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禁色の闇姫  作者: ときおう慧実
一章 相生の正妃
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1

 闇が世界を侵す中、とある執務室のドアが叩かれた。


「どうぞ」

「失礼致します」


 殊更丁寧に入室してきたのは、この国を支える三大公爵家の次男――イシュメル・ロベリド=ドゥーコ・パルトロウ。

 パルトロウ公爵家直系の証たる紫水晶アメシストの瞳。礼儀は保ちながらも数人を除いてその近くに寄ることは許さず、牙を向く者は躊躇なく斬り伏せる冷徹な王妃の護衛官。

 そしてこの部屋にいるのは、その数少ない心を許したうちの二人。

 ドアをしっかりと閉めたのを確認すると、イシュメルは許可もなく椅子に腰を下ろした。だが、ここにそれを咎める者はいない。


「お疲れ様。……訊かなくてもわかってしまいますね」


 苦い表情を隠そうとすらしないのは、領地の半分を接するブルィギン公国大公――コンラッド・レゴ・ブルィギン。赤銅ブラウンの瞳に失望をまぶしながら向かいに座る女性に目をやる。


「歴代では第一子が多かったから、期待したのだけど」


 その身分では有り得ない、テーブルに突っ伏す等という真似をしているのはこの国の正妃――セラフィーナ・レゲドズィーノ・ジンデル。淡い黒を宿す瞳は今は少し影っていた。

 三人に近しい血縁はないが揃って美しいハニーブロンドを持ち、幼い頃から共に在った。


「側妃殿も困った人ですね。大見得張るだけならまだしも、セフィを侮辱したのだからその罪は担ってもらわなければ」


 甘い姿形と動作で人々を魅了するコンラッドから漂うのは、純粋な怒りだった。セラフィーナは苦笑しながらイシュメルに尋ねる。


「で、どうだったの?」

「無しだな。産後間もないにも関わらず、お元気そうに物を投げて奇声を発していた」

「……似た色だったり、は」

「見事な黒を持つ王子殿下だそうだ」


 三人揃って大きな溜め息を吐く。

 生まれた子に罪はないが、その母にはある。産前から公的に胎児は膨大な魔力を持ち、【濃緑の瞳】だと宣言していたのだ。


 ジンデル王家には、変わった王位継承者の条件がある。

 第一義にあるそれこそが直系に各代一人だけ出る濃緑の瞳を持つ者であること。そして第二義以降に男子、正妃の子、生誕日とくる。

 つまり、女子で側妃の子で末子であろうとも、濃緑の瞳さえ持てばその子が次代の国王となる。

 王位第一位に君臨する【翠玉】かどうかは、産前でも明らかだ。放つ魔力の種類と大きさがそれを示す。


「青や黄だったならまだ言い張れたのだろうがな。成長すれば変わる、と」

「それでもそれでは今代のような薄い緑で、翠玉とは言えませんがね」


 苛立った口調のまま放ったイシュメルに、コンラッドは悪い笑みを浮かべる。セラフィーナはもう一度溜め息を吐き、気合いを入れるように力強く顔をあげた。


「では、私は王宮を脱します」


 正妃が王宮を脱する。とんでもないことであるにも関わらず、聞いている二人の表情には笑みが浮かんだ。


「取り敢えずは竜の里へ逃げます。その後は、……ブルィギンを通ると迷惑がかかるので海路を使って――」

「我が国に住みなさい、セフィ」


 柔らかい笑みで言葉を遮ったのは、コンラッドだった。


「最低でも貴女は竜の里で半年を過ごします。それくらいの時間をいただければ貴女たち三人を隠す場所くらい用意できますよ」

「三人?」

「俺も行くぞ。当たり前だろ」


 嫌な感覚がして確かめると、イシュメルはしれっとしている。


「イシュ!?」

「我が剣は、セラフィーナ・フラウリーノ=ドゥーコ・ユルハの御為に」


 急に畏まって口にしたのは、変わることのない誓いの言葉。誓われたのは、正妃ではなく公爵令嬢。


「……バカよ、二人とも」


 相談をしていた段階でとんでもないことであるのは誰よりも解っているだろうに、止めることはない。目の奥が熱いのを誤魔化すように笑った。


「イシュ、コンラッド。第一級の罪だと解って願います。――貴方たちの手を、私とこの子(・・・)にかして下さい」


 差し出された掌は、小さな傷がいくつもある。それは彼女の歩んできた道のほんの一欠片に過ぎない。だからこそそこに骨ばった掌をしっかりと重ねる。

 三つの掌が重なると、そこから金色・・の光が漏れ出した。


「我が友に誓う」


 三重の声が発せられると同時に、彼らは光に包まれた。

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