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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
43/45

  市破の遅い春 上   うな重

 市破防衛大臣は変な夢をみた。

 それはやけにリアルな夢で、嫌な夢と言うよりは、むしろ不思議な夢だった。


 総理と太郎外務大臣と3人で、ゲスラ対策の話し合いをしていたところ、他の国会議員全員に爆笑されてしまったのだ。

 眠主党の江田野議員に、

「もお、ゲスラって何ですか? アンタ達、大ボケですね。邪魔だから、アッチ行ってください」

 と言われてしまった。


「何だキサマ! 若造のクセに! 私に対しての態度はトモカクとしても……総理に失礼じゃないか!」

 と言っってやったのだが、

 いつのまにか現れた農協のオッサンたちに、


「酔っ払いのボケ議員」

「お前の脳みそ、鬼熊隊長の半分」

「バーカバーカ」

 とはやし立てられてしまった。


 なんと、夢の中の市破は下野していた。つまり防衛大臣ではなくなっていた。

 しかも爺民党は野党となっており、眠主党が政権を取っているではないか。


 それどころか夢の中の世界では、東日本が未曾有の大災害に見舞われており、福島の原発までも大事故を起こしていて、まさに、カタストロフィ真っ最中といった有様であった。


「あ、なんだかアタマが……。だからSFって嫌いなんです。怪奇伝奇ミステリーなら好きです。……アルファポリスの大衆娯楽にランキング中って? もー、何でもいーです。1時間程席を外しますから、その間に対策を練ってください。いずれにしても、……私の責任じゃありません」

 こう言って、いつものように総理が逃げた。


 太郎外務大臣は浪曲のような渋い声で言った。

「あのね。国会議員たるもの、いかなる場合でも現実を直視しなきゃイケマセン。たとえ野党になったとしても、それが何だってんだ! 我々自慰民党は……え? 字が違う? 党名が違う? 爺民党ってアンタ……うむ。……こりゃ何かの間違いだな。……え~実は、アタシャ前から眠主党員だったような気がするんだよ。そーだ! ハトヤマクンなら知ってる筈だ! オザワクンだって証明してくれる筈だ! ちょっと眠主党本部へ行ってくる」



 カーテンの隙間から朝の光が差し込む。

 旋回中のヘリコプターの音が聞こえる。

 なかなか防音の効いた部屋らしい。だから我慢できない程ではない。


「まったく。すっとぼけたオヤジどもだ。……しかし、あのヌルカンが総理って……想像力を遥かに超えてるよ。……まさに悪夢……ふう。……あっ!」

 ベッドから起き上がった市破は、タバコを吸っていた。


 出没湖畔の展望ホテルに宿泊したのだが、バーボンと柿ピーを持ってきた鬼熊隊長の忘れていったタバコが、サイドテーブルの灰皿の脇に無造作に置かれていたのだ。


「うっわっ禁煙……破っちゃった……じゃないかあ。……ぷはあ……ふにゃふにゃ……久々に効くにゃあ……はふう……気持つええ……」

 ポッと温かくなって弛緩する五体。法悦境の市破は再びベッドへつっした。


「ふわあ……やっぱり……禁煙って……馬鹿のすることだな……も一本吸お……せっかくだから……コレもちょびっと……」


 安楽椅子に移って新たなタバコを咥え、ショットグラスにバーボンを注ぐ。

 喉に熱く流れ込むアルコールが、また、たまらない。


「ぷいっきー! サイコーってんだ! もお……朝だけど、アダルトチャンネル見よ」




 都知事その他の殉職。そして特別調査隊の焼死による全滅の報を受け、研究施設で眠るゲスラの抹殺どころじゃなくなった。

 当面の危険は、やはり流木島に消えたゲスラの群れ、或いは高度な火器を持った何者か。という事になった。


 焼殺事件の夜、巨大なゲスラがレーダーに映った訳じゃない。

 いち早く現場入りした科捜研によれば、火炎放射器を使用した痕跡は皆無との事。

 もっと高度な火器が使われたのであろう。との見解であった。


 とすれば、特別調査隊を襲ったのは、高度な火器を持った何者かって事になる。

 何者とは何者か?


