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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
32/45

  スカンバック

 参照太夫は思案していた。


 ──せっかく盛り上がってきたのに、「続く」にするなんて……。

 ──しかも、ネタばらしのようなストーリーボードを、わざわざくっつけるなんて……。


 ──そっかあ。

 ──もう書きたくなく、なっちゃったから、せめて〝読後感〟をサッパリさせて、読者にカンベンしてもらおうと考えたんだな。


 ──下手にモヤモヤを残したら読者に嫌われるって……。

 ──……。

 ──嫌らしいでありんすな。


 ──あんな顔をして、ロッカ先生も、嫌われるのは嫌だって事か……。


 ──けっこう俗物ゾクブツでありんすな。

 ──それにしても悪知恵だな。歳相応に……老獪ろうかいでありんすなあ。





 そもそも参照太夫は5年前まで、NKSR党首の所にワラジを脱いでいる渡世人であった。(ま、プータローって意味です)

 その頃は「フェル記者」と名乗っていた。


 注。NKSR党は、現在休眠中。

   党首って人は、千駄山ロッカバンドのベーシストでアレンジャー。



 当時、党首は、本邦初の国家社会主義政党を旗揚げするにあたって、党の新聞を創刊しようと思い立った。

 自民党の『自由新報』(これは現在『自由民主』に改題)

 公明党の『聖教新聞』(政教分離がタテマエだから、きっと別の新聞も出しているのでしょうが)

 共産党の『赤旗』

 一水会の『レコンキスタ』のような。


 新聞名を『フェルナンデス』と決めた。

 これはオタク党首ならではの、込み入った意味があった。


 ヒトラー・ナチス党の機関紙『フェルキッシャー・ベオバハター』を複雑に、もじったのだ。


 つまり、『フェル……何です?』で、『フェルナンデス』


「そんだけ?」

 と関係者は仰け反った。


「そーだ!」

 と党首。


 恐ろしくも寒々しい駄洒落に満ちた命名であった。

 当然、誰も笑ってくれなかった。


「あ、イーンダヨ。私の愛機エレキ・ギターのメーカー名でもあるし……」

 と党首。



 新聞作成にたずさわった参照太夫は、この『フェルキッシャー・・・・なんです』紙上で、こちらも駄ジャレ、「フェル記者」のペンネームで記事を書き、コラムも書いた。


 実は小説も書いたのでありんす。


河内弁特区かわちべんとっく』ってタイトルで、これが『江守友和の冒険 NKSRの世界』の元ネタなのでありんす。


『NKSRの世界』では、最後に核ミサイルが、日本中に降ってくるのでありんすが、『河内弁特区』では、メガトン級の水爆が一発だけ、大阪に落ちたのでありんす。


 その結果、大阪は壊滅し、漫才などの関西文化が絶滅寸前となるのでありんす。


 復興政府を牽引する、時の総理、数少ない大阪人の生存者である吉本万歳は、日本が世界に再び飛躍する為の原動力を、瀕死の浪速なにわの「ド根性」に求めたのです。


 そして生き残りの大阪人を、インストラクターとして全国に派遣します。


 学校の試験も、面白味のない答案は0点。

 答えが間違っていても、面白ければ100点。


 ボケもツッコミもない書類を作るデスクワーカーは、容赦なく減俸されます。

 公文書だって備考覧が大きくなり、各々のワガママな言い分だって、面白ければ考慮されます。


『ナニワ金融道』が「倫理社会」の教科書になり、「カバチ論」が司法試験に加えられます。


 頭が悪い人はオーバーリアクションで、丈夫な人は裸になって、とにかく笑いをとります。


 皆が大阪弁と大阪式バイタリティーを学習します。

 こうして関西文化の復興が進められて行く。


 こんな話でありんす。


 つまりロッカ先生よりも、みどものほうが、小説執筆歴は長いのでありんす。





 更に遡って大学時代の参照太夫は、擦り切れたジーンズの尻ポケットに、トレーニング用の、太めのスティックを差し込んだ恰好でちょろちょろしている、ドラマーマンだった。


 腕はちょっとしたものだったが、何せチピでルックスが悪いので、「ビジュアル系」が全盛期の当時は、誰にも相手にされなかった。


 それに、すぐにスティックを手にして、そこいらへんをパカパカ叩きまくってパラディドルの練習に励む様子が、時代にそぐわないコミカルな印象を与え、とりわけカッコマンばかりのロックバンドの連中に嫌われた。(でも、才能ある若い正統派ドラマーの姿としては、これこそが正解だと言えよう。……でありんす。// ウププ。とロッカ。)



