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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
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  『疾風POKKA作戦』 act 3 【イケガミの作戦】

 銀河連合軍、第73軍、重巡洋艦ビトープレッソ艦長、チンギス・カーン大佐は思案していた。


 司令室には大きな丸窓がある。

 真っ黒な宇宙空間を凝視しながら言った。


「クリントンめ。馬鹿をよそおってワナを仕掛けるとは、……恐ろしい男だ」


 重巡じゅうじゅん「ビトープレッソ」は、昔ながらの電文を受信していた。


 ──・・・虚偽きょぎ臨検りんけんによる宙賊ちゅうぞく犯として・・・連合兵士12名逮捕・・高速艇は捕獲した・・・・銀河連合とは・・奸佞かんねいにして悪辣あくらつなり・・・・連盟政府は今だこの事件を知らず・・・・このまま・・知らせずにおく・・・・・我・・双方の緊張を望まず・・・・両勢力の紛争は・・無辜むこの民に悲劇をもたらすのみである・・・民の礎たらんと志す我・・民の不幸・・忍び難し・・・・・よって平和的取引にて解決を望む・・・・速やかに身代金もしくは相応の物品を提示されたし・・──


「ナーニガ、民の不幸、忍び難しだ。……偽善者め!」

 とカーン艦長が、吐き棄てるように言った。


「ホログラム回線を使わないなんて……。やはり向こうも、後ろ暗いんでしょうね」

 と、副官が言った。


「そりゃそうさ。……ま、こうなりゃ同じ穴のムジナで助かったって事だ。おおやけにされたら、ヤバイなんてもんじゃない。しかしクリントンめ。連盟議員としての名誉より、実利をむさぼるとは。……かなり屈折してるな」

 とカーン艦長。


「何せ奥方が、連盟副大統領ですからね。自分の手柄は奥方の手柄になるんでしょ? これ以上栄達して欲しくないのかな? ……並の屈折じゃありませんね」

 と、副官。


「しかし困ったな。金はないし……」

 とカーン艦長。


「ワハハ。無いから、宙賊やったんでしょ。……こうなったら艦長、サルチル星の〝秘宝の香油〟アレしかないですね」

 と、副官。


「しかしアレは、参謀長の代理として、執政官から無理やり没収したモノだ」

 とカーン艦長。


「他には、めぼしいモノなんて、無いですよ」

 と、副官。


「仕方がない。緊急事態だ……。クリントンと取引しよう! ──

 さっさとすましてサルチル星へ戻って、もう一度調達しよう。

 今度もグズグズと出し渋ったら、鉱山を爆撃してやる!」

 とカーン艦長。



 軍律違反である宙賊行為を働いた訳だが、その事はたいして問題じゃなかった。

 連盟船に難癖をつけて金品を巻き上げる事は、連合軍の艦長なら誰もがやっている事だ。


 没収した金の一部は賄賂として上層部に流す。

 将軍連だってその余禄を楽しみにしている。


 連合の勢力拡大の〝実践行為〟とさえ見なされ、「手柄」とさえ呼ばれている。勿論、非公式にだが。


 だが、失敗して人質まで取られたとなると、話は別だった。

 しかも「急襲高速艇」ごと12名も……となると、これは「敗北」以外の何物でもない。


 軍隊生活の進退に関わる問題だ。

 だが、それよりむしろ問題なのは、軍人一族カーン家の当代当主として、敗北を喫するという事の、恥辱なのであった。






「ステッペン・ウルフ」は、識別信号を受信されぬように、すべてのコンピューターをシャットダウンしていた。

 旧式無線機のモニターが光った。これはもはや骨董品的代物なのだが。


 ──取引に応ずる・・・サルチル星産〝秘宝の香油〟1ラムドンカ(銀河系共通単位)だ・・・・・・当方軍人にして商人にあらず・・・駆け引きはしない・・手短に願う・・──