 流木島はこの大量殺人事件の捜査中であった。

 出没湖には警察と自衛隊が競い合うように船を浮かべた。

 ヘリコプターに吊り下げられて運ばれた調査船だ。これはダイバー達の活動拠点となる。

 小型潜水艇も運ばれてきた。


 湖畔にはマスコミが押し寄せてきた。

 自衛隊の制止線の前には砲列の如くカメラが並び、各局の美人レポーターも総がかりといったところだ。戦車の上で鬼熊隊長がポーズを取っている。



 携帯が振動した。そもそも鳴りっぱなしなのだ。そこで、マナーモードにして、あらかた黙殺している市破であった。


「ふにゃふにゃ。今度は誰だ? 鬼熊か。もしもし。あーもお! 喋るな。ウルサイ! 当面は警察の捜査が最優先でしょーが! しっかり防衛線を固めてろ! 今はそれしか出来にゃーだろが! それより鬼熊、タバコが切れた。すぐ買ってきてくれ。うん。お前と同じやつでいい。それとバーボンが切れそうだ。一本頼む」






 出没湖畔のうなぎ屋は朝っぱらから大繁盛であった。


 ごった返している訳じゃない。

 テーブル席の一角を占める外人客の女達が、やたら大食いで矢継ぎ早に注文するからだ。


「へいお待ち~」

 と言って、モヒカン刈りの若者が、うな重と、きも吸い、おしんこの乗った角ぼんを運んでいる。

 見れば、鼻ピアスも、♂タトゥーも、スキー帽も手伝っているではないか。

 このうなぎ屋は、モヒカンの父親がやっている店なのだ。


「あ。総理大臣がいる」

 と言ったのは美那子だ。

 美那子に善行に伸恵ちゃん、そしてめくりちゃんとマリ子ちゃん。ヒマ人客のヘスも。つまりロマーノの連中が、美那子の提案に乗って、店を閉めてゲスラ見物にやって来たのだ。(スカンバック 参照。)


 テレビで見た超巨人が、まぎれもなく友和だった事が気になってしょうがない善行は、

「巨大化した友和が出てきたら、何が起こってるのか聞かなくっちゃな」

 とハンド・スピーカーを持ってきている。

 これで、超巨人になった友和と会話するつもりなのだ。


 店内は、老舗のうなぎ屋の、かば焼きの匂いで一杯だ。


「今度は大量焼殺事件ですか。……次から次に……せめて栄養とらなくっちゃ。(総理なんて)早く辞めたいよ……」

 と総理大臣がぶつぶつ言っている。

 周りにたむろする秘書官達やSP達、それに番記者の連中もご相伴に預かっている。


「ねえ君、流石に老舗だね。コレ(うな重)旨いねえ」

 と総理がモヒカンに話しかけた。


「ウッス! 何せ朝イチで入荷した福建省からの空輸モノっすから。ピチピチっす」

 と満面の笑みで答えた。


「ふ、福建省?」

 と総理。


 ──パッカーーーーン!


