相互理解
「ズンベラボーのコンチクショウ! つまりだな、エンタメさん」
と友和。
「分かったよダンナ。何も言わんでくれ」
とエンタメが言った。
「いや、言いたい。言わしてくれ。──
つまりこのアドロ星の世界ってのは、究極の相互理解の上に築き上げられた精神文明だと思うんだ。 何故なら、否応なしに相互理解しちまうアドロの連中にとって一番必要な事は、思いやり。つまり優しさって事なんじゃないのか?
優しさと思いやりの無い、嫌な奴同士が精神感応し合うって事は、それはもう、一種の地獄だと思うんだ。
だから長い間かかって、いたわり合う優しさが、一番快適に生きる方法だと悟ったんだろな」
「うん、俺にも……今、それが解った」
とエンタメはもう、震えちゃいない。
「あー、久々に気持ちいいから、もっと喋るよ。──
もしかして精神感応されてる事の刺激で、脳みそが活性化してるのかもしれない。
aタイプも固まってないで聞きなさい」
邪気の無いさわやかな高揚感に包まれている友和である。
こんな気分は久方ぶりなのだ。
もしかして、アドロ星のテレパス達は、友和の脳の、何らかの幸福物質の分泌を、促進させているのかもしれない。
「そもそも、ケチな競争と相互不信の上に成り立っている我々の文明とは、一味も二味も違って当然だよ。──
それに、彼等にしたってテレパシーは、生まれながらの特質なんだ。好きでやってる訳じゃない。
今回は、異質な生命体同士のファースト・コンタクトなんだ。
何もかも違っててあたりまえだ。
いくら知性体と言ったって、我々だって銀蝿から進化したクソ野郎と、一杯やろうなんて思わないし、どんなにためになる話でも、ゴキブリの先生はやっぱり嫌だ。
だから、ホログラムだって精神感応だって何だっていいさ。
相手をいたわる優しい気持ちがあったらOKとしなきゃな」
エンタメはオイオイ泣いている。
調査を始めてこのかた、本当に苦しんだに違いないのだ。
「分かったよ。どうしても調べたくなっちまうんだ。──
情報部員の悲しい性だ。
だけど、知れば知ったで、相手は高度なテレパスだろ?
だから当然、知ってる事を知られてる。とか、調べている事や、調べてしまった事も知られてしまったと考えると、恐ろしくてな。
ただもう、恐ろしくなっちまった。
……。
だけど、ダンナのオーバーリアクションで気が付いたんだ。
本当にダンナに救われた思いだ。
まさかダンナに教えられるなんてな。
やっぱりダンナは、見かけと違って、本物の特異点なんだな」
「エンタメさん、どうせ褒めるなら、真面目に褒めてくれよ」
と、照れくさそうな友和。
「そうだ、今の、このピュアな気持ちのままで、皆さんに挨拶しとこう」
と、少年のように目をキラキラさせたエンタメが言った。
「あはははそりゃいい。ラジオエンタメだ。今夜のDJは元、銀河系一の大泥棒、遠藤為五郎だ」
と、友和。
エンタメは、aタイプの手付かずのピンクレディーを一気に飲み干して、喋り始めた。
「精神感応してる皆さん、こんにちは。──
私、遠藤為五郎が考えてみますに、クロエさんの家のテレポーターなんか、我々の世界だったら、当局が、有無を言わさず没収してます。
ええ、必ず没収します。
アドロの皆さんは、俺達の気持ちを重んじてくれて、そのままそっとしておいてくれてるんですね。
何という優しさ……。
ぐすん。
……ここは本当に素晴らしい世界だと思います。思わず敬語になっちまう程。
本当に相互理解ってものは、思いやりと優しさあってこそですね」
バラバラバラと拍手の音がした。
しかもそれは、このバーにいる連中だけの拍手じゃない。
この飲食街からの、いや、首都アドロメア全体から、いや、このアドロ星のすべてから、まるで津波のように押し寄せてきたのだ。