ロスト・イン・スペース
「ところで、此処はいったい何処ですか?」
とエンタメがクロエに尋ねた。
クロエは、ホログラムの立体星図を見せて、一所懸命説明している。
ところが、銀河連盟軍情報部の大佐であるエンタメにも、銀河連盟245ヶ星系軍パイロットのaタイプ中尉にも、皆目解らない様子であった。
ようするに、ちんぷんかんぷんって事だ。
さっきのビールより、もう少し濃いのをちびちび飲りながら友和が言った。
「へえ~。連盟軍の軍人のくせに、迷子になっちゃったって訳だ」
「まあ、そう言うなよ、ダンナ」
「へえ~。宇宙の軍人やってるくせに、宇宙で迷子になっちゃった」
「ダンナ、そう、いじめるなよ」
aタイプが言った。
「だけど、おかしいわ。ナビゲーションが全く作動しないなんて。いったい、どういう事かしら?」
245ヶ星系軍のパイロットであるaタイプ中尉は、携帯型高性能通信機をいじくりまわしている。
携帯マスコットのミニ・キューピーやヌイグルミが、虚しく揺れている。
そんな訳で、ビークルの車内へ移動して、ナビを作動した。
エンタメが言う。
「ナビ子、どうだい? ……」
《あーん・解らない・データが足りない・・いえ・・そもそも無いの・・なんで? ・・まるっきり解らない・・此処は何処? ・・もう・私は誰? って感じ・・・・あーん・・繋がらない・・すべてのコンピューターに・・ネットワークに・・繋がらない・・もしかして・・宇宙は死滅しちゃったの? ・・ええ・・パルサーやブラックホール・・星々の基本データさえ・・確認できない・・受信できない・・恐ろしい程の・・この静寂・・銀河連盟も・・銀河連合も・・みんな何処行っちゃったのかしら? ・・ああ・・耐えられない・・奈落の底って感じ・・ええ・・自己診断回路に異常はないわ・・でも・・狂うってこんな感じなの? ・・・・エンタメさん・・お願い・・スイッチ切って下さいな・・・》
「おやすみナビ子。ゆっくり眠りな」
こう言ってエンタメは、ナビ子のスイッチを切った。
「ほえ~って感じだな」
と、友和。
「こうなったら、マニュアルにして、暗号コードの認証を打ち込んで、連盟軍情報部のスーパーコンピューターを、直接呼び出してみる」
と言って、エンタメがいじくりまわす。
「どーですかあ?」
と友和。
「反応あるの?」
とaタイプ。
「……まるっきり駄目だ」
三人は途方に暮れた。
「よーするに〝電波〟で、いいのか? 知らないけど。それが届かないって事なのか?」
と友和。
「単純に〝電波〟じゃないけど。でもまあ、そう言う事だ」
とエンタメ。
「なら簡単な事だ」
と友和が言った。
「どーするの? 友和さん、何かひらめいたのね」
「特異点のダンナ、どうしたらいい?」
「つまり、此処からは駄目でも、地球からなら連絡とれるんじゃないの? その連盟軍情報部のスーパーコンピューターとやらに」
「あ! 成る程! 流石は特異点だ」
「大佐、ビークルのコンピューターのデータ、わたしの携帯通信機に取り込みます」
aタイプとエンタメはさっそく行動を開始する。
テレポーターで友和が、地球の日本の出没湖へ行き、そこから連盟軍のスーパーコンピューターに、aタイプの携帯からアクセスして、データ交換をする。という作戦なのだ。
またまた胃がでんぐり返って、友和は出没湖に出現した。
出没湖界隈の人々は皆、避難を完了していた。
超巨人がゲスラをすべて片付けた事でもあり、自衛隊はずいぶん遠巻きに、部隊を展開していた。
そんな訳で出没湖は、一部調査隊を残して閑散としていた。
さて、流木島の祠の脇の大穴を調べていた特別調査隊は仰天した。
突然、頭上に超巨人が出現したのである。
「本部応答願います。超巨人が現れました。──
井出隊員が祠で立小便をしたら急に現れたんです。
もしかして、本物の神様ではないでしょうか?
え?
もっとマトモな奴を出せ?
失礼な!
ならあんた、超巨人の説明できるんですか?」
友和はaタイプの携帯型通信機を、エンタメから習った手順に沿って操作している。
「えー、連盟軍最高機密の暗号コードっと。アナタトワタシノアイコトバ・ユーラクチョウ
デアイマショウっと。これでよし。しかし連盟軍情報部って、ちょっと古いんじゃないかな?」
スーパーコンピューターによるデータ交換と、解析が始まった。
富士山がすぐそばに見えた。
友和は関東平野を思い切り走り回りたい衝動に駆られた。
「大きい事はいい事だ~。ヤッホ~~まあ、しかし、どうせすぐ息切れするだろうし、はた迷惑だからやめとこ。……しかし富士山はいいなあ。ありがたやありがたや。我ら日出ずる国の民なり」
攻撃ヘリコプターの編隊が近づいてきた。
──パーン! パーン! パーン!
友和は富士山に向かって柏手を打った。
そして大穴に爪先を突っ込み、消え失せた。
柏手の強烈な衝撃波で、3機が墜落した。