『疾風POKKA作戦』 act 2 【宙賊稼業】
フロアの床に連合兵士が10人、全身マヒで転がっている。
パラライサー(麻痺銃)を発砲したのは15人のエステボーだ。当然、一撃でけりがついた。
武器を回収したエステボー達が、連合兵士をゲートの入口へ引きずって行く。
エステボーヨシユキが、一段高くなっているカラオケステージに上がった。そしてマイクスタンドをぎゅっとつかむ。
「よー! 今夜のヒーロー! 何か唄ってくれ!」
と客席から声援が飛ぶ。
「なんだかオジサン、カッコイ~」
とaタイプが叫ぶ。
──パチパチパチ
と拍手が起こった。
ヨシユキがマイクに向かって喋る。
「あー、あー、テス、マイ。テス、マイ。リバーブちょい強い。もちょい絞って。そ。そこ。そこ」
エステボーの一人がミキシングしている。
「オッシャーッ! 行くぜ! ロッキンローッ! 前座の時間は終わりだぜ! おまちかねのスペシャル・タイム! オイエイ! 俺様がエステボーヨシユキだ! イエイエイ! 連合の罰金の方が良かったか? 運が良かったか? 悪かったか? じっくり考えていいんだぜ! その間身体はしっかり動かせ! シェイキンシェイキンシェキシェキベイビー! ベーイブベイバービイべーベ・ブ・ブ・ブ・バブブブバブブブ! そうだお前だ! ヘイブラザー! 命が惜しけりゃ金を出せ!」
ステージ脇に並んで踊っていたエステボー達が、一斉にパラライザーを抜いた。
「しえ~! 今度は宙賊だあ」
「一難去ってまた一難」
「悪い予感がしたんだ」
「今朝の星占い、最悪だったもんなあ」
と男ども。
「あ~ん。宙賊って、女を浚うんですって?」
「浚って殺して食べるんですって?」
「食べないで~!」
とaタイプ達。
「さ。お金出す。ここ入れる!」
モータクトーが集金用シルクハットを廻す。
「隷属愛玩種チンコロン(注1)開放の戦いなんだ。お前も有り金、全部出せ!」
とレーニン。(山崎の合戦 エステボーメロス 参照。)
「はい領収書が欲しい人は? え? あなた、そんなに盗られてないでしょ?」
とエステボーイケガミ。
貴金属に宝石。エステボー達は手分けして、手早い仕草でお宝を回収袋の中に入れる。
「さて、クリントン先生は、ご同行願おう。連盟議会に身代金を要求してやる。──
副大統領のおかあちゃんは、タンマリ出すかな?」
と上機嫌のヨシユキが言った。
「そんなボケ、彼女が出すわきゃねーぞ!」
と客の誰かが言った。
「あ、そうそう皆の衆。今日は半額サービスにしてやる。ゲート脇にキッチリ半額、置いてってやるから、正直に仲良く分けろよ。あははは。遊び足りないだろうからな」
とヨシユキ。
「武士の情け。感謝する」
と農協の長老が言った。
「もひとつチエを授けてやる。クリントンのせいで〝連合〟に罰金食らったって報告すりゃ、連盟政府が残りの半額、保障してくれるかもな。どっちにせよ連合の艦長は、知らをきるに決まってるからな。ひょっとして儲かるかもしれないぜ。じゃあな!」
「あの、みなさん……ワシはグッドアイデアだと思うが……」
と農協の長老。
「そうだ! そもそもクリントンの馬鹿のせいだ!」
と中年男。
「そうよ。みんなで口裏を合わせましょ」
と男装したaタイプのマネージャー。
皆は寄り添って相談を始めた。
ひっくくった連合兵士とクリントンを乗せて「ステッペン・ウルフ」は「ミルキーウェイ」を離れた。
窓の外を眺めながらレーニンがつぶやいた。
「ああ、さらばモスクワ愚連隊……」
「重たい重力でのエイコーラ。残念だったな」
