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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
16/45

  超巨人友和

 やがて男が一人帰ってきて、一緒に食卓を囲んだ。

 ゲスラはグーグーという呼び名であるらしい。

 このクロエとタモラと言うカップルは、このミニ怪獣グーグーのブリーダーなのだと言う。


 食事の途中、クロエが立ち上がりキッチンテーブルの奥の壁の、冷蔵庫の脇にある小さな機械を覗いた。そして、だしぬけに友和達に詫びた。


「あ! お客さん、大変申し訳ない事をした」


「なんですか? いったい」

 とエンタメ。


 クロエは説明した。

「まったくグーグーのいたずらものめ! テレポーター(瞬間移動装置)をいじっちゃったんです。ほら無限大に設定が変わっている。つまり皆さんを引っ張り込んだのは、ウチのテレポーターだって事になります」


 タモラが言った。

「そういえばグーグーが少ないわ。ココちゃん! ナナちゃん! マーちゃんもターくんもいないわ」


 友和が言った。

「そうだよ。地球にいるんだよ。出没湖にいるんだ。だけど何で大きさがこんなにも違うんだ?」


「とにかく、捕まえてくる」

 クロエはテレポーターをいじっているのだが、一向に消え去る気配はない。


「だめだ! 入っていけない! 場所はそのまま、固定したんだけど……」

 タモラもテレポーターの前に立ち、試してみるのだが、全く反応しない。


「俺が行ってみようか?」

 相変わらず軽いノリの友和が、テレポーターの前にひょいと立った。

 瞬間、胃がでんぐり返るような、あの感じがした。





 避けそこなった攻撃ヘリが、友和の額に激突して墜落した。


「いってー! 何すんだ!」


 友和は百七十メートルの超巨人となって、出没湖にそびえ立っているではないか。

 ゴジラ並みの怪獣たちが50メートル級なのだから、優にその3倍以上。凄いのなんの。


 友和の額に激突したヘリコプターは、落下して右肩に当たり、それから左の太ももにバウンドし、そして右の靴の甲に当たって森の中へ突っ込んだ。

 墜落には違いないが、段階的にブレーキがかかった事が幸いしたのだろう。パイロットとクルーはどうにか無事だった。

 破損した機体から、命からがら這い出してきた。


「おい、無事か? 助かったぞ!」

「しっかりしろ!」

「ひゃあ! あれをみろ!」

「あれに衝突したんだ。し、信じられん!」


 空全面を覆うばかりの超巨人の姿に、全員がぶったまげた。

 棒立ちで仰ぎ見ていると、全身がむず痒くなる程の低周波振動を浴びた。

 これは超巨人の発する声だ。重低音の音波振動であった。


「くおりやぁぁ、ばうっっっとぁむぁぐぇとぁあぬぁあぁぁ・・・・」

 と、意味不明の重低音が聞こえる。

 全身総毛立ったパイロットとクルーは、のたうち回って悲鳴をあげた。


「うっひゃ~! 頭蓋骨ビリビリ~!」

「耳が、痒いよお!」

「鼻の穴が、ふぁなげが、は、鼻毛が逆立つ! ふぇっふぇっ、ふぇーくしょん!」

「歯ぐきの裏側がくすぐって~! たまらん! 差し歯が抜けそ!」


 超巨人は、こう言ってる。


「こりゃ、ぶったまげたな。そうだココちゃんだっけ? ココちゃんってどいつだ? おいで、おいで、こりゃ捕まえるったって至難の業だよ」


 友和はゲスラを追って山の上に移動した。

 一歩踏み出すごとに、ズシーンズシーンと凄い振動。超巨人の足元は震度7以上。


 遭難したパイロットとクルーはパニック状態。

「助けてくれー!」

「なんまんだぶ・なんまんだぶ・・・」

「悪かった。俺が悪かった。許してくれ~!」

「生きて帰ったら絶対プロポーズしてやる! 里子~!」 



 そびえ立つ友和の回りを、自衛隊機が飛び回る。

 眼下の国道を連なって逃げて行く車の列が、まるでミニチュアカーのように見える。

 二、三台つまんでみたかったりするのだが、そんな事をしたら、たちどころに自衛隊機の攻撃を受けるだろう。


「くそっ自衛隊のヘリコプターめ! おでこ切っちゃったじゃないか! だけどミサイルはこんなもんじゃないぞ。めちゃくちゃ痛いだろな。きっと死ぬな。くそ! やられっぱなしじゃ悔しいじゃないか」


