やっぱり友和
初めての銀河系からの来訪者に、誰もが興味津々なのだ。
好奇心とは、知的生命体の必須条件なのだから。
ここはテレパスの星アドロ。
誰もが、何もかも、お見透し。
考えてみると、かなりうざったい。
だからこそ、思いやりと優しさが、必要条件となったのだろう。
さて、バーの中では、やっと緊張の解けたエンタメとaタイプが、飲食を始めた。
安心したaタイプは矢次早にデザートを注文している。
「エンタメさんはきっと〝悟るの化け物症候群〟にかかってたんだな」
「ううむ。上手い事を言う。さすがは特異点だ」
「しょうがないよ。俺達はテレパスじゃないんだから。……だがしかし、明日はいつもの愉快なエンタメに戻っている事であろう」
「おいダンナ、声に出して喋ってるよ。下手くそで偉そうなナレーション」
「この星じゃ、その方がいいかもな」
「成る程。……とエンタメは言った」
「その調子だ。と友和」
「はむ、はむ、はむ、はむ、とaタイプはとっても美味しいです。はむ、はむ」
「ぶははは面白いな。と、たまには失敗もするが、実は頼りがいのある、渋い男前、女泣かせのエンタメが言った」
エンタメは顎に力を込めて、男前な表情を作ろうとしている。
「あははは、よく言うよ。──
ところで此処の奴らの、この写真、な。まさに、でくのぼうって感じだな。
この身体、野球のバットみたいな棒っ切れで、できてんのかな?
えへん。拙者とて、木石ではござらん。って木の木っ端じゃないか。この、木っ端役人があ! ってあっはっは。
議長、あなたはアドロの宝です。いつもは邪魔だけど無けりゃ困る。そう。コタツの脚です。
うっぷっぷ。この写真、ウチのコタツの脚にそっくりなんだよ。
それから恋人達。
ああ、君の木目は素晴らしい。なんて言うのかな?
化粧品はこれ一発! 艶出しワックス。な。
あはははは火気厳禁だな。
はあ、止まんなくなった。可笑しくってな。
なんせ棒っ切れだもんな。あはははうっそみてえ。
虫メガネで探してみたら、ちっちゃい穴ポコのような目ん玉と、虫食いみたいな口が、ちょぼっとあったりして。いや、きっとある。
そしたら笑っちゃうよな。
そんでもって、その虫食いのおちょぼ口から、ユンケルのストローみたいな極細のやつで、チューチューと、流動食すすってたりしてな。
そして言うんだ。君の料理は最高だ! 何が料理だっぎゃっはっはっは」
アドロ星に激震が走った。
だがそれは、侮辱されたテレパス達の怒りとは、ちょっと違っていた。
長きに渡って培ってきた、安全にそして快適に生きる為の知恵とも言うべき、相互理解の為の、思いやりと優しさ。これに真っ向から冷や水を浴びせられたのだ。
この刺激は、テレパス達に、えも言われぬ快感をもたらした。
まさに、初めて味わう〝不謹慎な刺激〟であった。
さっそく星全体をテレパシーが駆け巡る。
(これは、たまりませんなー)
(何ですかねーこの感覚は)
(想定外の快感なのね)
(ひどい事を言いやがる! って言うんですよ)
(お? さっそく覚えましたね)
(気持ちいー)
(ビリビリくるわー)
(シビレちゃう)
(面白いですな)
(しかし、木目ほど美しいものは無いんだがなあ)
(ダロメ星から帰ってきたマルリンの木目なんか、たまらんですな)
(あれはかなりエッチな木目だね)
(聞こえたわよ)
(マルリン、バッカは褒めてるんだよ)
(何よマルリンばっかり、私の木目の方がずっとセクシーよ)
(とにかく、あの三人、今後も目が離せないわね)
まさに視聴率百パーセント。
予定調和の安定世界を守る為に、これまで無意識に封印してきた、このたまらない〝不謹慎な刺激〟
知的生命体にとっての必須条件とは、好奇心プラス、何てったって〝刺激〟なのだ。
当人達はご存知無いのだが、この〝不謹慎な刺激〟を発信する銀河系の三人組は、今やアドロ星のスーパースターとなった。
ところで、エンタメ放送局は続いている。
「ああ、ダンナにゃもう負けるよ。と溜め息のエンタメは言った」
「はむ、はむ、あーん。このケーキ、もお最高! アドロのデザートは宇宙一だと思います。と、いつでも一番綺麗で可愛いaタイプが、美しい声で言いました。おしまい」