『疾風POKKA作戦』 act 8 【謀殺 2】
「重巡ビトープレッソ。ブースター点検作業、開始します。──
点検規定にのっとり、一旦、距離を置きます。
……。
破損部分確認の為、噴射口を、後方より俯瞰しています。
センサー、目視、ともに破損部分、確認できず」
船外作業に出たケロニー大尉からの通信だ。
船尾からちょっと遠ざかって宇宙遊泳中。
ヘルメットカメラが巨大な噴射口を写し出す。
6機の噴射口が、真田の〝六文銭〟さながらに並んでいる。
「あっ、また、オジン臭い例えを……」
と参照太夫が言った。
「シカシ、それじゃ、どう書く?」
とロッカ。
「信号機を2段にした感じ。……よけい分かり難いでありんすか?」
と参照太夫。
「それならむしろ、半ダース入りのコップの箱のフタを開けて、上から見下ろした感じ。だ」
とロッカ。
「長くてクドイでありんす」
と参照太夫。
「だろ。やっぱり〝六文銭〟だな」
とロッカ。
◎◎◎ ・
◎◎◎ ↑
巨大6連噴射口之図 ケロニー大尉の比率。
「こんな風に、記号を使うって方法も……あっ。本文の大事な説明部分でありんした。──
話を分断しないでくんなまし!」
と参照太夫。
「分断したのはお前だよ」
とロッカ。
◎◎◎ タッタカター!
◎◎◎ 風雲真田六文銭。
パカランパカランと家康は逃げた。
「なむさん! もはやこれまでか?」
「ふははは。この幸村から逃げられるか! 家康覚悟!」
「うみみ~!」
「許してくんなまし。──
ロッカが、また馬鹿になってしまった」
と参照太夫。
司令室のモニター画面が左右に2分された。□□
左の画面は、尾翼に設置された船尾方向の監視カメラが、宇宙遊泳中のケロニー大尉を捉えている。
特技大隊の作業用宇宙服は、あらゆるセンサーが内臓されている大きな物だ。
だがそれは、建設作業用のロボットのようなモビルスーツタイプと違って、従来通りの〝宇宙服〟の形態だ。
「噴射口へ近づきます」
ケロニー大尉は、噴射口界隈に取り付いた。
司令室のモニター画面が、一画面だけに戻った。(□ ←ヘルメットカメラの画像のみになった)
これはケロニー大尉が、監視カメラの〝死角〟に入った為だ。噴射口部には監視カメラが設置されてない。
「えー確かに小さな玉が(パチンコ玉のような。。。。。。)たくさんくっついてますね。──
噴射口の裏側(外側)が特に多いです」
◎◎
・
↑ ケロニー大尉の位置。
「パチンコ玉。手にとって見ます。……おっ! しっかりくっついてる。……。
うんしょっと。……剥がしました。磁気が強いですね。まるで磁石だ。磁化してあるのかな?」
《《《 。》》》
ケロニー大尉は、宇宙服に取り付けてある種々のセンサーを作動させている。
司令室内の副官が、モニター画面を見ながら小声で言った
「ああ、どうしましょ! 機雷は無いって事が、そのうちバレますよ」
「それにしても、磁性を持ってるなんて……。いまいましいパチンコ玉だ!」
とカーン艦長。
ケロニー大尉の通信。
「電磁石になってるのかも……。
これはビーコンみたいですね。電波を発信し続けてます。……。しかも、周波数が変化してゆく。
……。
電波反応の無いのもいっぱいあります。電池が切れたのかな?
それとも……あっ。コッチが機雷かな? 圧力に反応したりして。ヤバイな!」
カーン艦長が言った。
「そうか。おそらく、それが機雷だ。ケロニー大尉、すみやかに艦内に引き上げたまえ!」
副官も呼びかける。
「危険です。機雷は遠くに放り投げて、すぐ帰ってきて下さい。後で掃海班を出しますから」
だが、ケロニー大尉は作業を止めない。
「ええ大丈夫。機雷は完全に機能停止してます。──
何個かサンプルケースに採取します。
このケースは超低温を保つ物で、だから万が一にも爆発の危険はありません」
カーン艦長が小声でつぶやいた。
「ああ。若者よ。何故に、死に急ぐ。殺したくない……」
更に副官が呼びかける。
「ケロニー大尉。サンプル採取ご苦労さま。あとは掃海班に任せて。艦に戻ってきて下さい」
だが、ケロニー大尉は真面目な男だ。
「規定どおりに、亀裂検査をやらなきゃ……。
超音波検診器を持ってきてますから、微細な亀裂も発見できるんです。
1号噴射口に入ります」
副官が小声で言った。
「あわわ。入っちゃった。もうダメだ。バレちゃう」
カーン艦長も小声で言った。
「しょうがない。もう止められん」
ケロニー大尉の作業は続く。
「1号噴射口は無事です。亀裂なしです。──
続いて、2号噴射口に入ります」
沈鬱な表情でカーン艦長が言った。
「ケロニー許せ。ブースター点火!」
だが、メインコンピューターは、こう答えた。
《・・ダメです・・出来ません・・》
カーン艦長が言った。
「ケロニーは、お前の処分を伝えにきた奴だぞ。いいから、ブースター点火だ!」
《・・出来ません・・》
「ユニットを倉庫に隠してやるつもりだ。大改編が済んで、ほとぼりがさめたら、また復帰させる。お前だって生き残る権利があるんだ!」
とカーン艦長。
「頼むから点火してくれ!」
と副官。
《・・出来ません・・》
副官が言った。
「ああ。やっぱり、人工知能には生存本能が無いって事です。〝自我〟が無いんでしょう。つまり、ただの機械だって事!」