 カメラを回しながら飛び回っているヘリコプターの機内では、本部からの無線が鳴っている。

「おい! 何がおこった! モニター見てもさっぱり解らん。混信してるらしい。バーゲン品の衣料品が映ってる。テレビ通販らしい。報告しろ! 何が見える?」


 パイロットが答える。

「オ、オヤジだ! 信じられん!」


「オヤジ? オヤジがどうした?」

 と本部。


「いや。俺のオヤジって意味じゃない! 何処かのオヤジ。つまりオッチャンだあ!」

 とパイロット。


「オッチャン? オッチャンがどうした?」

 と本部。


「フリースを着た、オヤジだ!」

 とパイロット。


「フリースか? お! このテレビ通販、フリースが映ってるぞ!」

 と本部。


「テレビ通販じゃない! これは実写だ! バカでかいオヤジなんだ!」

 とパイロット。


「実写か? フリースが? バカオヤジとはなんだ! バカはお前だ!」

 と本部。



 フリースを腕まくりして、超巨人は額の傷口を、青いシャツの袖でぬぐっている。

「あだだだだ。おでこ、本当に痛い。自衛隊のヤロー。同じ日本人のクセに……」


 攻撃ヘリは数を増し、周りを飛び回っている。

 友和は、ナマハゲのような恰好をして、自衛隊機を威嚇する。

 中腰となり、そしてしゃがむ。

 それから立ち上がり、叫んだ。


「ギャオー! どうだバカヤロー! 迫力だろ?」


 攻撃ヘリは四散した。

 そして遠ざかって行く。


「よーし今のうちだ。ココちゃん。おいで。あとは、ナナちゃんだっけ? おいで。おいで」


 ゲスラは出没湖界隈の山の上で、転げ回って遊んでいる。

 捕まえようとしているのだが、なかなかすばしっこい。するりと逃げられてしまう。


「やっぱ、無理だな」


 仕方がないので腕を腰にあて、遥かなる関東平野を俯瞰ふかんして観賞する。

 まだ感覚が馴れないせいで、立ったまま真下を見ると、あまりの高さにクラクラする。


「自分の足元眺めて高所恐怖症じゃ可笑しいよな。だけどまあ、気持ちいいな」


 人間世界を遥かに見下ろし、あたかも神様になったような気分の友和であったが、なにぶん十二月の寒空の中である、にわかに尿意が込み上げてきた。


「わははは、まさか立小便をする訳にもいかんし……ひとまず引き上げだな」


 友和は流木島のクレーターに爪先を突っ込んだ。

 胃がでんぐり返った。

 こうして超巨人は消え失せてしまった。





 世間は大騒ぎとなった。

 号外が乱れ飛ぶ。

『怪獣ゲスラ出現!』

『驚愕! ゲスラ多数現る!』

『仰天! のし歩くゲスラの群れ』

『驚天動地! なんと、超巨人現る!』


 友和の写真が新聞や雑誌を飾る。

 テレビのすべてのチャンネルがゲスラと超巨人一色だ。

 神なのか? 人間なのか? あの、フリースを着た、平凡な容貌ようぼう

 超巨人はいったい誰でしょう?


 小野寺善行も部屋でテレビを見て叫ぶ。

「友和! お前、そんな所で、いったい何やってんだー?」


 科学者や軍事評論家が質問責めに遭い、結局、皆、便所に逃げ込んだ。

 有名な霊能者や占い師もコメントを求められる。

 彼等の場合は複雑な心境だ。

 何故なら、超巨人となっている平凡な容貌の中年オヤジが現実に存在している以上、これには絶対、何かトリックがある筈だと考える。

 だから、めったな事は言えない。それらしい事も言えない。

 へたをすれば、種明かしが済んだ後で恥をかいてしまうからだ。


「すべてが解明された後で、いつものように、もっともらしく、偉そうな事を言おう」

 と結論を出してはいるものの、今受けているこの質問にも、お馴染みの知ったかぶりを発揮したい。

 自説をもっともらしく展開し、即座に答えを言い放ち、世間を感心させてやりたい。

 そんな欲求がムズムズと込み上げてくる。

 霊能者や占い師は因果な性分なのだ。

 解らないとか、知らないとか、絶対に言いたくない。





 一方、ブリーダー屋敷では。

「すまん、ミニ怪獣捕まんなかった」

 流血の友和の帰還である。


「友和さん、おでこ怪我してるわ。大丈夫?」

 aタイプが傷の消毒をしてくれた。


「ダンナ、額が割れてるぜ。頭突きでもくらったのか? どうだ? 喋れるか?」


「ああ、驚いたよ。俺は巨大化して出没湖に立ってたんだ。怪獣と同じ比率みたいだな。つまり、出没湖に行くと、俺は超巨人になるんだ。それにしても、くそっ自衛隊の奴め! おっと、我慢してたんだ、漏れそう。トイレどこですか?」

