第7話 一難去って……?
ユニーク累計一万突破しました!
お読みくださって、本当に有り難う御座います。
迷惑なことこの上ない金髪集団に遭遇してしまった事により、精神的にかなり疲れたものの、その後は特に問題無く用事を終えて、トレムの無邪気な様子に癒されつつ一行は街を出た。
旅の行程は既に3日目も大分過ぎたところ。あと1時間もすれば村が見えるという所まで来ていた。
今はミラが1人で御者台に座っていて、他の3人は中で思い思いに過ごしている。早速今回買った書物を読んでいるトレムの、ハーティに何か質問する声が、御者台まで聞こえてきている。
街道から離れたこんな道では何が起こるか分からないものだが、一行の雰囲気は相変わらず和やかで、警戒している様子など微塵もない。
ミラは不意に笑みを浮かべた。
「おや、どうかしたのかい? 突然笑ったりして」
「ん? いや……平和だなぁと思って。こんなに穏やかに旅が出来るのも、皆の御陰よね」
「あら、今更そんな事考えていたの? 私達はミラに何か起こる位なら遮二無二働くって何時も言ってるじゃない」
メールフルーヴの言葉に、ミラは更に笑みを深めた。
淋しい田舎道では向こうから歩いてくる人もいないので、周りを気にせず精霊達と話すことが出来る。
「あら、フラムを働かせる、の間違いなんじゃない?」
「うふふ、さぁどうかしら?」
「君は相変わらずだね。ま、君がフラムレールをいじらなくなったら、それこそ天変地異の始まりだと思うけど」
ヴァンスィエルが呆れを多分に含んだ目でメールフルーヴを見やった。だが、嫌みを言われた当人は涼しい顔で受け流してしまった。これも何時もの事であるが。
「今回は色々有ったね。今後大きな問題にならないと良いけど」
「あら、私は少しくらい予想外の事が有った方が面白いと思うのだけど」
「私は平穏至上主義者だからね」
「それ、地元一の危険地帯に狩りに出掛ける人の台詞じゃないと思うけれど?」
「それとこれとは別。動物よりも人間の相手をする方が煩わしいもの」
ミラとメールフルーヴが言葉を掛け合う。一方は肩を竦めながら、もう一方は悪戯っぽい笑みを浮かべながら。
ヴァンスィエルやメールフルーヴと違い、フルフィユテールは1度も口を開いていないが、他の3人の様子を眺めて穏やかな表情をしている。彼は彼なりに楽しく過ごしているのだ。
村へ帰り着くまでの残り時間ずっと、御者台では笑顔が絶えなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
村では、荷馬車がたてる音を聞きつけて、子供達が我先にと出迎えに駆け出していった。大人達はその様子に微笑みながら、作業を続けている。と言っても、もう夕刻なので直に終わるだろうが。
「お帰りなさい!」
「トレム、楽しかった?」
「ねぇねぇ、おみやげは?」
集まってきた子供達が一気に喋り出し、あっと言う間に騒々しくなった。
「はいはい、落ち着いて。私はまだ作業が残っているから、また後でね。トレム、お疲れ様。先に皆のところへ行っておいてくれるかな?」
「わかった!」
「ミナトさんとハーティさんも。有り難う御座いました。後は1人で大丈夫なので」
「はいよ、お疲れサマ」
「お疲れさん」
トレムが他の子達と一緒に駆けていき、ミナトとハーティが畑の方へと歩いていくのを見送ってから、ミラは荷馬車を自分の家に回した。
荷物を全て家の中へ移し終え、ミラは村長の家へと来ていた。
質素な作りではあるものの、他の家々に比べてかなり大きい。
住んでいるのは村長の家族だけだが、村の皆で集まったり、外部からの客が泊まったり出来るようにと広めに建てられ、それが今も維持されているのだ。
この村唯一の厩舎は村長宅の傍らにあり、其処に荷馬車も置くようになっている。
ミラはロイヤルを荷馬車から外し、厩舎に繋いだ。
続いてロイヤルの世話をしようとした時、ミラはふと顔を上げて、村長宅を見た。
「ん? お客さんかしら」
ミラの呟きを聞いて、スィエルが目を閉じた。
「どれどれ……旅人風の格好をした若い男が居るね」
「へぇ。一体何しにこんな辺鄙な村に……? まぁ、本人に聞けばいいか」
此処であれこれ言っていてもしょうがない、とてきぱき用事を終えて、ロイヤルを一頻り撫でてから、ミラは村長の家に向かった。
何の飾り気もない扉をノックすることなく開けて、気配を感じる部屋へ一直線に向かう。村の人間ならば何時でも自由に入って構わないと、他ならぬ村長に言われた為、遠慮はしない。
目的の部屋に着くと、中から話し声が聞こえたので、流石にノックした。
「お入り」
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、其処には村長の他にもう1人居た。スィエルの言った通り、20代後半位の若い男だ。此処の住人よりもほんの少しだけまし、という程度の質素な身形をしている。
ミラはその男を目にした途端眉を顰めそうになったが、何とか堪えて扉を閉め、村長に向かって一礼した。
「只今戻りました、村長。皆、大事有りません」
「お帰り。それは何よりじゃ」
「其方の方は御客人でしょうか?」
ミラが男を一瞥すると、村長も其方をちらりと見てから返答した。
「此方はデロンさんじゃ。数刻前にこの村に来なさってな」
「どうも。デロンってんだ。どうぞよろしく」
村長の紹介を受けて、デロンがミラに挨拶した。多少粗野ではあるものの、にこにこと笑う顔は愛想がよい。
「ミラと申します。此方こそ、宜しく御願いします。デロンさんは、何をされているんですか?」
「俺は南の方の田舎の生まれでね。この国の事をもっと知りたかったから、旅して回ってるんだ」
互いに挨拶をしたところで、村長が発言した。
「ところで、今宵は美しい星月夜になると思うのじゃが」
脈絡のない発言に、2人が怪訝な表情を浮かべたが、ミラは一瞬の後に理解が及んだようだった。
「成る程。良き御考えだと思います。では、皆さんには私から声を掛けておきます」
「うむ。では後程また会おうぞ」
「はい、では失礼します」
ミラは、笑顔の村長と未だに首を傾げているデロンを残して、部屋を出た。
廊下を歩きながら、ミラが独り言のように呟いた。
「……旅人、ねぇ? ナメた真似をしてくれるなぁ」
「ちょっとちょっと。顔が怖いよミラ」
凍り付くような微笑を浮かべたミラに、ヴァンスィエルが若干顔を引き攣らせた。
「唯でさえ街で色々有ったのに……。やっとゆっくり出来ると思ったのに……」
だが、ミラはヴァンスィエルを無視して黒いオーラを振り撒いている。その様子に、流石の精霊達もたじたじとして、それ以上何も声を掛けれなくなってしまった。
村長の家を出る頃、ミラが盛大に溜め息を吐いた。
「……ごめんね、変な態度とって」
漸く落ち着いたようで、ミラの表情から険がとれている。それを見てとり、透かさずメールフルーヴが声を掛けた。
「誰もそんな事全然気にしてないわ。元気だして。どうせ小物でしょうし、すぐに終わるわよ。だから取り敢えずは目先のことを楽しみなさいな。久し振りでしょう?」
「……そうよね。来てしまった物はしょうがないし。フィユト、一応アレの見張りしててくれる?」
「分かった」
「有り難う。それじゃあまずは、張り切って子供達を夜更かしさせますか!」
ミラが再び柔らかい笑みを浮かべたのを見て、精霊達はこっそりと胸を撫で下ろしたのだった。