立って思うことをそのまま答えることにした。


「神にゃなれねー。“あんなことがしたい”って思ったから、超能力できるんだろ。そう思えるのは人間だからだよ、やっぱり。“どうにもならない”ことがあって、そいつを“どうにかしたい”と思える限り俺達ゃ人間だよ」


 俺とリラの会話に一拍の空白が訪れ、俺はしばし無音の宇宙空間ほしぞらを眺めていた。


「ああ、そうだな。私達は、人間だ」


 感極まったようにどことなく震えるリラの声が、電脳に染みわたる。

 こういうとき、やっぱりコイツが相棒をやってくれていて本当に良かったと思う。


「そろそろ『時間』だな。今回の依頼どうにもならないをどうにかしてやる時間だ」


 視界に投影されたARタイマーに『接近まであと5分』の警告が表示される。

 タイマーと同じく表示されているマーカーは、星空の向こう――遥か虚空かなたを捉えていた。



 ジュシュィの一件から半年ほど経とうかという頃、俺達に今までで一番デカい依頼しごとが舞い込んだ。


 依頼主はサク。というより、サクの“大本おおもと”であるグランド・マザーコンピュータから。


 件名『人類救済』というメッセージを初めて見たときは、何か新しい宗教の教祖にでもなれってことかと思ったが、違った。お祈りの言葉は『スコード』にしよう、くらいまで考えてたのに無駄になった。


 なんでも、かつて生身の人類を絶滅に追いやった殺人放射線の脅威が再び地球に迫っているらしい。

 間もなくこの地球に接近する彗星が発する今度の宇宙線は、機械をダメにしてしまうものだとかなんとか。外宇宙探査船がこの時代ではあり得ない『完全ロスト』を起こしたというのだから、総機械化した人類はひとたまりもないだろう。


 定期的に人類を滅ぼしにかかる宇宙からの脅威には何かこう得体のしれない意思があるんじゃないかとさえ思ってしまうが、それはまたよその話。


 要するに、念力で向かってきた彗星をブッ壊すだけの簡単なお仕事です。


「よーし!張り切っておっぱじめるぞ!」


 徐々に大きくなってくるマーカーが指し示す先に、精神力を集中させる。


 電脳に。体中の回路に。思念の奔流が駆け巡り、回転しながら凝縮する環をなしてゆく。

 


 そして、深黒の宇宙空間も瞬く白星も、目の前のすべては真っ赤な超能力ちからに染められた。


PSI-BRID!(サイブリッド)



おしまい

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