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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
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  統一馬鹿理論

 VF型時空機は地球に向かって飛行していた。

 aタイプは惑星温泉土産の、温泉饅頭をパクついている。


 ハイパードライブでさっさと帰るのも良いのだが、友和にしてみれば、せっかくだから、太陽系の惑星くらいは肉眼で満喫したかったのである。


 そんな訳で左舷のシャッターを開け、強化ガラスの窓越しに土星の輪を、更には木星の大赤斑を観賞する友和であった。


「感激だなあ。中学の頃に『2001年宇宙の旅』って映画が公開されてね。──

 まるっきり訳が解らん映画だったけど、不思議な感動があったな。

 そうそう、それから、シューメーカー彗星ってのが串団子みたいに木星に連発で衝突した事があった。

 あれにはショックを受けたよ。

 善行から聞いたんだけど、一発当たりの衝撃が、ゆうに地球が崩壊する何倍ものエネルギーだって言うんだ。

 凄いよな。

 シュミレーション画像を見てると、本当に地球なんてイチコロだって解るんだ。

 考えると気が遠くなっちまう。

 人間なんて、その地球の上のバイキンみたいなもんだよな」


「むん、むん、むん、むん」

 温泉饅頭を食べ終えて、今度は串団子を頬張りながら相槌をうつ、甘い物が底抜けに大好きなaタイプなのだ。


「しかし甘い物、よくそんなに、いっぱい食えるな。見てるだけでこっちまで甘ったるくなる」


「ほもはふはん、まほのほほ、ふん、ゴックン、ヨウカン」

 とaタイプが目を白黒させながら言った。


「ヨウカンがどうした? まだ食い足りないのか?」


「違うの、友和さん窓の外見て。本当に大きなヨウカンみたい」


 窓の外には巨大な木星を背景に、あの『2001年』でお馴染みの、まるで高級羊羹のような「モノリス」が映画と同じように浮かんでいるではないか。

 

 まるで黒糖ヨウカンのような、純練りヨウカンのような、哲学的で旨そうな、あのモノリスなのだ。


 ──大変だ!

 ──考えるんだ友和! いったいどうしたらいい?


 ──そのうちにモノリスがピカーと光ったら、


 ──百万光年もぶっ飛びワープの果てに、一生をビクトリア朝の貴族の部屋のような、それでいて病室のようでもある高級な牢獄の中で、監禁生活の果てに、老衰して死んだら、スターチャイルドに生まれ変わるなんて、まったく、なんて訳が解らん話だ!


 ──冗談じゃないぞ! まだしも特異点として、ぶっ飛びながら生きて行く方が余程マシじゃないか!



 それにしてもキューブリックは凄い映画を作ったものだ。

 これが1968年の映画なのだ。

 まだSFXの時代じゃないのにリアルな画面であった。


 そのモノリスが、窓の外で☆ピカーと光った。

 友和とaタイプは恐怖のあまり抱き合った。


「aタイプ、もう駄目だ! ──

 子作りしか楽しみのない二人っきりの監禁生活の果てに、

 お前はスターチャイルドを産み落とすのか?

 ところでスターチャイルドって、ありゃ一体何なんだ~?」


 その時、船内に男の声が響き渡った。


「わっはっはっは、こんな綺麗なお嬢さんとなら、わしなら監禁されてみたいよ」


 ああ、なんとヌルいスペオペみたいに、禿げ頭の白ひげジジイが機内に入ってきているではないか。

 白衣を着てサンダル履きで、おまけに水戸黄門のような杖まで持っている。



 懐かしの『スター・トレック』も『宇宙家族ロビンソン』もゲストの宇宙人達は、宇宙空間の中を、いともたやすく宇宙船内に勝手に入って来る。

 つまりSFではそういう事が当たり前なのだ。



「お前は、マッドサイエンティストだろう?」

 と友和が叫んだ。


「マッドは余計じゃ馬鹿者がっ」


 ──ゴツン! 


 杖で殴られてしまった。


「痛っててて何すんだっ!」


 ジジイはaタイプに、にじりよって、純練りヨウカンを差し出した。

 aタイプは嬉しそうに受け取っている。


「なかなか入ってこないから、こっちから来ちゃったぞい」

 ジジイは身をくねらして、流し目でaタイプを見ている。


「あー解った。ジジイお前、人違いしてるぞ。aタイプ違いだ。助平ジジイ暴力ジジイ! 早く出て行け!」

 と友和がまくし立てる。


「ありゃりゃ? 星間デリヘル、ミルキーウェイのaタイプじゃなかったの? こりゃ失礼したの。残念じゃの。どっこいしょ」(蛭 民意の尊重 参照。)


