ゲスラ出現
日の出とともに怪獣が現れた。
ごく当然のように現れた。
aタイプが叫んだ。
「うわー! おっきい! 友和さん起きて!」
「むにゃむにゃ……なんだよう……怪獣でも……出たのかよ……」
友和は寝ぼけている。
エンタメも興奮して叫ぶ。
「ダンナ! 起きろ! あれを見ろ!」
体長は30メートル程。
ゴジラや他の主流派の怪獣たちのような、50メートル級のヤツじゃない。
「サンダ対ガイラ」のような30メートル級のヤツだ。
出没湖の中央に位置する流木島から、のっそりと巨大な姿を現して、下流の鶴田川までザンブ、ザンブと歩いて行く。
湖面が大きく波打った。
「おっほー! 出たな! 位置取りが良かったな。此処はベストポイントじゃないか! 目が覚めたア」
と友和。
目をまん丸にしたaタイプが、はしゃいでいる。
「ふわわ! うっわ! 船が危なーい! 逃げてー! ウッソー! きゃあきゃあ」
危うく桟橋に叩きつけられそうになった周遊観光船。
定年間近のベテラン船長の咄嗟の判断で、大波に揉まれながらも、沖の方へと逃げて行く。
「しかしでかいな……コイツは凄いぜ……」
エンタメの目もまん丸になっている。
どっと押し寄せた高波は、湖畔に建ち並ぶホテルや、娯楽施設や高級別荘へ、容赦なく襲いかかった。 その結果、これらの頑丈なビルは浸水だけで済んだのだが、ビルの裏手に建ち並ぶ、老朽木造家屋が損壊した。
怪獣は、出没湖から流れ出す鶴田川に、しゃがみ込んで脱糞を始めた。
排泄物は強烈な悪臭を放ちながら、鶴田川を流れて行く。
下流に位置する子ノ渡市は、再び水害に見舞われる事必至であった。
「あの怪獣、いやー! もお!」
とaタイプ。
「ワハハ。朝一番は健康の証拠だ」
とエンタメ。
「来たぞ! 定番の流れ! 航空自衛隊だ! aタイプ、テレビつけてくれ!」
と友和。
上空を自衛隊の攻撃機が飛び交い、続いて攻撃ヘリの編隊がやってきた。
マスコミのヘリコプターも飛んでくる。
テレビは、すべてのチャンネルが怪獣の臨時ニュース一色である。
中継ヘリコプターの中からキャスターが言った。
「これは、何とした事でしょう、怪獣は排泄を始めた模様。え~、大きい方です」
テレビスタジオの中のゲストが言う。
「動物学者はみんな見に行っちゃったんで、ボクがゲストです。サカナくんで~す。ワー! 凄いな。オッキイナ! クジラはもっと大きいよ。クジラはサカナじゃないよ。動物はみんな、ウンコするんだよ~! ですから、ホント、スッゴイナ~!」
興奮のあまり、椅子から落ちた。
成り行きとは言え、友和とaタイプとエンタメは、この世紀の一大ニュースの渦中、出没湖畔の展望ホテルの6階に陣取っているのだ。
室内ホンが鳴った。
友和が電話にでる。
「お客様、今すぐ裏山に避難して下さい。湖に怪獣が出たんです。本当です。嘘じゃないです。窓の外を見て下さい。すぐに避難して下さい」
窓の外には巨大な怪獣が、ありありと見える。
今にもこちらに向きを変え、ずんずん迫ってきて、このホテルや他のビルディングの破壊を始めそうな気がする。
「怪獣のお仕事は、ビルのぶち壊しです」と、我々には深く刷込みがなされているのだ。
友和が答える。
「あー、我々は今回の事件の調査の為、政府から派遣された者だ。──
うん。エンタメ博士の古生物研究所の研究員だ。
事態の推移にのっとって、適切な行動をとるから心配ない。
あー、エッヘン。自衛隊からの連絡も直接入ってくる。
だから、この部屋には構わんでくれ。
他の部屋の避難を急ぎたまえ。
あ、それから、すまないが朝めしを運んできてくれ。
ノーベル賞候補のエンタメ博士は、空腹だと脳みそが働かないんだ。
和洋どっちでもいいから、急いでくれ!