 友和は、内股になり、よじれ歩きでトイレに行った。


「自衛隊と戦ったのね! 友和さんの仇。今度はわたしが行く!」

 aタイプはブラスター(熱線銃)を取り出した。


「おいおいaタイプ、自衛隊と戦争、おっぱじめるつもりかい?」

 とエンタメが言う。


「だってー、無防備な友和さんを攻撃したのよ。最初の怪獣の事だって、許せない!」

 熱源カートリッジのエネルギー残量を点検している。


「まあ待て中尉。とりあえず俺が行って様子を見てきてやる」

 巨大化したaタイプは、自衛隊を焼き尽くすかもしれない。と考えたエンタメは、テレポーターの前に目を閉じて立った。


「すいませんけど、今度はエサでつってみてくれない?」

 と言いながら、タモラがペットフードの袋をエンタメに渡した。


 目を閉じたまま、ペットフードの袋を抱えて、つっ立ったままのエンタメである。

 しかし消えない。


「おかしいな? 生体周波数が変化したのかな?」

 とクロエが言う。


「やっぱりわたしが」

 テレポーターの前でブラスターを握りしめ、突入ボーズを取るaタイプなのだが、やはり反応しない。


「行きは良い良い帰りは怖いってか?」

 とエンタメ。


 トイレから友和が出てきた。

「あーすっきりした。からっぽになったら飲みたくなったな。クロエさん何かアルコールないの?」


 笑いながらエンタメが言う。

「あははは、ダンナがトイレに行ってる間が、日本の運命の分かれ道だったな」


「何のこっちゃ?」

 と友和。


「aタイプが自衛隊を壊滅させるとこだったよ」

 とエンタメは、ペットフードの乾燥エサの匂いにつられたのか、取り出してなめている。


「どうしてこの人だけ反応するのかしら?」

 とタモラが不思議そうに言った。


「何せ彼は特異点ですからな。我々にも解らん事が多いのです。頭の構造とかも……」


 エンタメは乾燥エサを二、三粒、ポリポリと旨そうに食べている。

 友和は、クロエが次々と出してくるアルコール飲料を、それぞれ試飲する。


「いよっし、これが一番ビールに近い。さあクロエさん、飲も飲も」


「ダンナ俺にも一杯くれ。これ、結構いけるぞ」

 友和にペットフードの袋を差し出すエンタメなのだ。


 クロエも、しょうがない。といった顔をして、飲み始めた。


「困ったわ。なんとかしなくちゃ。ねえクロエ、飲んでる場合じゃないでしょ?」

 とタモラがクロエをつっついた。

 相変わらずお気楽な友和は、乾燥エサをつまみながら、旨そうに飲んでいる。


「まあ奥さん、あせらない、あせらない。こうして飲んでるとアイデアが、出る時は出るし、出ない時は……」


「出ない時はどうなさるの?」

 と心配顔のタモラが聞いた。


「あははは、出るまで飲もうホトトギスってね。これ結構旨いな」


「な。イカみたいな匂いがまた、そそるんだよ」

 とエンタメもいい調子になってきた。


「やっぱりだめみたい」

 テレポーターの前で再び、突入ボーズを取りながらaタイプが言った。


 クロエとタモラから見た場合、この三人は紛れもないエイリアンなのだ。

 エイリアンはペットフードを食べながら、不思議な宴会を続けている。


「よおし、おまたせタモラさん。アイデア出たよ。aタイプ、あの銃、貸してくれ。痺れるやつだ」

 気合いは十分。

 今度はパラライザー(麻痺銃)を片手に再びテレポーターの前に立つ友和であった。

 胃がよじれた。





 そして、またしても出没湖に現れた超巨人である。

 今度も、避けそこなった自衛隊の攻撃機の翼が、友和の耳を切り裂いた。

 急上昇して逃げて行く。


「いってー! こん畜生! 日本人のくせに同朋を攻撃するなんて……馬鹿者め! 血が出たじゃないか! 奥歯といい、おでこといい、耳といい、今日は厄日だ! さっさと片付けなくっちゃ。殺されちまう」


 さっそくゲスラにバラライザーを見舞い、コロンと丸まって麻痺した奴を、一匹づつ流木島の穴にほうり込んでいく。


「ヤイ航空自衛隊! お前らにも見舞ってやろうか? パラライザーって言うんだぞ! 痺れちゃったら墜落するんだぞ。まったく。おー、耳痛てー」


 ところで最初の一匹がどうしても見当たらないのだ。

 戦車隊の砲撃で死んだ奴である。

 超巨人は中腰になり、ゲスラの死体を捜している。


「流されちゃったみたいだな。──

 えーと確か出没湖から流れているのは鶴田川と、高倉川もそうだっけ?

 おいおい、雨が降ってきたよ。

 耳の血が、首からぬるぬる入って気持ち悪いな。

 タモラさんにゃ申し訳ないけど、今回はここまでだ。

 うー、アルコールが抜けてきたから寒いのなんの」


 そして流木島の穴に爪先を突っ込むと、巨大な友和は再び消え失せた。





「ごめんな。最初に殺されちゃった一匹、どうしても見つからないんだ」


「友和さん、ありがとう。……しくしく、マーちゃん可哀相」

 タモラはべそをかいている。


「泣くなタモラ。生きてるグーグーは、友和さんがみんな助けてくれたんだ。しかも何度も怪我をしながら。御礼の言葉もないよ」

 涙目のクロエは友和の手を握って離さない。





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