 言葉とは裏腹に椅子に腰を下ろして、くつろいでいるジジイなのだ。


「あー、大ぼけジジイ! さっさと帰れよ」

 タンコブをさすりながら、友和は怒っている。


 aタイプが切り分けたヨウカンとお茶を運んできた。

「友和さん、そんなに邪険にするもんじゃありません。ね、ボインシュタイン博士」


 博士は旨そうにお茶をすすった。

「ほう、わしの事を知っておるのかね?」


 aタイプはきおつけの姿勢をとった。

「はい。士官学校で先生の、時空航法における統一馬鹿理論を学びました」


 博士は驚いた様子だ。

「はて? aタイプが士官学校にの? 覚えておらんの。で、どうだった? わしの講義は?」


 aタイプは直立不動で答える。

「はい。難し過ぎたので、覚える前に忘れました」


「ま、いいじゃろ。パイロットで理解できる奴は十万人に一人程じゃ。気にする事はない。しかしaタイプが士官学校にのう。わしともあろう者が見逃すとはのう」


「はい。博士はど助平との噂でしたので、上官の女性士官に、つけ髭をつけられて男性に化けさせられたのであります」


「なんと、そうであったか。うかつじゃった。今度講義を頼まれたら、事前にしっかり、セックスチェックをしてやろう」


「あ、博士、私がバラしたって言わないで下さいね。軍にaタイプはいないから、私が教えたってバレちゃいます」


 ボインシュタイン博士の目じりが垂れ下がった。

「うふふふ、魚心あれば水心じゃ。どうじゃわしとあのモノリス号へ行って相対(相体)性理論の実験をしようではないか」


「えーいこの助平ジジイ! もう許さん!」

 友和は太極拳のポーズをとった。


「わははは、許せ、許せ、老い先短い老人の戯れ言じゃ」

 と博士はベロをだした。


 このボインシュタイン博士は、銀河系世界最高級の頭脳の持ち主であった。

 銀河系世界を時空機が飛び回り、パラレルワールドから元の世界に帰還できる、時空航法の基礎理論こそが、この統一馬鹿理論なのである。



 巨大惑星アポカリプス星の245ヶ星系軍士官学校は、aタイプにとって懐かしくも大切な思い出であった。

 朝からの飛行実施訓練を終えての午後の理論講義は、いつでも必ず眠気をもよおした。

 パイロット達にとって、ボインシュタイン博士の、老人らしからぬ情熱的な講義は、さながら子守唄のようであった。


「時空航法とは、言うなれば、飛んでいるのではなく、全ての(場)を引っ張り寄せてお

るのじゃ。──

 つまりパラレルワールドから、何からかにまでを引っ張り寄せるのじゃ。

 そして放り投げる。

 これこそが統一場化ばか理論なのじゃ。

 更に発展型になると、(場)をわしづかみにして、引っつかみ、こね回し、手頃な大きさに丸めて、時空の壁にぶっつけて、跳ね返ってくるところをキャッチするのじゃ。

 この場合ボールとは、銀河系全体の事じゃ。

 ボールの画く軌道の、全ての瞬間点こそがパラレルワールドなのじゃ。

 これこそが、最新式ハイパードライブにおける(発展型統一場化理論)の数式である」


 博士は黒板に難しい数式を書いて行く。


 aタイプは一生懸命、数式のメモをとった。

 何度考えてみても意味が解らず、理解する事は断念した。

 だがその数式は、お守りとして小さなキューピーのロケットに入れて、認識標と共にいつでも胸に下げている。


「ここまでくれば(発展型統一場化理論)の数式は、もはや(統一馬鹿理論)とでも呼ぶべきものじゃろう。

 何故なら、あらゆる矛盾を踏み越えて、人知を遥かに超えておる。

 現在、宇宙の真理にもっとも近い理論が、この『統一馬鹿理論』なのじゃ!


 ちんぷんかんぷんであったが、解らないなりに面白い講義であった。

 


 士官学校時代の思い出がよぎるaタイプは、甘えの許されない軍隊で、とにかく一生懸命やってきたのだ。


 そもそもaタイプクロ-ンは、銀河系世界に潤いと幸せを与える為に生まれて来る。


〝明るく可愛いく清潔に〟


 をモットーに、コロニーで育つaタイプは、自然、サービス業に従事する者がほとんどだ。


 aタイプ中尉は殻を破ったのだ。

 同じような顔をしているaタイプクローンでも、痩せ形、肥満形、がっちり形、色っぽくねくね形、身長だって、のっぽもいれば、ちびもいる。

 ピンク色の毛髪だって微妙に違うのである。


 aタイプのセオリーから抜け出したいaタイプも、少数ながらいるのだ。

 aタイプ中尉はそんなaタイプ達の、先達になりたいのかもしれない。


 いや、実はそんな大それた野望は、彼女にはないだろう。

 しかし、結局、彼女の歩む道は、aタイプ達の将来を大きく切り開いて行く事になるのだ。


 245ヶ星系軍軍人として、様々な経験を積んで、


「いつの日にか、フェロモン号のような巨大艦を自由自在に操る、一等行宙士になりたいな」


 と考えるaタイプ中尉なのである。


 可愛いらしいaタイプクローンだからこそ、誰にも負けたくないのであった。




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