空飛ぶ個人タクシー
「どうだいダンナ、便利なタクシーだろ?」
とエンタメ。
「冗談じゃない! 蛭まみれの……、蛭汁まみれになって……、せっかく惑星温泉に行ってキレイになったのに……、ちっくしょー! これじゃ元の黙阿弥だあ! エンタメさん、ひとっ走り、惑星温泉まで行ってくれ!」
と友和。
「はははダンナ、こいつあ、ただのビークルだ。宇宙飛行なんて無理無理」
「なら、その辺に降りて、トランクから、VF型だか何だか、宇宙船を出してくれ。──
aタイプ、悪いけど、ワープして、すぐ連れてってくれ!」
「ちょっと待って友和さん。落ち着いてください」
とaタイプ。
「おっとダンナ、これを見てくれ」
運転席の暗視モニターに映し出されている上子ノ渡の砂防ダムには、汚物が大量に盛り上がっていた。 その結果、川はすっかり流れを変えて、今や大通りが鶴田川の本流となっている有様だ。
「あれで詰まったんだな? どんぶらこっこすっこっこ。さて汚物は、何処から流れてきたのかな?」
とエンタメ。
「上流へ行って原因を調べましょ」
とaタイプ。
「エンタメさん、とにかくヒーターもっと強くしてくれ! うー寒い寒い寒い」
「あははは、色々うるさい特異点だ」
「俺は、か弱い地球人なんだ! 畜生! 寒い! 臭い! 嫌だ! あー嫌だ!」
「あははは、まるっきり辛抱ってもんが無いところが、ダンナの一番の特徴だな」
空飛ぶ個人タクシーは鶴田川の上流を目指して飛んで行く。
「ダンナ、出没湖が見えてきたぞ」
「ちくしょう! ジャックから焼酎、かっぱらってくるんだった!」
鶴田川の上流の山間部に広がる出没湖は、ぐるりと回りを、ホテルやアミューズメント施設が取り囲む観光地であった。
名産品はぶどうと養殖鰻。
そのほとんどは、お土産品の加工製品となる。
「あれは何かしら?」
「まるで巨大なビーバーの巣だ」
と友和。
「ううむ。絶対怪しい!」
とエンタメ。
暗視モニターの画面は、出没湖の真ん中に流木を積み上げたような、巨大で怪しげな人工島を映し出している。
「ビークルのナビ子に聞いてにみよう」
とエンタメ。
「大佐ア、ナビ子って呼んでるんですか~? もお。軍人らしくなーい!」
とaタイプ。
「自分だって携帯型通信機に、アクセサリーじゃらじゃらぶら下げてるじゃないか」
とエンタメ。
ナビ子は、ちょっとハスキーで、なかなか魅力的な、女の声を出す。
《出没湖中央に浮かぶ中戸島は・安政の頃より別名・神隠し島と呼ばれ・渡った人間は消え失せてしまう・という伝説があります・・・》
「な。ナビ子はいい声だろ?」
とエンタメ。
《ちなみに・・この・・中戸島って・・ゴジラが上陸したアノ島と・・同じ名前よ・・作者のセンスを感じさせるわね・・》
「な。ナビ子はウンチクも言うんだ。いいだろ? な。な」
とエンタメ。
《島の中央には・水天宮の祠が祭られています・──
なお・出没湖には・山間部の乱開発や・松枯病などの理由により・近隣の山々から・毎年多くの流木が流れ込む為・地元の観光組合はこの中戸島に・湖畔から集めた大量の流木を集積しています・・
現在は島の名前も・流木島と呼ばれています》
「なんだ。ちっとも怪しくないじゃないか」
と友和。
「いや、連盟諜報員としての長年の勘だ。やっぱり怪しい!」
「怪しいわ。ぜったい何かいるわ。これは女の勘よ!」
「お二人さん、とにかく風呂入ってさっぱりしようぜ。それから、とりあえずアツカンだ」
と、友和が弱音を吐き、一行は湖畔のホテルにチェックインした。
ホテルの6階の部屋の窓から風呂上がりのエンタメが、暗視スコープで流木島を監視している。
友和とエンタメはホテルの甚平を、aタイプは浴衣を着ている。首筋や生足がとても色っぽい。
「この辺りは臭くないな」
と、やはり風呂上がりの友和が、アツカンを飲みながら言った。
「凄い生体反応よ。すっごく大きな動物みたい」
aタイプは、例によって、ホテルのテレビと携帯とコンパクトを接続した装置を作動させて、真っ赤く染まったテレビ画面を指差している。
この装置で、アメリカの偵察衛星をコントロールしているらしいのだ。(蛭 カーゴパンツと通勤靴 参照。)
「成る程、あの流木島が怪獣島って訳か。そうしてみると、砂防ダムを詰まらせた汚物ってえのは、怪獣の排泄物って事になる」
とエンタメ。
「臭かったもんな。さすがは情報将校らしい鋭い推理だ」
と、笑いながら友和。
「下流の川の方をトイレにしてるんだわ」
とaタイプ。
「水洗トイレだな」
と友和。
「だから此処は臭くない」
とエンタメ。
「何食ってるのかな?」
と友和。
「肉食だった場合、地球上に、一番うじゃうじゃいる動物といったら……」
とエンタメ。
「あのウンチの臭いは、絶対肉食だよ」
と友和。
「それじゃエサはやっぱり、人間って事かしら?」
とaタイプ。
「そういう事になる。おー怖わ! 人食い怪獣ってんだ!」
と友和。
「何れにしても、朝になったら正体を拝ましてくれるさ」
とエンタメが言った。
「とにかく、飲も飲も……。地酒か。『隠しきれないこの旨さ〝酒仙・神隠し〟』だって」
と友和。
「何かツマミ、取ろうぜ」
とエンタメ。
「プリンがいいな」
とaタイプ。