コーヒーはポットごと、必ず持ってきてくれ」
「デザートも忘れないでね!」
と、脇からaタイプの声。
笑いながらエンタメ博士が尋ねる。
「ダンナ、避難しないのか?」
友和はタバコに火をつけて、のんびりイップクしながら話し始めた。
「夏の終わりだった。──
少年時代の話だ。
夕方、家に帰る途中の砂浜で。誰かの作った砂山を見つけたんだ。
さっそく俺は木っ端微塵にしてやろうと思った。
半ズボンとゴムぞうりでペタペタと、それでも勢いをつけて走って行った。
そして力一杯、蹴とばしたんだ」
aタイプが尋ねた。
「怪獣と関係ある話なの?」
「まあ聞きなさい。──
蹴とばした結果、俺は複雑骨折して、それから3ヶ月間ギブスをはめる羽目になった。
つまり、砂山だとばっかり思ってたのは、建設業者の棄てた〝棄てコン〟だったという訳だ」
「夏の終わりの、マヌケな少年の悲劇だな。ところでダンナ、それがこの状況と、どう関係あるんだ?」
「つまりだな、怪獣だって動物だろ? ウンチもしてるしな。──
つまり、こんな四角い、いかにも硬そうな鉄筋コンクリートのビルを、わざわざ蹴とばす筈がないんだ。
痛いからな」
「成る程、流石は特異点のダンナだ。ここにいる方が安全だって訳だ」
「じゃ、じっくり観察出来るのね」
「それにしてもコーヒー遅いな」
と友和。
「焼き海苔と生玉子と白いメシに、あったかいみそ汁だといいがな。待ちきれんな」
とエンタメ。
「わたしはマーマレードたっぷりのトーストがいいな」
とaタイプ。
怪獣は巨大なシッポを持つ、ゴジラとかレッドキングみたいな、二足歩行のオーソドックスなタイプの奴だった。
このタイプの原型は、むろん、ティラノサウルスだ。
このてのシッポ怪獣は、骨格だけを考えると、ピカチュウとそう変わらないように思える。
ピカチュウだってシッポを有するからだ。
3頭身にデフォルメしてヌイグルミにしたら、ゴジラもピカチュウも同じようなものだ。
ところで、ピカチューに骨は有るのか?
これは難しい問題だ。
何故ならピカチューは、毎回あれだけ激しいバトルを繰り広げながら、骨折したって話を聞いた事が無いからだ。
ともあれ、目の前の出没湖に佇む怪獣は、映画『ルワンジ』に出てくるティラノサウルスのような奴だ。
ただ、少しばかり違っていたのは、股間に巨大なペニスを有している事だった。
シッポのつけ根の方には巨大な肛門もある。
この怪獣は紛れも無くオスだ。
オスで良かった。
メスの排泄器の事を書いてしまったら、(断じて性器とは言わぬ)SFのくせに18禁オンリーになるかもしれない。そうなるとgooブログとはリンクできない。(エロリンク多すぎ。との理由で。以前使用停止を食ったロッカであった)
本当にオスで良かった。
良かった良かった。
こいつが大便を終えて暫くたって、今度は出没湖の湖畔に建つ「秘宝館」めがけて、盛大に放尿した。
面白半分にペニスの先っぽをプルプル震わして、小便の軌道を変えたりしている。
「秘宝館」のシンボルである三角屋根の、てっぺんを飾る風見鶏が、降り注ぐ小便を受けてぐるぐる回る。
此処で報道していた「チャンネル201」のテレビ・クルーと、調査にきている学者達は全員、頭から浴びる羽目になった。
当然、全員怒った。
「こんちくしょう! ずぶ濡れだ!」
「うわあっぺっぺっぺっ口に入っちゃった」
「何て奴だ!」
「ゲスな奴だ!」
「あれは、まるでゲスラって感じだな」
「ううむ、行儀の悪い奴じゃ! ゲスラでいいじゃろ。ゲスラにしよう!」
こうして、風見鶏の真下にいた、日本古生物学会の重鎮、山根博士により、怪獣はゲスラと命名された。
降り注ぐ小便の中で、怒り心頭のキャスターがヒステリックに叫ぶ。
「大変です! 我々は今、まさに、怪獣ゲスラの攻撃を受けております! ついにゲスラは人類に牙を剥いたのであります! びしょ濡れであります! 臭いであります」
テレビスタジオでは様々な有識者が喋りまくっているのだが、さっぱり要領を得ない。
当たり前の話だが、誰もゲスラを知らないのだ。
この場合、有識者とは、知ったかぶりの出来る奴とか、嘘八百を並べ立てる事が得意な奴の事なのだろう。
ゲストの一人として出演していた、初老のフォークシンガー、三上寛が言った。
「なんでえ、あのキャスター、小便かぶっただけで大袈裟な。俺の唄に『小便だらけの湖』ってのがあるんだよ。久々に聞かしてやろうか?」
ギターを掻き鳴らし、唄い出した。
~♪小便~だらけの~みずうみに~あなたと~二人で~飛び込んで~唄う唄は~さすらい色唄~踊るダンスは~盆踊り~だから~だから~何でもいいから~さらけ出せ~何でもいいから~ぶちこわせ~! ってんだ!