「おま、ウッセんだよ! ソウルがネーンダ! タコスケ!」

 と、イケメンで足長のロック野郎が偉そうに言った。


 本当に、お呼びじゃないって感じだった。


「何がソウルだ! リズム音痴のイモヤロー!」

 と思いつつ、ルックスが関係ないジャズバンドに参加して、ジャズクラブで演奏した。


 4~5組の客を相手に、いや実態はもっと悲惨だ。

 2~3人しか入らない日がざらだった。

 東京は山手線内にも関わらず。……高田馬場とか……、あはは書いちゃったでありんす。あはははは。


 まったく、当時の日本ジャズのマイナーシーンは、不遇でありんしたな。


 その頃、このひまなジャズクラブの常連だったのが、ルンペンだから当然、暇人の党首だったのでありんす。


 こうして党首を通じてロッカファミリーの一員となった参照太夫は、今ではファミリーの中核として、西岸地区の密造酒を取り仕切る小ボスとなって、マシンガンを手に……?


 ──ズドドドドドドドド!


「きゃうきゃうきゃうきゃう!」


 中ボスのヘスが言った。

「ロッカからの伝言を伝えるぜ! あれだけ言っといたのに! 余計なことを……。スカンバック!」


 ご存じの方も多いだろうが、スカンバックとは精子の事だ。

「クソヤロウ」とでも約すべきだろう。カイナマヒ~ラ。

 カイナマヒ~ラとは……。


「もう、誰も読んでないわよ」

 と伸恵ママが言った。


 そうだ。つまり参照太夫はパブ喫茶『ロマーノ』で、考えを巡らしていたのだ。


 解ったでありんすか?