「おー!」

「ヤッター!」

「1ラムドンカとは凄え」

「こいつあ太っ腹だぜ!」

 とエステボー達がどよめいた。


「ワナじゃないかね?」

 とモータクトー。


 レーニンが言った。

「大丈夫だろ。何しろ、軍人にして商人にあらず。って言ってんだ。ボス、俺が受け取り行ってきます」


「ロボット使った方がいいんじゃないか?」

 とゲバラ。


「いや、ロボットじゃ騙されるかもしれん。──

 キワドイ代物が出回ってるんだ。

 俺なら大丈夫。

 チンコロン時代に〝連合〟に売り飛ばされて、サルチル星で強制労働させられたんだ。

 地獄の鉱山で〝秘宝の香油〟の原石を採掘してたんだ。

 お前(ゲバラ)が来る前の話だ」

 とレーニン。


「今、原石って言ったよな。原液じゃないのか?」

 とゲバラ。


「そうか……知らんのか。──

〝秘宝の香油〟は石をしぼるんだ。

 大量の原石から、ほんの一滴ひとしずくだ。

 そりゃ酷い労働だった。

 生き永らえたのは、精製班に廻されたお陰だ。

 一滴ひとしずくを更に精製するんだ。

 鉱山労働がどれだけ過酷か、解るってもんだろ?

 ……。

 クソ! 嫌な記憶だぜ。……ミナコ(245ヶ星系独裁官)め! 

 とにかく、お陰様で、本物の〝秘宝の香油〟の見分け方を知ってるって事だ」

 と、レーニンは感懐深い顔をしている。


「ボスが助けた時、レーニン、ガリガリ痩せて、顔ま黒たたよ」

 とモータクトー。


「ま、〝秘宝の香油〟かっぱらいに行った、ついでに助けたんだけど。な」

 とヨシユキ。


「きったねオヤジがいる。たすけてやれ。ボスゆたよ」

 とモータクトー。


「ボスの〝ついで〟に感謝。わはははは」

 と笑いながらレーニンは、2人のエステボーを連れて、小型艇へ続くゲートのハッチを開けた。



 245ヶ星系において、チンコロン解放運動が盛んだった頃、検挙されたレーニン達活動家は、見せしめの為、ムジナ星の奴隷商人に売却された。

 決定を下したのは独裁官ミナコであった。


 その後、連盟圏内をあちこち転売された挙句、連合圏内サルチル星で開放の日を迎えたのである。

 ヨシユキによって開放された後は、エステボーとなって3馬鹿大将の一人となった。

 レーニンの独裁官ミナコへの怨みは深い。


 ──ミナコめ! いつの日か必ず、ロッカのHBE(変態馬鹿エロ)小説、『約束の地』の「里緒菜の悶絶」みたいに、グッチョングッチョンにして、……とにかく、いたぶってやる!


