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プロローグ

「お前を追ってここまで来た!」

 怒声にこもった呪詛の棘は、相手の芯にしっかり食い込んだだろうか。と彼女は眼を凝らした。

 いや、あり得ない。それはただの願望だ。眼前のこの男に届く言葉など存在しない。棘が刺さるほど柔らかい心があるとも思えない。

 現に殺意を向けられた長髪の男は何の感情を顔に表すことなく、ただじっとこちらを観察しているようだった。

 身構えることなく棒立ち。こちらを瑣末な支障程度にしか思っていないらしい。

 旅装の彼を睨みながら、彼女は短く息を吸った。違う、届かせる必要などない。この身の内に荒れ狂う怒りをそのまま叩きつければいい。そのための方法も自分は知っている。

「俺はこの日を待ちわびていた」

 男に扮するための口調は、しかしこんなときにこそしっくりくる気がした。右手を顔の前にかざし、手の甲の文様を相手に向ける。

「想い人の仇……覚悟しろヴィルフレード!」

 ティナ――アルベルティーナ・フローリオは異形の力を解き放つ。

 振り下ろした手が光に覆われ輝いた。

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