クロエとタモラ
クロエがブリーダーになる事を思い立ったのは、タモラの動物愛護精神に負う処が大きい。
四日に一度は元の領主であるズール伯の所へ勤労奉仕に出かけるクロエだったが、残りのシーズンの人生設計を考える上でも、ここは一つタモラと、一緒に打ち込める仕事を始める事が必要だと感応し合った為だ。
その結果、タモラからの深い感謝と喜びの波長を感じているのだ。
これはクロエにとって何より嬉しい事だった。
クロエ自身はと言えば、勿論この事はタモラもすっかりお見透しの筈なのだが、グーグーの事は特に好きだという訳じゃない。
何故なら愛情不足により欲求不満を感じてしまったグーグーは、第3シーズンに至っては脱皮して、元の姿とは似ても似つかない醜悪な姿となるからだ。
つまり性悪なバレバレになるのだ。
まったくバレバレときたら……いくらグーグーの頃可愛いらしくとも、気が違ったように凶暴になり、脱皮した後のその姿といったら、固い鱗に被われて、おまけにアムラシッド星の怪獣ベロベロのように炎まで吐き出す始末だ。
まあ考えてみればこれは仕方の無い事なのだ。
何故なら元々グーグーとは、このベロベロとチョンビレ星の可愛いらしい愛玩チョメチョメを、掛け合わせて造ったものなのだから。
だからグーグーこそは品種改良の奇跡とまで絶賛されているのだ。
この事は今でもブリーダー達の自尊心の源となっている。
「くすくす」
とクロエは笑う。
チョメチョメでは温和し過ぎて物足りないって事だ。
それこそが、いたずらもののグーグーの人気の秘密なのであった。
かつて、先人達が、この予測不能な魅力に満ちた怪獣ベロベロを、結局飼い慣らす事が出来なかった事への、アドロ流の帰結、つまり支配能力の証明でもあるのだ。
今のところ商売は繁盛している。
客は何日か滞在して、じっくりグーグーと遊び、感応の相性の良い、お気に入りのやつを買って行く。
もっとも売れ残ったって、ちっとも構いはしない。
第3シーズンを無事に乗り切ったグーグーは、第4シーズンに入ると、どんどん太り出して、第5シーズンに入ると最高級食用肉のチョベリグとなるのだ。
この約二十倍に体積の増えたチョベリグ肉は、結構いい値で売れるのだった。
食卓を挟んで、美しいタモラの美味い手料理をチューチューと吸い込みながら、幸福をかみしめるクロエなのだ。
「ああ、第3シーズン、第3シーズン。僕一人では到底乗り切れないよ。──
あははは、おそらくみんなバレバレになっちまう。
グーグーは素直だ。ブリーダーの邪心を見抜くんだ。
だから、君の純粋な愛情のお陰だよ。
他のブリーダー連中はどんなに世話を焼いても十匹に一匹はバレバレになっちまうって言ってる。
ズール伯の所でさえ十五匹に一匹だ。
ここ五年間バレバレ退治をしてないなんて……。
この事は、みんな驚いてるんだ。
タモラ、まったく君はカスパルのピロピロだよ。(天使のよう、或いはマリア様か?)
愛しているよ」
美しいタモラは静かに笑っている。
昼間は外の真っ赤な草原で、一日中転げ回って遊び疲れたグーグー達は、寄り添い丸くなって眠っている。