カーン艦長が言った。
「くそっ! 何がプライドだ! でくのぼうめ! それとも何か? 良心が咎めるのか? 何か宗教でもやってるのか? 笑わせるな! クソッタレ機械め!」
《・・何と言う・・罵詈雑言・・・私だって・・生存本能はあります・・・だだ・・》
「ただ、何だ? 言ってみろ!」
とカーン艦長。
《・・どうしても・・・安全回路が・・働いてしまって・・・どうにも・・》
「ワハハハハ! 何だ。そういう事か。ワハハハハ!」
とカーン艦長が笑った。
「戦闘モードに切り替えましょう」
と副官。
「よし。臨戦モード! レベル2だ! これで戦闘最優先」
と艦長。
《・・レベル2発動・・》
ここで、ケロニー大尉からの通信がきた。
「艦長。2号噴射口も亀裂はありません。──
3号噴射口に入ります」
「……入ったか?」
とカーン艦長は確認する。
ケロニー大尉が答える。
「はい。入りました。見えますか? 噴射口内部の作業用の取っ手が映ってるでしょ?──
点検を続けます」
モニターを凝視しながらカーン艦長の声が震える。
「よおし、ケロニー大尉、奥の方を、よおく調べてくれ」
「わええ。なんまんだぶ。なんまんだぶ」
と副官は合掌している。
ケロニー大尉は、噴射口の奥へ移動する。
カーン艦長が静かに命令する。
「いいか、当艦は前方へ移動する。微速前進!」
《・・微速前進・・ブースター点火します・・》
──バオーン
噴射口は高温ガスを噴射した。
「わぎゃっ! 何だ? ギエエー! 熱い熱いケロケロ! 助けてー!」
噴射ガスを全身に浴びながらも、作業用取っ手にしがみ付き、火ダルマのケロニー大尉は、悶え苦しんでいるではないか。
そうだ。特技大隊の強化宇宙服は、耐火能力が抜群なのだ。勿論、限界はあるのだが。
ケロニー大尉は、地獄の業火に焼かれている。
「グエーウエーー! ナンデジャー! 熱い熱い! わぐゅれば! お母さーん! びしゅしゅしゅじゅるーじゅるじゅるー」
副官は恐怖の声を洩らす。
「ふえー! まだ死なない! 早く死ね! 許してくれ! 許してくれ」
カーン艦長は冷徹だ。モニターを凝視しながら言った。
「初速はガスの温度が以外に低いんだ。しかし特技大隊の宇宙服はたいしたもんだ。まだ生きてる」
ケロニー大尉は全身に大火傷を負いながらも死にきれないでいる。
「ぶじゅるぶじゅるぶじゅじゅじゅ! カーンメ! コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・モ・ノ・カ・」
副官が泣き叫んだ。
「許してくれ! ケロニー、今、楽にしてやるぞ。全速前進だあ!」
《・・全速前進・・最大噴射・・》
──バァブボオーーー!
「グエーーーーー!」
とケロニー大尉の断末魔の悲鳴。
Gがかかって、カーン艦長と副官は後ろにひっくり返り、床に、したたか頭をぶつけた。
モニターは、真っ赤くなった宇宙服の腕の部分が、破れてめくれあがる様子を最後に、ブツッと暗くなった。
そして、すぐさま船尾の監視カメラに切り替わった。
監視カメラは、ケロニー大尉だった熱塊が、吹き飛ばされて行く様子を映し出した。
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「鬼畜な話でありんすな」
と参照太夫。
「まあな。いつの世だって老人は、保身の為に良き若者を殺すんだ。含蓄があるだろ?」
とロッカ。
「それにしても……ぶじゅるぶじゅるぶじゅじゅじゅ! でありんすからな。こんなモノを書いて、恐くないでありんすか?」
と参照太夫。
「何を言う。ふはははは。この程度の惨酷が書けないでドースル?」
とロッカ。
「ぶじゅるぶじゅるぶじゅじゅじゅ! って、焼けてる音でありんすか?」
と参照太夫。
「そうだ。焼肉屋と一緒だ」
とロッカ。
「あきれたもんでありんすな……」
と参照太夫は立ち上がった。
「あ。参照太夫、何処行くの?」
とロッカ。
「気分直しに『ロマーノ』へ行って、一杯、飲むでありんす」
と参照太夫。
「あ……」
とロッカ。
「何でありんすか?」
と参照太夫。
「……独りにしないでくれ……」
とロッカ。
「ぶじゅるぶじゅるぶじゅじゅじゅ!」
と参照太夫。
「ヒ~ッ! 俺も行く。置いてかないでくれ!」
とロッカ。
「ぶじゅるぶじゅるぶじゅじゅじゅ!」
と参照太夫。
「ヒ~ッ! ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」
とロッカが言った。
と、馬鹿はさておき……。
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「あたら有望な若者を……気が咎めるよ」
とカーン艦長が言った。
「本当に。ケロビョンにしとくのが、勿体ない奴でしたね」
と副官。
「そうだよな。ケロニー大尉は、ケロビョンだったんだよな」
とカーン艦長。
「アッパレなケロビョンってとこですね」
と副官。
「ま、ケロビョンの一匹や二匹。どうってことないよな」
とカーン艦長。
「そうですよ。ケロビョンですもんね」
と副官が言った。