潜在意識を根こそぎに
いとも簡単に、人間バーベキューを実行する男。
連合諜報部のギュンター・カーン少佐は「銀河連合」のエリート将校だ。
「銀河連合」の名の下に、いつでも侵略の意図に満ち溢れている。
「連合」以外の生物なんて、しょせん弱者だ。弱者なんて、下僕になるか、奴隷になるか、生かすも殺すも俺様の勝手。
侵略者、殺人者として教育された賜物だ。
この男が、大穴の中で最悪の体験をした。
そもそも友和達の時も、体験のプロセスは同じであった。
ただ、違っていたのは、アドロ星人の精神感応による分析の結果が、『このエイリアンは安全で、好ましい』との結論だった事だ。
これは『大吉』を引き当てた。と言うべきだろう。
だから彼らは最大限に好意的になった。
ここでアドロ星人の『化かし』の実態に触れよう。
惑星ダロメの、ギロチンのような鉄色のリング。
アドロ星の、燃え上がる炎のような真っ赤な草原。
そして、クロエとタモラのメルヘンチックな、キノコ形の黄色い家。
このような景観については、見た通りそのまま。つまり視覚的な操作は、なされていない。
飛行艇や街の建造物についても、外観は操作されていない。
地球では怪獣ゲスラと呼ばれているグーグー達も、他の動植物も見た通りである。
だが、建造物の中や、乗り物の中の様子は、まったく違っていた。
アドロ星人の様式は、基本的にシンプルであり、調度品らしきものもほとんど無い。
精神感応の発達したアドロ文化においては、実像に付随する装飾や様式は、発達しえなかったからである。
アドロ星人は、機材の何も無いスッカラカンのテレビスタジオのような、そんな殺風景な場所で、細身の木製マヌカン(マネキン)のような、つるんとした身体を、ゆらゆらさせている。
まあ、殺風景ながら、テーブルや椅子やベッドなどの、必需品は存在している。
これもアドロ星人好みのシンプルな物だ。
クロエの家のテレポーターを見よう。
これは、ツタが絡まりあった、大きな鳥の巣のような代物だ。
そもそもアドロ星人のテクノロジーというのが、電気工学に精神エネルギーが混入したものであり、機械の配線にしてからが、植物の生体エネルギーを利用するところを起原としている。
だからツタのように見える配線は、実際にツタなのだ。
このような精密機器は、惑星ダロメ開発の結果、発見した『超電導ヅタ』が使用されている。
ところで、友和達は幻影の中で、幻の飲食物を「食べたつもり」「飲んだつもり」に、なっているだけなのだろうか?
実際に飲食してないのならば、飢え死にしてしまう。
これに関しては、飲料や固形食物が何種類もあり、味付けもなされている。
見た目は紙粘土のような加工品だが、友和とエンタメ、二人のメタボオヤジを診察の上、最適な低カロリー食が使われている。
酒・タバコも同様。代替品は何処にでもあるって事だ。
幻影が付加されたそれらの品々は、まさに一級品である。
超甘党のaタイプには、第5衛星産の最高級甘味料が、ふんだんに使われている。
ちなみにアドロ星人も甘党で、小さな口から極細のストローで、色々な甘味ジュースを頻繁に、ちゅうちゅうと飲んでいる。
酒だって飲む。勿論その姿は、グラスやジョッキ、或いは、カクテルグラスを優雅に傾けているように映るのだ。
アドロ星人も衣料品を着用している。種類もあるし裸じゃない。
基本的にシンプルなものだ。
この自前の服に、地球の服の男物、女物、様々な制服に、貴族の服。スポーツウェアに宇宙服などの幻影を付加しているのだが、アドロ星人自身もこの幻影ファッションを、おおいに楽しんでいる。
このようにアドロの精神感応文化は「対象」に「投影」する事によって成り立っている。
そこからフィードバックする快感こそが、より完璧な幻影を作り出す情熱の源となっているのだ。
ここで「あの日」の再現をしよう。
四足歩行のカバのようなエンタメのビークルが、クロエの家の壁を壊して突入してきた。
家の中にいたタモラは咄嗟に、強烈な精神波を放って、車内の三人の神経をマヒさせた。
これで三人は、全身麻酔状態となった。
たちどころにアドロ中から、精神感応波が押し寄せてきた。
「評議会」がイニシアチブを取った。
これはアドロの、現在の、最高意志決定機関である。
各々の意見が食い違う事を、より熟知しているのが精神感応世界だ。
総員による多数決では時間がかかり、何事も決定しない。
そこで、任期付きの代表を決めている。
それが現在の「評議会」だ。
以前は「王制」だった。
王様と王族が飽きてしまって、辞めてしまった訳なのだが、どれだけ飽きたのか、総員感応の理解の元、すぐさま政権交代となった。
このようにアドロの政治はシンプルだ。
犯罪も、きわめて少ない。
感応世界では、邪な欲望や不必要な野望も感応されてしまうからだ。
こんな輩はたいていの場合、面白がられ、冷やかされ続けているうちに、しおしおと、しおれてしまうのが普通だ。
断固たる意思を持った「悪人」もいる。これは勿論、拘束される。
だから刑務所もある。
(そうそう。連合諜報部のカーン少佐も死んだ訳ではない。今は此処へ監禁されている。)
だが、一般にアドロ人は寛容だ。
他人を出し抜く事も、好感度をふりまく事も、同情をひく事も、悪だくみも、罪にはならない。
思想や嗜好にまで制約をつけてしまったら、己自信の息が詰まってしまうからだ。
しかし、何事もバレている。すでに皆が知っている。
何でもバレバレで、それが当たり前。アドロ星とはそのような世界なのだ。
さて、エイリアン(友和達)に対して「評議会」は、幾重にも及ぶ精神分析の結果、「歓迎」との意思決定を下した。
この「好ましいと判断されたエイリアン」が提供する視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚などの全ての感覚は、アドロ人達に超レアな刺激をもたらした。
さっそくアドロをあげての「化かし作戦」がはじまった。
テクノロジーも使っている。
これは、イメージに「揺らぎ」を生じさせない為の「固定化」だ。
「装置」は通奏低音のように、地球人好みの自然環境の周波数を、常に発信し続ける。
アドロ人達はこの周波数に沿って、均一な精神波を醸し出す。勿論それは、無意識のうちに行う為の「ガイド波であり、増幅波」なのだ。
まことに超一流の「化かし」と言えよう。
そして、地球環境を創造する事によって、アドロ人達は、すぐさまこれにハマった。
ようするに、退屈していたからだ。
──ガラガラドッシャーン! と凄い音をたてて、タクシーは明らかに人家の中に突っ込んだ。
ダイニングキッチンのテーブルをひっくり返し、食器戸棚を薙倒し、冷蔵庫を押しのけて、やっと止まった。
エプロン姿の若い女が驚いている。
結構美人である。
友和達はあわてて車から飛び出した。──
クロエからタモラにテレパシーがきた。
──始まったねタモラ。その姿、ちょっとキモイね。
──そお? 私はもう慣れたわ。自分でも、結構可愛いって感じるもの。
とタモラ。
アドロ中が、興味津々で見守っていた。