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本日2話目
心は酷く凪いでいた。
細く風に揺れる火を見上げて瞼を下す。一歩踏み出せば、土に還ったセラフィーナを踏んでしまう。
ジンデル王国・ブルィギン公国は土葬が主流であり、火葬は罪人の死に方らしい。
【私】一人では丁寧な火葬なんて出来ないし、そこまで形に拘りはない。死者の魂が穏やかであればいいと思う。
それでも、火を焚かせてもらう。
メラメラと燃え上がる炎が、ゆらりと立ち上る煙が、一緒してくれるように。
死後の世界があるなら空へ。お母様の魂が迷うことも寂しいこともなく行くように。
長い黙祷を捧げていると、「リア」と名前を呼ばれた。
「イシュ、コンラッド」
もう一人の名は、二度と本人に向かっては呼べない。
吹き曝しの丘の天辺に来た二人にヘラリと笑う。
「ごめんね、二人に全部任せちゃって」
イシュメルとコンラッドは一昨日の晩、セラフィーナが亡くなってから休むことなく動き回っていた。誰よりも悲しみに浸りたいのは彼らであろうに。
上手く笑えていなかったのだろうか。コンラッドが大きな手でそっと頬を撫でてくれた。
「なにを言っているのですか。まだ八歳の子どもが、母の元へいて何が悪いのです」
言い返そうとして、その優しさに甘える。私は確かにお母様と一緒にいたかった。
「……来る途中、煙が見えた」
突如聞こえてきたのはイシュメルの静かな声。そっと視線を移すと、その紫水晶の瞳はオフィーリアやコンラッドと同じく落ち着いていた。
「近づくに連れて煙が濃くなり、炎も見えた。すると何故だが、とても静かな気持ちになった」
「イシュ……」
「火はこんなにも美しいものだったんだな。知らなかったな、ずっと見ないようにしていたから」
最後の言葉の意味がわからないで戸惑っていると、イシュメルの目が此方に移った。
「リア、どうしたい」
「えっ……」
「セフィは遺言として、俺たちを後見人にした。そして王都で学ぶようにと」
突然の言葉に目を白黒していると、コンラッドが補足を入れる。
「王都には膨大な知識があります。学園にはなにより人が。リアは学校へ行くことを拒みましたが、セフィはずっと行って欲しがっていたのですよ」
何故。必要なものは、|竜の里(此処)にあるのに。どうしてそんな、醜い人々が集まる所へ行かなければいけないのか。
疑問が顔に出ていたのだろう。コンラッドは苦笑した。
「多くの人と関わることでしか学べないものを学んで欲しい。これは私も同じ思いです。リアが大切な人を作れるように、と」
「それ以上に嫌いな人が多いと思う」
「でしたら更に作ればいいだけのことです」
わかっている。コンラッドは昔言った。自分たちはオフィーリアよりも先に逝くのだと。
「……わかった。学園、行く」
納得なんてしていないくせに頷いた。親友を喪って悲しんでいる彼らをこれ以上煩わせたくなかった。
渋々といった体がわかったのかコンラッドが眉を下げるが、行かなくていいとは言わない。不貞腐れているとイシュメルが小さく笑った。
「リア、お父上の元へ行きたいか」
「えっ」
なんだか今、聞き慣れない言葉が聞こえた気がするが……
聞き間違えではなかったようで、その言葉はまた聞こえた。
「そのままだ。リアのお父上はジンデル国王。俺たちは大罪を犯して正妃の冠を持つセラフィーナを連れ去った。それでも、リアは国王と正妃の娘だ。王宮に行けば最高の生活を得られる」
だから、行きたいかと。顔も名前も知らない父親のところへ。
言われていることが、言っているイシュメルの顔が莫迦らしくて溜息が出る。『最高の生活を』なんて笑いながら言っているくせに、泣きそうな目をしているなんて。
「結構よ。私のお母様は正妃だったかもしれないけど私は王女ではないもの」
聡明なセラフィーナたち三人が大罪を犯してまで守りたかったもの。誰も明確に言葉にすることはないが、気付いている。
伝説の銀と唯一の翠。始祖の色と国租の色。
公爵令嬢として育ち正妃を務めたセラフィーナが娘に平凡な道を、とそれだけで姿を隠した訳ではない。ならば選ぶ道は決まっている。
なにより。
「私の家族はお母様とイシュとコンラッドだけだよ。父親がいるとしたら、二人こそそうだわ」
器用な癖に不器用な、愛しい家族。父と呼ばないだけで、思いはまさしく其れだった。
イシュメルもコンラッドも目を大きく見開き、破顔した。今にも涙が零れそうな顔をして。
「あぁ」
何方が言ったのか。その声に震えが混ざっていたのは気のせいか。
火が揺らめく向こう側で、愛しい家族に手を伸ばした。




