Kie estas volo,tie estas vojo.
大陸の始祖は銀の頭髪を持った 人外の力を以てして
国の始祖は翠玉の瞳を持った 望外な素質を以てして
伝説の存在と唯一の存在
両の色を兼ね揃える者 それは――
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日頃は静かに緑の中に隠れている日本家屋は、今や殺気と恐怖に溢れていた。
「あんたが、あんたが……」
目の前で荒れ狂うは、殺気の根元。怒りで荒れ狂っている一人の少女。
「やめろ緋陽!!」
一室を挟んで開かれた障子の奥に見えるは、腹部を押さえ青い顔に苦悶を浮かべる少年。その眼には驚愕と悲憤が溢れていた。
怒りを増幅させた緋陽は、後ろに立つ男に怒鳴りつけた。
「お前ら、蘇芳を取り押さえろ!」
反射的に逆手を用いようとした蘇芳だが、体験したことのない腹部の激痛にそれは適わなかった。その様子を弟子――今や元がつくそれは、あざ笑った。
唯一もがいている蘇芳も封じ込めて、改めて緋陽は刃を向けている存在を見やる。
絶望に溢れている筈の少女は、肩を震わせて――笑っていた。
「あーっはっはっは! はっはっは!」
「なにが可笑しい、翠!!」
軽快に笑う翠に向けて、気付いたときには刃を振るっていた。間合いは抜刀していた段階で五尺。にも関わらず、翠の命は豊かに在るままだった。
「なっ……」
言葉を失う緋陽に対し、呆れ果てている翠。理由を明らかにしたのは、捕らわれたままの蘇芳だった。
「緋陽、俺と翠がご宗主の御前試合で見せたものが、翠の本気だとでも思っていたのか? 生まれてから今に至るまで、決して追従すら許さない至高の存在の本気だとでも?」
蘇芳を捕らえている者たちは蒼白になつていた。緋陽でさえ恐怖で我を忘れる。
抑えられる。蘇芳はそう筋肉を弛緩したにも関わらず、状況を悪化させたのは翠だった。
「時期宗主の座、欲しければあげるわよ。ねぇ、【深緋】様?」
ピシリと、場が凍りついた。
「私は昔も今もそんな面倒なものは要らない。ただご宗主が望むから。ご宗主に恩があるから。私に連なる者たちが願うから受けただけ」
大恩あるご宗主が翠を跡継ぎにと望んだ。先を、今を、後を共に歩んでくれる者たちが次代は翠以外認めなかった。
ただ、それだけだった。
「緋陽、貴女は血筋と名前に思い上がった愚か者よ。誠実に道を歩んでいれば、蘇芳と同格にはなれた」
「……れ」
「甘露しか味わっていないのに、いざとなって慌てている。滑稽極まりない」
「……ま、れ」
「私と蘇芳がこんなあからさまな罠に引っかかると思っていたことに驚きだわ。――あぁ、ご宗主がもうすぐにいらっしゃるわね」
足音は聞こえない。だが、微かに人工的に風が揺れた。
羞恥に苛まれた緋陽は、再び大きく刃を振り上げた。翠はおかしそうに笑ったままだ。
「だから、ね。私が死んでも」
ただ振り下ろされる刃を嗤う。視界の端では宗主が目を見開き、蘇芳は激昂しながら口を開いていた。
「貴女程度が座ることは許されないわ。ねぇ、【禁色】様?」
ゆっくりと肉を抉られるのが、視界に入る。ついで違和感、そして熱。
「やめろぉおおおおお!!」
意識が遠のいていく中で、最期まで判ったのは蘇芳の叫び声だけだった。
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水没死した相方を弔う為に拙作を紡がせていただきます。(訳:愛用のPCに水をぶっかけたために引き籠もりたくなったので暴走します)
スマホで長文打つのってキツいですね。手首と指が痛いです。