 と親父のひしゃくがモヒカン頭に炸裂した。


「みぎゃーっ!」

 とモヒカンの叫び声。


「この馬鹿ボーズがっ! えへへ。総理、馬鹿のジョークですから……。出没湖産に決まってるでやんしょ。えへへへへ」

 と親父が言った。


 その時、顎髭と口髭と長髪の、ヒッピーのようななりの男が、やはりヒッピーのような、バンダナを巻いた丸ポチャ女と一緒に、店内に駆け込んできた。


 色めきたったSP達が総理の前へ出て人壁を作った。

 すかさず拳銃を抜いた奴もいる。


 ヒッピーが叫んだ。

「アナタ、総理大臣ですよね! 日本で一番偉い人! 直訴します。ジキソ! 話を聞いて下さい」

 そしてSPの人壁の前で土下座した。女も一緒に土下座する。


「あっキリスト先輩」

 と鼻ピアスが叫んだ。


「マリア先輩も。一体どうしたの?」

 とスキー帽。


 SPは、男女のヒッピーを立ち上がらせ、身体検査をしている。


「武器は持ってません」

 とSPの一人が言った。


 座ったままの総理が言った。

「キリストさんって? アナタたち誰ですか? うな重が食べたいの?」


 ヒッピーが答えた。

「総理、俺たち見たんです! 流木島の調査隊が焼き殺されるとこ」


「ひょえ~!」

 と♂タトゥーが歓声をあげた。


「ふわっ恐い」

 とめくりちゃん。


「おい善行、面白くなってきたな」

 とヘス。


「なんだあ? どういう事なんだあ? コッチ来い!」

 と古参のSPがヒッピーの腕をつかんで引っ立てようとしている。


 抵抗しながらヒッピーが叫ぶ。

「あー! 喋るにあたって、条件があります! 応じてくれなきゃ絶対喋らないから!」


「条件ってコノヤロ! 誰に向かって……。総理、コイツ警察本部に連行しますから。どうぞ食事を続けてください」

 と古参のSPはヒッピーの腕をひねり上げて、手錠をかけようとしている。


「ひどい! やめてー!」

 と女のヒッピーが叫ぶ。


ひでえや。先輩は何もしてねーじゃねーか!」

 と、親父のひしゃくを警戒しながらモヒカンが言った。


「ちょっとあなた、横暴すぎるわよ!」

 と見かねた伸恵ちゃんも立ち上がって言った。


「伸恵ちゃんカッコイー!」

 と美那子。


 総理が言った。

「ちょっと待ちなさい。条件って何ですか? 君(SP)、放してあげなさい」


 古参のSPがヒッピーを放して言った。

「ほら、お前、喋ってみろ。総理がお尋ねだ」


 総理が言った。

「アナタお名前は?」


「総理ってトッロいわね。名前聞いてる場合じゃないでしょ!」

 と座りなおした伸恵ちゃん。


 ヒッピーが答えた。

「俺はキリストって呼ばれている地元の人間です。こっちがマリア。本名はカンベンしてください」


「本部長(警察)を呼びますか?」

 と若いSPが総理に言った。


「警察には喋りたくない。俺、怪しいものじゃないですよ」

 とキリスト。


 目でSPを制した総理が言った。

「アナタ、充分怪しく見えますけどね。で、条件って何ですか?」


「まず、ここで、総理が立ち会ってくれたら、うな重、食べながら、総理にじかに喋ります」

 とキリスト。


「やっぱり食べたかったんですね。応じましょう。親父さん、うな重2つ」

 と総理。


「特上で、きも吸い付きで。アツカンも、大トックリで」

 とキリスト。


「キリスト先輩。さっすがあ!」

 とスキー帽。


「スッゲ! 総理にオゴらしてやんの」

 と鼻ピアス。


「ハイハイそれ2つ。アツカンは駄目です。お茶になさい」

 と総理。


 ヒッピーの男女は小上がりに上がりこんで座った。これで座卓越しに総理と対面。

 モヒカンが特上うな重ときも吸いを運んでくる。


「おいマリア。冷めないうちに食っちまおうぜ」

 とキリスト。


「ウン。これ美味しい」

 とマリア。


 全員の凝視をものともせずに、二人は貪り食っている。


「もお、本当にじれったいわねえ」

 と伸恵ちゃん


「オジサン。アツカンのラージ5本と、カバ焼きアト6つ。ヒヤヤッコも6つ」

 とテーブル席の外人女性客。


 食べ終わったキリストが、お茶を一口すすって切り出した。

「総理、まず、約束が欲しいんです。絶対に俺を逮捕しないって……」


「アナタちょっと瞳孔が開いてますね。何か、おかしなクスリとか、やってません?」

 と総理。


「ほんとに総理って、じれったい人ねえ」

 と伸恵ちゃん。


「だけど、あのキリストさん、ちょっとテンパッてるみたいだな」

 と善行が言った。


「そうだ。ありゃ、アハハ。キメてる顔だよ」

 とヘス。


「やっぱコレか?」

 と善行がチョキを作る。


「そうだ。食欲を直撃ってな」(超電導美那子WXY『青春、波高し』 変チックリン・サーキット参照。)

 とヘス。


 ここで、店内を見回した秘書官が大声を出した。

「えー、民間人の皆様、事情が込み入ってきましたので、食べ終わった方から順番に店外へ出て下さい。それから店主殿、ここは貸切にさせてもらいます。従業員の方も速やかに店外へ出て……」