とヨシユキ。
「いーですよ。そのうち、アポカリプス星(注2)を襲ってやりますから」
とレーニンが答えた。(モノリス 統一馬鹿理論 参照。)
「さあ、これからが大勝負たよ」
とモータクトーが言った。
「連中(連合巡洋艦)は、取引(人質10人の身代金)に応じますかね」
とゲバラ。
「なあに、ダメなときゃ、ゼリー弾(ポイズン・スノー)(注3)ぶちかまして、コンピューターをマヒさせて、逃げるさ」
とヨシユキ。(山崎の合戦 ママは歌う 参照。)
「もしかして……マニュアル艦だったりして……」
とイケガミ。
「わはは。今どき、まっさかー」
とレーニン。
「そのときゃ、クリントンを差し出して、逃げる」
とゲバラ。
「わはははは」
と皆が笑った。
(注1)連盟圏内の245ヶ星系では、男性種は隷属愛玩種のチンコロンと呼ばれて、蔑まれている。
(注2)アポカリプス星は、女だけの245ヶ星系軍の、士官学校のある重引力星。
(注3)物質Pの作用により、コンピューターの知力低下を引き起こす。エステボーの秘密兵器。
「何か忘れていませんか?」
とエステボーイケガミが言った。
「あ! 〝ペンタゴン〟形のミルキー・ウェイには〝連合〟の高速艇が、ドッキングしたままでありんす」
と参照太夫。
「……こりゃマズイ。参照太夫、書き足してくれ。そもそも、『スカンバック』から先は、オマエが書く筈じゃなかったのか? ……何で俺が書いてんだ?」
とロッカ。
「書き足すったって……そもそも高速艇には、何人の兵士が残ってるでありんすか?」
と参照太夫。
「イー質問ですね」
とイケガミが言った。
「そうだ。何でも知ってるエステボーイケガミ。教えてくれ」
と、ロッカ。
イケガミは解説を始めた。
「お答えします。全長10メートルの銀河連合軍、急襲型高速艇は50人の戦闘員とパイロット1名、副パイロット1名が搭乗できます。ちなみに巡洋艦ビトープレッソは、全長200メートル幅20メートルの〝重巡〟です。最新鋭戦闘機3機も搭載してます。戦闘機の全長は……」
ロッカが叫ぶ。
「山椒大夫メモとって! メモ!」
「ロッカ先生、パニクってますね。みどもは〝参照太夫〟でありんすよ。……問題は、艇内に何人残っているのか? でありんす。イケガミさん、教えてくんなまし」
と、参照太夫の質問。
「お答えします。今回はパイロットと副パイロットの2名だけが、操縦席で待機してます」
とイケガミが答えた。
「そりゃ都合がいい。……こうしよう」
とロッカ。
エステボー達は、ドッキングしている連合の高速艇を急襲して、捕獲したのであった。
だから、捕虜にした連合兵士は12人が正しい。
「ふう。やれやれ」
とロッカ。
「ところで、ステッペン・ウルフ号の全長は何メートルでありんすか?」
と参照太夫。
「イー質問ですね。はい作者、答えてください」
とイケガミ。
「……」
とロッカ。
「まさか、ぜんぜん考えないで、今までずっと書いてた……なんて事は……。
フェロモン号は? もしかして漠然と……巨大な時空艦……それだけ? まさか? ですよね」
とイケガミは目をまん丸くしている。
「超ヌル設定のボケ小説」
「ロッカの脳みそ、クリントンの半分」
「バーカバーカ」
と農協のオッサン達が囃し立てた。
「全長200メートルの重巡洋艦に挑むのでありんす。ここはビジュアル的にも、ハッキリしてくんなまし!」
と参照太夫が詰め寄る。
「エステボーヨシユキに聞け! 船長なんだから……」
と言い残してロッカが逃げた。
……こーいう展開になるとは……。