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ご無沙汰しております!
2ヶ月半ぶりです!
スライディング土下座なんて高度な真似はできませんので普通の土下座でご容赦ください!!
寮の自室に戻り、帰り道に購入した焼き菓子を齧りながらお湯を沸かす。勿論火魔法を使えば熱湯など一瞬にして沸くが、魔力は体力と似たものだ。節約するに越したことはない。なにより、今の私はフィア・ジェリドフなのだから。
座りの悪い火口に水のたっぷり入った薬缶を置き、口では焼き菓子を咀嚼しながら服を着替える。新しい肌着を身に着けたところで扉が軽く叩かれた。
慌ててぼだぼさの髪の毛を一括りにし部屋着のワンピースを身につけて扉を開けると、そこに居るのは栗色の髪の毛を丁寧に纏め揺らしているリーラだった。
「今いい?」
断る理由等無く招き入れ簡易的な椅子に案内する。丁度よく沸いたお湯を茶花に注ぐとリーラが目を瞬かせた。
「何処のお茶? まるで甘みの感じられない香りなんて珍しいわね」
甘味が最高だとされるジンデル王国では、当然のごとくお茶も甘いものが好まれる。だが今淹れたものは、甘みとは対極にある。
「まぁ飲んでみてよ」
反応が楽しみで笑いを堪えられないでいると、気色悪いと一蹴されたが気にしない。
木製のカップになみなみと注がれたお茶を一口含むと、リーラは硬直した後噎せた。ごっほごっほと盛大に咳き込んでいるリーラに慌ててタオルと水を渡す。呼吸が落ち着いたところで、リーラは揺らぐ目でオフィーリアを見てきた。
「フィア、これは……」
「公国に居た頃、商人から買ったの。そんなに不味かった?」
馴染みがないかと思ってひやりとしながら自らも口づける。仄かな酸味と強い塩味。その中に広がる豪華絢爛に咲き誇る花の香り。甘味と仄かな野花と香る、ジンデル王国主流のものからは遥かに遠い。
オフィーリアにとっては美味なお茶でも、人によって味覚が違うことなど十分に知っている。残念に思いながら他に一般的な茶葉を用意して、リーラに出したものは仕舞う。すると、力なく項垂れているリーラに訊かれた。
「今のはどうするの?」
「仕舞うよ、一人で消費する。寮でお茶出すとしたらやっぱり王国の子が殆どだろうし、やっぱり馴染みないと口に合わないだろうから……」
その方が賢明ね、と呆れた口調で言われて少し凹むが仕方がない。リーラに気付かれないように密封の為風魔法を展開する。茶器に入れて更に戸棚にしまい込んだところでようやくリーラと向かい合った。最初のお茶で気分が悪くなったのか、彼女の顔色はまだ気持ち青い。それでも重たそうな口を鈍く動かす。
「今日は出かけていたの?」
着替えの最中だったことを思い出し、最後に上着を羽織る。
「うん。町まで行っていたの」
「道理でいない訳だわ」
オフィーリアがいない間に部屋を訪ねたことを溜め息混じりに吐き出された。
「お昼前に町の方でうちの生徒が揉めたらしいのよ。噂で聞いている限りでは彼はそこまで悪くないわ。ただ相手が悪かったの。同国民同士なら領主が介入すればいいのだけど、他国民――それも厄介極まりない聖国民だったのよ。それで、公国の人間であるフィアと聖国ではまるで違うけれど、王国の立場しかわからない私よりはなにか知らないかと思って」
なにか用事があったことは当たり前に読み取ることができた。故に訊いてみると、それはあまりに身に覚えがありすぎる。
昼前・町・ベッケンバウアー高等部生・相手がグリエフ聖国民
自分の不運さを嘆きながら、「ミック・アハテーくんね……」と否定してくれることへの期待すら持たずに漏らした。案の定リーラの目が大きく見開かれた。
