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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
21/45

  テレパスの世界

 エンタメはジャケットの内ポケットから、もそもそと数枚の写真を取り出した。

 そして、ボソッとつぶやいた。

「ダンナ……見てくれ」


 写真には木目の光沢も艶やかな、よく磨き込まれた木製の衣装マネキンが写っていた。

 頭の部分はドングリのようで、目も鼻も口も無い。


 博学な作者は、あえて書くが、キリコの絵画『ヘクトールとアンドロマケの別れ』のような感じだ。(頭部のみだが。)


 やけに殺風景な、青みがかった変な場所を背景に、半透明の服を着ている。

 様々なアングルのやつがあった。


「ほお? なんじゃこりゃ?」

 と友和。


 エンタメはゴクリと唾を飲み込んでから答えた。

「……ここの連中だ」


「驚いたでしょ? 友和さん」

 とaタイプ。


「このノッベラボーの、木目のマネキンが?」


「……そうだ」

 エンタメの声が重い。

 aタイプも怖々と、うなずいている。


「ダンナ、これが彼等の本当の姿なんだ。誰だって驚く」

 エンタメの声がますます重くなる。


「だけど俺、クロエといつも喋ってるんだ。コイツ、口が無いじゃないか? 口が無けりゃ喋れないだろ? 化けるにしたって……」


「テレパシーだよ」

 とエンタメ。


「テレパシー?」

 と友和。


「いや、テレパシー以上の、もっとずっと高度な能力だ。──

 音響とか、つまり我々にとっちゃ幻聴と言うべきかな?

 視覚映像、これは幻影だな。我々の感覚の全てをコントロールしてるんだ。

 いや、彼等は、もはやコントロールしてるなんて、自覚さえ無いだろう。

 我々だって、心臓を動かしている自覚なんか無いだろ?

 これと同じような感じで、超能力を発揮している。

 そして我々の五感の全てを、錯覚させているんだ」


 青ざめたエンタメの唇が、ワナワナと震えている。ちょび髭まで痛々しく震える。

 涙目になった小さな目をしょぼつかせながら、絞り出すような声で言った。


「ダンナあ、俺達あ、潜在意識から何から何まで、ねこそぎにされてるんだあ」


 友和はテーブルの上の写真を凝視した。

 それから、回りの席で今まで飲んで騒いでいた、地球人と寸分変わらぬ客の、男達や女達を見回した。


 今はバーテンも客も黙りこくって、静まり返っている。

 店の音楽は止み、心なしか外の喧騒の音まで消え失せてしまったようだ。


 この静まり返った、不気味には違いないのだが、何となく、ばつの悪い空間の中で、エンタメとaタイプが小刻みに震えている。


 友和はビールを飲み干した。


「ま、少なくても馬の小便じゃない。ちゃんと飲めるし、旨い」


 血の気の失せたaタイプが、友和の顔を凝視している。

 回りの人達を見ないように、それから、テーブルの上の写真も見ないように、身体と首が固まっている。

 目が点になるとはこの事だ。

 お守りのキューピーのロケットを握りしめた右手で、左の二の腕をさすっている。


「友和さん……わたし怖い」


 友和はタバコに火をつけて、大きく煙を吸い込み、吐き出した。


「ふう。気が付けば、すすきの野っ原とか、コエダメの中って訳でもないらしい」


「ダンナ、よく平気だな?」

 と、涙目のエンタメ。


 友和はエンタメのジョッキに手を伸ばし、その手付かずのビールを一気に飲み干した。


「俺だって腹が立ってる。──

 知らなかった。くそ! こんなマネキンの化け物に騙されていたとはな。

 狸と狐が合体してパワーアップしたような木目のノッベラボーに騙されていたのか! 

 木の木っ端じゃないか! 王貞治のバットか? ってんだ! 馬鹿野郎!」


 瞬間湯沸器のように突然怒り出した友和の、あんまりな物言いにエンタメの口があんぐりと開いている。


「やはり、ダンナには内緒にしとくべきだったな。しかし、ひどい表現だ。言っとくけど、すべて聞かれてるんだよ。いや、覗かれてる。何事もバレる。もうバレている。ああ、バレバレなんだっ。秘密なんて此処では有り得ないんだ!」


 頭を抱え、またしても震えだしたエンタメである。


「ふーん、成る程ね。だったらいっその事、聞かせてやろうじゃないか。──

 どっちにしろ、何でもお見透しなんだろ?

 ……やい! よく聞きやがれ。こんちくしょう! よくも騙しやがったな!

 ノッベラボーのズンベラボーめ! お前らいったい何が目的だ! 何が欲しい?

 大佐のキンタマか? そんなもん、いつでもくれてやる! 持ってけ! ドロボー! 

 この、木っ端エイリアンの化け物どもめー!

 お前ら、コタツの脚かって……○△×○△×!~」


 何故だかこの調子で、友和は毒づくのを止めない。

 聞くに耐えない罵詈雑言のオンパレードは、延々と続いている。


 たまり兼ねたエンタメが悲鳴をあげた。


「あははは。俺が悪かった。間違ってた。何となくダンナの言わんとするところが分かった。……分かったから……いひひひ……もう止めてくれーっ! 腹が痛い」

 泣き笑いになったエンタメの顔には、血の気が戻ってきている。





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