「さすがに若い奴の文章は難解だな」

 とビールを飲みながらヘスが言った。


「みどもだって、もっと若い人の文章は、解らない単語が多いでありんすよ。──

 例えば、『ツンデレ』なんて言葉は、ずっと意味不明のままでありんす」


「ツンドラ地帯でデボラ・カーがレンコンを煮る。の略語じゃなかったっけ?」

 とヘス。


「サンちゃん(参照太夫)、ロッカさんのボトル、飲みなさいよ」

 と伸恵ママがワイルド・ターキーのキャップを開けた。


 この時間の『ロマーノ』は、パブタイムの準備中といったところで、客はヘスしかいない。

 マスターの小野寺善行は、「仕入れ」に出かけている


 アルバイトの目次めくりがテーブルを拭いている。

 彼女もロッカバンドのメンバーで、紅一点のギタリストだ。

 ちなみに彼女と参照太夫は、共に盆の蔵大学の『ロッ研』出身で、現在は恋人同士なのだ。

 つまりこの店で飲む時は、金が足りなくても心配ないって事。


 ヘスが話しかけてきた。

「あのな、参照太夫。ロッカの小説の続きなんて、真面目に考えちゃ駄目だよ。本人だってヘベレケで 書いてんだから」


「ええまあ……。でもロッカバンドの曲は、作詞作曲、ロッカ--党首。とか、──

 ヘス--ロッカ。でありんしょ? レノン--マッカトニーみたいに。

 羨ましいでありんす。

 みどもだってゲスラの続きを書いて、ロッカ--参照太夫。って、〝共著〟にしたいでありんす」


 伸恵ママが言った。

「そーよ! サンちゃんが正しいわ。──

 だいたい、aタイプやザクロマンのグッズは必ず当たる! って言ってるクセに……。

 尻切れトンボで終わっちゃうなんて、これじゃファンなんて、できっこないわよ」


 ヘスが言った。

「グッズねえ……。そう言やロッカの奴、超電導美那子のフィギア、俺に作ってくれって言ってたもんな。──

 あははは。35歳というフィギア史上最高齢のアイドルフィギアだ。

 これは、絶対当たる! ってね」


「なんですって!」

 と美那子が言った。


「あ・・・美那子ちゃん・・居たの?」

 とヘス。


「そりゃ、居るわよ。此処は『ロマーノ』ですからね」

 と伸恵ママ。



 ヘスは多趣味な男でフィギア制作もその一つだ。


「色々、たくらむんだよな。あのオッサン。結局、酒飲んで忘れるクセに……」

 と参照太夫は水割りを一気飲み。


 その時、小野寺善行が息せき切って飛び込んできた。そして言った。


「大変だア! 伸恵ちゃんテレビ見たか?」


「何だよ、善行、落ち着けよ」

 とヘス。


 興奮の善行が口から泡を飛ばして言った。

「ヘス、聞いて驚くな! あの水没湖のゲスラの死体な。蘇生したんだって! ── 

 とにかく、今は誰も近づけないらしい!

 近づいた4人が、踏み潰されて死んだそうだ。

 なんと、東京都知事も踏み潰されたって事だ!」


 善行は、めくりちゃんが持ってきた冷たいウーロン茶を、一気飲みして、まくし立てた。


「更に! こいつあぶったまげだ! 政府の特別調査隊が全員、焼き殺されたんだ! ゲスラが、火を吹いたんだア!」


「マア、何てこと!」

 と驚愕の伸恵ママ。


「ふわあ! やっぱりカイジュウって凄い!」

 とめくりちゃん。


「ねえ。今日はお店閉めて、みんなでゲスラ見に行こ!」

 と美那子。



「そうきたか……。何だかな。……ちょっと強引な展開じゃない?」

 とヘスが言った。


「ま・ま・ま・ヘスさん・・・ちゃちゃ入れないでくんなまし。──

 ・・う・う・うわあ! そりゃ大変だ! ゲスラが・・・大変だア!」

 と参照太夫が叫んだ。


「あ・・・久々に見る・・・しらけどり・・・ひひひ」

 とヘスが笑った。


「しらけどりも出たの?」

 と美那子が言った。











 樺山が言った。

「どうだい〝自称作家〟を続けている気分は?」


 ロッカが答える。

「そりゃ〝本物の絵描きだった〟お前なら解ると思うが、……引っ込みがつかなくなったって感じだな」


「おっ売れそうなのか?」


「いや〝持ち込み先〟を知らんし、また、持ち込んでも、買ってくれるとも思えん。だからアプローチのやり方が解らんし、やった事もない。自費出版の誘いのメールばっか頻繁に来る」


「なんだ。じゃ、まるっきりの趣味じゃないか」


「そーなんだ。まるっきりの趣味だ。だから作家だなんて、思った事ないよ」


「じゃ、アレか? ミュージシャンだって言うのか?」


「うん。そーだ。俺はムカシから(超ナマケモノの)ミュージシャンだ。むしろ今の世の中の方が、有料配信ってのが出来るから、やりがいがある筈だ。メンツもネタも最低限の機材だってあるからな。……モルガン(イモオルガンの略)だって、うんとリハビッたら、おヒネリくらいは貰える筈だ。プレイヤー人口が増えた訳じゃないからな。ただ……」


「ただ……何だ?」


「いや……つまり、〝ゲスラ〟にしても〝Yの続き〟にしても、最近のヤツが、やったら面白いんだ。騙されたと思って読んでみろよ」


「……うん。面白いな。読みやすいし……」


「な。だから、やめられない止まらない」


「何だ、こりゃCMだったのか?」


「そーだ。この通り、企画力だってあるだろ? 唯一の弱点は、コタツから一歩も出るのが嫌だって事だ。飲みに行く以外はね」

 とロッカ。


「わははは。冬場のCMだったって訳か」

 と樺山が言った。




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