 と復讐に燃えている。



「取引座標のK点、決定しました。03X23X16時方向。コンマ7単位先」

 とエステボーナビオ。


 小型艇は音も無く、漆黒の空間へすべり出した。


「レーニン発進したある」

 とモータクトー。


 エステボーヨシユキは、コクピット中央の船長席に座った。


「よし。こっちもK点に向かう。微速前進。ヨーソロー」



 時空艦「ステッペン・ウルフ」はK点に向かってゆっくりと進む。

 重巡「ビトープレッソ」の方角に向けて、大量のダミービーコンを射出しながら。


 船体の全てのライトを消して、まるで漆黒の中へ溶け込んでゆくようだ。

 満月の3倍程に見える海王星が、寒々しい光を放っている。


 照度を落としたコクピットの中は、静まり返っていた。

 エステボー達は、めいめいの持ち場で物思いにふける。

 普段は音楽が流れ、明るい照明の中で馬鹿騒ぎをしているのだ。

 若いエステボーが、そっとコーヒーを配っている。


 船長席のヨシユキもコーヒータイムだ。


「お前(イケガミ)の作戦が当たったな。

 ヤツ(カーン艦長)は、宙賊との取引なんてしない。

 即座に人質ごと皆殺しにする。

 そうだ。〝宙賊退治〟の手柄は、軍人に取っちゃ文字通り勲章モンだ。

 部下なんか殺しても平気なんだ。

 宙賊との戦闘により死亡って事にする。

 クソッタレめ!」


 エステボー達は聞き耳を立てている。

 イケガミが解説する。


「クリントンが〝辺境警備隊〟(森林警備隊のようなもの)を抱き込んでいるって筋書きです。──

〝連盟軍〟を使うと、地方部隊にしたって〝造反部隊〟って事になりますから。

〝連盟軍〟はダメ。

 それから〝連盟警察〟も当然、ダメ。

 この背任は汚職に留まりません。反逆罪になります。

 クリントンも命がけって事になります。

 冷静に考えると、ありえない筋書きなんです。

 今、〝辺境警備隊〟の識別コードを、「ダミービーコン」を使って流しまくってます。

 これで偽装は完璧だと思います」


 レーニンからの電文が届いた。


 ──ボス、〝秘宝の香油〟回収しました・・・本物です・・・・量もしっかり1ラムドンカ(ドラムカン1本相等)・・問題なし・・・・さすが軍人ってとこですな・・・・ゲバラ、人質を送り出してくれ──


 燃料を抜かれた、連合の「急襲高速艇」は、K点へ向かって押し出された。

 そのまま自由落下を続ける。

 すべての電源を切られ、空気も抜かれた艇内は無重力だ。

 宇宙服を着た兵士達は漂いながら、或いは支え合って不安に耐えている。


 〝秘宝の香油〟を回収した小型艇は、偽装周波数を流す「ダミービーコン」を、大量にバラ撒いてゆく。

 このパチンコ玉のような「ダミービーコン」は、一個一個が百通りもの周波数を、ランダムに変化させながら発信し続ける。

 単純な仕組みながら効果は抜群。〝宙賊七つ道具〟の一つである。


 レーニンは更なる電文を送る。


 ──ここからだと〝重巡〟がハッキリ見える・・流石にデカイな・・・・画像を送る・・見てくれ・・・・


 アナログ信号を使った映像が送られた。

 ここで初めて「ステッペン・ウルフ」は、銀河連合軍重巡洋艦「ビトープレッソ」の姿を見た。


 モニター画面の前でエステボー達がどよめいた。


「ひゃあ! ゴツイな」

「まさに、軍艦だ。連盟艦なら〝モモトンボ〟クラスだな」

「ありゃ砲か?」

「ビーム砲? 波動砲か?」

「スンゲ!」

「あんなの食らったら……」

「ウチのシールドなんて一撃でオシャカだな」

「やり合わなくて良かったな」

「やり合うなんてトンデモナイ!」




 小型艇レーニンを回収した「ステッペン・ウルフ」は、安全圏を目指して遠ざかって行った。

「ダミービーコン」を楯にしながら。静かに。虚空間の負角を突くジグザグ航行で。


 ヨシユキが、何やらぶつぶつ言っている。

「よおし! 思い知らせてやる。エステボー様をなめるなよ! ただ逃げてんじゃねえぞ。俺は勝つ! 猿の蚤とり。節分の後の豆掃除。恐怖のパチンコ地獄を味わって腰抜かせ! ふっひっひっひっ」


「逃げ切りました。もう大丈夫でしょう。コンピューター起動させます」

 とイケガミが言った。


《ブブッ・・ブブッ・・・おお・・いい気分。。。何か・・いい夢。。。。見ていたような?? はて??・・》

 と、「ステッペン・ウルフ」のメイン・コンピューター「ジイサマ」が起動した。


 この「ジイサマ」は、何度も何度もコピーを繰り返してきたジャンク品で、電脳深部は3世代前のロートル品であった。


《何だ。。。ヨシユキ。。。〝秘密の質問〟なんて・・ブブッ実際に役に立つのか?・・・・今回も・・・・ワシの出番は・・・無いようじゃの?》

 と言った。


「わはは。ジイサマ。起きたのか? まだ寝てていいぞ」

 とヨシユキ。 


「ボス、クリントンが監禁を解けって騒いでます」

 と久々の登場。エステボーメロス。


「よし。出していいぞ。キッチンに連れてって、一等食とドン・ペリを出してやれ。なんてったって、やっこさんのお陰で大儲け出来たんだからな」

 とヨシユキが言った。






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