エンタメさん絵かき唄
「しかしまあ、アンドロメダ星雲って言ったって、同じ生き物同士だ。そんなに変わりゃしないな。第一、何処に行っても言葉が通じる。こいつあ、ありがたいな」
午後のパブの陽だまりテーブルを占拠して、黒ビールをぐびぐび飲みながらベーコンポテトなんぞを食って、タバコをスパスパふかしている。
これさえあれば、何処にいたって、お気楽極楽なのだ。
気分よく酔っ払っている友和と違って、軍人二人は浮かぬ顔だ。
「なんだよう大佐に中尉。難しい顔をして。ほれ、銀河系人はネクラだって思われるぞ」
「実はなダンナ、その『言葉』の事なんだがな。……〝通じ過ぎる〟って思った事ないか?」
「言葉だけの問題じゃ無いのよ。友和さん」
「ん? 何がどうした? 〝通じ過ぎる〟って? 分かりやすく頼むよ」
「そうだな。ダンナにはタモラさん、どんな風に見えるんだ?」
「ああ。なかなか美人じゃないか。そうさな、若い頃の鈴木保奈美って感じかな? ま、俺、あんまり他人の顔、じろじろ見ないからな。どんな顔って言われてもなあ? とにかく『お市の方』やってるくらいだもんな。美人だろ? 違うのか?」
「じゃクロエさんは?」
「ああ、クロエね? クロエときたか。……なかなかイケメンじゃないの? 色は浅黒いよな。なんせクロエってなもんだ。あー面長の顔に目が二つ、鼻が一つ、口が一つ、こんなところかな? で、それがどうした?」
「友和さんって他人の認識、ほとんどしてないみたい……。私はどんな風に見えるの? やっぱり目が二つに鼻が一つですか?」
「何だよ。そんなにからむなよ。俺は元々近眼だからな。しかし鬱陶しいから眼鏡はめったにかけないんだ。だから昔から視力0、1以下の、うすぼんやりした世界に、慣れ親しんでるんだよ」
「成る程ねえ。さもありなん」
とエンタメ。
aタイプが言った。
「友和さん、私の似顔絵描いてみて」
aタイプは筆記用具とメモ帳を用意していた。
そして後ろ向きになる。つまり友和に背を向けた。
「なんだー? モデルが後ろ向いちゃ駄目じゃないか」
「いいから描いて。思い浮かべながら描いてね」
「はいはいっと。色白で、目はくりくりっと、ちんまいお鼻。口元ちょんちょんって……」
シンプルな絵が出来上がった。
「どれどれ? 似てることは似てるが、シンプル過ぎて、これじゃあな。……」
「ふーん。でも可愛いわ。友和さん私のこと、こんな風に見えるのね。なんだか嬉しいな」
「駄目だ駄目だ! これじゃ認識力のテストにゃならん。だいいち、ちんまり可愛いく描いてりゃ、何でもaタイプになっちまう!」
「何よー! じゃエンタメさんを描いてみて?」
「よっしゃ。これは簡単。あ、エンタメさん、あっち向かなくていいよ。どうせ見ないから。──
このての顔は覚えやすいんだ。
ほら、こうきて、ボサボサ頭。
ゲタヅラに、エラが張って。
ゲジゲジ眉毛。細い目に、団子っ鼻だろ。
タラコ唇に、ちょび髭ちょんちょんって、ほれ出来上がり」
「あ、こんなにシンプルなのに、そっくり。きゃはははは」
「……くそ」
「エンタメさんって、クローンだったよな。つまり元になってる遠藤為吉さんね。この人の先祖がきっと、典型的な昔の日本人の顔なんだな。──
日本人って色々だけど、ドラビダ人起源説ってのもあって……、ま、海洋民族となったドラビダが入ってきたとか……、ようするにエンタメさんは、そういう種類の顔なんだよ」
「大佐あ、友和さんの認識力って、バツグンじゃないですかあ!」
「まあな……くそ!」