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第1話 辺境の狩人

剣と魔法が取り巻く世界――モルティレニア。

同種族間や異種族間での争いが絶えず、特に人間の魔人に対する憎悪は止まるところを知らない。故に、魔人の国家が存在するサウゼント大陸に最も近いナヴァレスティ王国は、人間の支配する国が軒を連ねるノーザレス大陸にとって、対魔人最前線となっていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ナヴァレスティ王国と神聖ミシェリア皇国との国境に、その山――巨峰ヴェルガ山はある。その険しさと生息する危険生物ゆえ、不穏な気配が漂い、地元の者ですら近寄りたがらない。


そのヴェルガ山のナヴァレスティ王国側の麓に、マラカイト村は存在する。人口40人ちょっとの、本当に小さな村だ。

暮らしぶりはいたって質素だが、畑仕事をする人々の顔は総じて明るい。


もうすぐ日暮れ、という時間に、ヴェルガ山の方角から村へやってくる人影があった。

長身痩躯で秀麗な顔立ちという見た目に似合わない大荷物を抱えているが、まるで枯れ草でも運んでいるかのように、颯爽と歩いている。

人影――少女にいち早く気付いた子ども達が、わぁと歓声を上げて、其方へ駈けていった。大人達も笑みをこぼしながらゆっくりとついていく。

少女も村人達を見て、目元を緩ませた。


「ミラ姉ちゃん! お帰りなさい!!」


1番最初に少女のもとに辿り着いた、赤い髪に青い瞳をした10歳くらいの少年が叫びながら抱きついた。

他の子ども達も、口々にミラの名を呼んで纏わりつく。


「ただいま、トウリ、皆。ちゃんとお父さんやお母さんの言うこと聞いてた?」

「もちろん! ねぇねぇ、えもの、見つかった?」

「ええ。これで暫くは困らないわ」

「やったー! ね、お話聞かせて、いいでしょ!」

「いいけど、今日はもう遅いから駄目よ。皆もうお家に入らなきゃいけない時間でしょう? だから、明日ね」

「ぜったいだよ!」

「勿論。約束は守るわ」


トウリのお願いをミラが微笑みながら了承すると、周りの子ども達からも喜びの声が上がった。


「ミラや。お帰り。無事でなによりじゃ」


子ども達に囲まれたミラに、大人達の中でも一際年を取った男性が声をかけた。髪も髭も真っ白だが、優しげな光を湛えた茶色の瞳が、静かな威厳を醸し出している。はしゃいでいた子ども達も、自然と大人しくなった。


「ただ今帰りました、村長。変わりはありませんか?」

「うむ。しかし、今に始まった事ではないとは言え、凄いのう。まだ16じゃというに、あのヴェルガ山から生還するどころか、狩りをするなんて……」


村長の言葉に、他の大人達が頷く。ヴェルガ山の周辺には、マラカイト村以外にも幾つかの村落があって、それなりに交流もある。だが、ヴェルガ山で狩りをしている者の話など、聞いたことがなかった。

因みに、ミラのことは、本人の希望により、他の村の者には伏せられていた。


「本当に今更ですよ。何時も言っているじゃないですか、私の事は心配無用ですと。寧ろ、あの山にいると、心が落ち着くんです」

「いやはや……。本当に大した娘じゃ。おっと、こんな所で足止めして済まなかったの。疲れておるじゃろう、早く家に戻りなさい」

「お気遣い感謝します。今回は魔狼も狩れましたから、そろそろ街へ出掛けようと思うのですが」

「うむ。では明後日にしようかの。詳細は儂に任せておくれ」

「わかりました。それじゃ皆、また明日ね」

「バイバイ、ミラ姉ちゃん!」


ミラは子ども達に笑みを見せると、村の家々から少し離れた所にある家へと足を向けた。


素朴な造りだが、1人で暮らすには大きすぎる2階建ての木造家屋――それがミラの家だ。もとは余所者だったミラの両親が彼女に遺した、たった1つのものだった。

玄関を入ってすぐ左手に、2階へ続く階段があり、右手には倉庫の扉がある。

真っ直ぐいくとリビングで、魔物の毛皮製らしきソファが見える。奥には、大きめの四角い木製のテーブルと椅子が3脚。向こう側にはキッチンがある。

殺風景とも言える部屋を、西向きの窓から差し込む光が照らし出していた。

ミラはテーブルの上に荷物を放り出すと、ソファにもたれて目を閉じた。

他の村人と違い、ヴェルガ山はミラにとって心が安まる場所なので、2、3日どころか1週間以上平気で野宿できる。だがやはり、それなりには疲れていたのだろう。


(どうせ明日にならなきゃ毛皮とか干せないし……。今日はもう湯浴みして、読書でもしようかな)


ミラは目を開けると、欠伸を噛み殺しながら家を出て、すぐ裏手にある離れに向かった。



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