 すかさずキリストが叫んだ。

「条件のひとつ! 皆さん、そのままで! 立ち会ってください。俺と総理の約束の証人になって下さい」


「約束ってアナタ……焼殺事件に関与してるって事ですね? 困った人ですね……」

 と総理。


「お願いします。日本で一番偉い人。あ、一番は天皇陛下か? とにかく総理、俺を助けて下さい」

 とキリスト。


 総理の目配せを受けた秘書官が、再び大声を出した。

「えー皆様、前言は撤回します。ま、お帰りになりたい方は、どうぞご自由に。総理、これでいいですか?」


「何よ偉そうに! 自分でしゃべりなさいよ!」

 とテーブル席にいた外人女性客が、総理を睨んで言った。

 エキゾチックな、かなりの美人じゃないか。


「まどろっこしい星ね」

 と連れの大女が言った。アイパッチを付けている。

 空になった重箱を重ねている。彼女一人で8個は食べた勘定だ。


 そう。ヒルダ大佐とボア大尉。コブラ大尉とマムマム中尉が来店しているのだ。

 現地の案内人、コードネーム〝近所のオッサン〟と〝買い物帰りのオバサン〟も一緒にいる。


「おいヘス、すげえ美人がいるな。イデデデ。美那子……よせ」

 善行の太ももを美那子がつねっている。


 SPの一人が総理にひそひそと耳打ちした。

 総理は納得顔になった。


「成る程。読めました。流木島で大量の大麻が見つかったそうです。栽培していたのはアナタですね」


「司法取引を要求します。俺は焼殺犯人を見ました。情報を提供しますんで、アレは、あくまで野生の大麻って事で……なにとぞ……」

 とキリストが言った。


「ナマイキな! 司法取引だって! 笑わせんじゃねー!」

 と古参のSP。


「総理、麻取り(麻薬取締り局)に連絡しましょう」

 と若いSPが言った。


「お。『相棒』の右京さんが出てきそうな展開」

 とヘスが言った。


「君(SP)、ちょっと待ってください。とりあえず、焼殺事件の話を聞かせてください」

 と総理が言った。


「えー司法取引を要求……」

 とキリスト。


「なんだと! コノヤロ! アメリカじゃねーぞ!」

 と古参のSPが腕まくり。


「いいから。続きを喋んなさい」

 と総理。


「ゼッタイ逮捕しない?」

 とキリスト。


「野生の大麻なんでしょ? アナタの名前が書いてある訳じゃない。大丈夫です」

 と総理。


「総理、うまい事、言うわね」

 と伸恵ちゃん。


「若者を騙すなんて、お手のもんだよ」

 とヘス。


 ところで、モヒカン達4人が、そっと店を出ようとしている。


「そこの4人、動くな!」

 と古参のSPが言った。


「なんで? さっき、お帰りになる方は、どうぞご自由に。って言ったじゃねーか」

 とモヒカン。


「オマエラの考えなんてお見通しだ! 流木島には行かせないぞ!」

 と古参のSP。


 ──パッカーーーーン!


 とモヒカンの無防備な後頭部に、ひしゃくの一撃。


ってよーっ!」

 とモヒカン。


「まったく、この、馬鹿ボーズがあ!」

 と、ひしゃくの柄を握りしめた親父が言った。



「連中見てると若い頃を思い出すな」

 と善行。


「オレは違う。パンク以降の連中は、どーにも理解できん」

 とヘス。


「そっかあ。お前、焼け跡派だったもんな」

 と善行。


「うん。焼け野原で古クギひろって換金してって、違うって!」

 とヘス。


「とにかく。若さって本当に、イーモンですね」

 と善行が言った。





 その頃、出没湖は鶴田川との分岐点の浅瀬に立つ研究施設『ゲスラのまな板』では異変が起こっていた。

 ゲスラがモスラのように(簡単な表現)、全身からねばねばの糸を分泌し始めたのだ。

 糸の色は金色であった。

 これがゲスラの全身を、くまなく覆ってゆく。

 そうだ、これはまゆだ。繭を作っているのだ。

 一体、何のために……何が起ころうとしているのか?


「ゲスラが金玉状の繭の中で、ベロベロ化して、パワーアップするのでありんす」

 と参照太夫が、ミもフタも無い事を言った。





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