「あんた……! なに、そこまで広まっているの!?」
肩をきつく掴まれて激しく揺すられる。仲間意識が強いことは結構だが、此方のことも考えて欲しい。
「落ち着いて。噂がどんなものでどこまで広まっているのかは知らない。ただ私はそれなりに近くで見たの。丁度馬車の乗り換えで諍いの現場に」
「なんで止めなかったのよ!」
「無茶言うなぁ……」
唸りながら打って返された言葉にため息を吐くと、リーラも眉を寄せた。
無茶苦茶を言っているのは本人も十分にわかっている。その上で、理不尽であろうが打開策を持たなかったことへの憤りを隠すことも精神衛生上優れないことを本能で理解していた。また、目の前の友人はそれを気にも止めないでいてくれるであろうことも。
意味を成さない言葉を気が済むまで羅列し、「で?」と一言だけ促すリーラにフィアは小さく頷いた。
「私が見た限りでは、相手が盗みを働いたことに対して少し乱暴にはなってしまったけど、一対一で問うてただけよ。その後に、まぁ……感心出来ない暴言を吐いていたけど」
どんな相手にでも誠意を持て。それは、正論だ。同時に、綺麗ごとだ。
だから言わなかった。自分の口にしたことに責任も持てないことは。
自分にとってマイナスになる人間の相手はするな。楽に生きるために邪魔なものは切り捨てろ。
そう言ったフィアにミックは正面から『気に入らない』と喰ってきた。
自然と眉尻が下がり、口角からも微かに息が漏れる。それを目ざとく目に入れたリーラは、それでも穏やかに微笑む友人に対してそれ以上踏み込む真似はしなかった。
木製のカップを傾けながら少し冷めてしまったお茶を飲む。その僅かな時間にフィアの脳内では昼間の出来事が超高速で再生された。
ダメだ、わからない……
何故ミックが聖国人と揉めていたのかを短いが濃く考えたが、答えは出なかった。微笑から一転して無表情になったフィアをリーラは茶菓子を摘まみながら観察している。
何度か風で窓が揺れたとき、すっかり静まり返っている部屋にポツリとリーラの声が落ちた。
「フィアは、アハテーくんが揉めた原因を知っているの?」
小さいが間違えようがない問いかけに少し戸惑う。その問いの答えは先ほど言った筈だ。
「リーラ? だから盗みだって……」
眠気で重くなっている目を瞬かせるが、リーラはジッとフィアを見つめたままその目を逸らさない。
疚しいことはない。ないはずなのに逸らされない瞳は逸らしたくなる。疚しいことがあるような気になってしまう。
困惑が色濃く顔に出たのか、リーラはフッと困ったように笑った。しょうがないなぁ、と言わんばかりの苦笑いだ。
「そうね。訊いたのにごめんなさい。ちょっと寝ぼけていたみたい」
艶のある栗色の髪の毛にさらりと手櫛を入れながらのその困った笑みは、とても十二の少女のものには思えないほど大人っぽい。小さくため息を吐き見惚れながらも言葉を返す。
「明日からはまた授業よ。早く休んだほうがいいわ」
部屋まで送ろうとワンピースの上にショールを羽織ろうとするが、それはリーラの褐色の手に止められた。椅子からサッと立ち上がったリーラは先ほどまでの疲れなど微塵も感じさせない足取りで廊下に繋がるドアへと向かう。
「同じ階だしまだ消灯前だから大丈夫よ。フィアこそ明日のために休んだほうがいいわ」
パチンと長い睫毛が揺れるようなウインクを投げられ、驚きで固まった一瞬のうちにリーラは扉の向こうに消えてしまった。掴もうとして伸ばした行き場のない手をどうするべきか迷った末に、鍵だけ閉めてベッドにダイヴすることに決めた。
睡眠を欲していた脳と身体は、リーラも疲れていたのだろう、ともっとも易しいところに着地した。
翌日はやっとファンタジー世界らしい出来事が起こります。




