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大怪獣ゲスラ  作者: ロッカ&参照太夫
11/45

  攻撃

 こうして結局、自衛隊による攻撃が決定された。

 何と言ってもこれは有事なのである。


 幕僚幹部による有事規定、特別機密乙の3号、丙の9項にのっとって波状攻撃の順番が決められた。

 丙の9項は一般言語に訳すと「アミダクジ」と言う。


 怪獣映画よろしく出没湖の湖畔には戦車が並んだ。

 第一波攻撃を引き当てた髭の戦車隊長は、満面に笑みを浮かべ、上機嫌である。

『麦と兵隊』を替え歌にして唄っている。


「~髭も~ほっころぶ~出没湖~」

 浪花節のような、渋いのどを聞かせる。

 手拍子をとっているのが副官だ。

 本部から、やっと決断した総理の命令が伝えられた。


「了解。了解」

 と、髭の戦車隊長は通信器を切る。


「どうでした?」

 と副官が尋ねる。


「うむ、総理は決断された」

 と髭隊長。


「まさしく、有事ですからな」

 と副官。


「むふふふ、攻撃命令だ」

 と髭隊長。


「腕が鳴りますな」

 と副官。


「攻撃! 総員、抜刀突撃! ……なーんちゃって」

 嬉しくてたまらない髭隊長なのである。



「こなくそっぶちかませー」

 号令一下、一斉射撃が始まった。


 ──バスン! バスン!

 と戦車砲の砲声が腹に響く。


 ゲスラはギャーギャーと見苦しいほどに悲鳴をあげて、湖の中をじたばたと逃げ回った。

 そして全身の傷から大量に血を流し、悲しげにひときわ高い断末魔の叫び声をあげた。


「アイーーーンンン」


 そして出没湖の中に、ザバアッと倒れた。

 この大波で残りの木造家屋が全て倒壊した。

 死んだらしい。


「呆気ない奴ですね」

 と副官。


「もうちょっと頑張ってくれたらなあ。劣化ウランの撤甲弾が使えたのに」

 ちょっと残念な髭隊長であった。


 ギャラリーの親父が誰へともなくつぶやいた。

「糞小便しただけで抹殺かよ?」


 女達が大声で叫ぶ。

「あんなに痛がってたじゃない。惨すぎるわ!」


「かわいそうだわ!」


「残酷よ!」


 人々は皆、後味の悪い、嫌ーな気分になった。

 この、批難めいた空気をひしひしと感じつつ、戦車隊は粛々と引き上げて行った。


 生物学者と厚生省の役人からになる特別調査団が、ゲスラの死体の調査の為、周遊観光船に乗り込もうとした。

 まさにその矢先であった。

 流木島からもう一匹、今度は一回り小さなゲスラが現れたのだ。

 大きく伸びをしながら挨拶がわりに咆哮する。


「ギエエーーーンンンン」


 よくディレイの効いた迫力満点の咆哮である。

 ここは是非とも、故、伊福部昭先生の音楽が欲しいところだ。


 なんと、またしても怪獣出現なのだ。

 人々は固唾を飲んで見守った。

 二匹めのゲスラは、湖の中に倒れているオスのゲスラに近づき、その亡きがらに取りすがって、もう一度泣き叫んだ。

 これは哀調を帯びた咆哮であった。


「ギョエアィーーーンンンン」


 悲しげなその声は、とてつもなく大きく、湖畔のホテルの窓ガラスは衝撃波の為、全て粉々になった。

 こいつは、メスであるらしい。妻か? 或いは恋人か? はたまた愛人か?


 政府とマスコミには抗議の電話やメールがどっと送られてきた。

 諸外国からも動物愛護団体を中心に、膨大な量の抗議が殺到した。

 その結果、攻撃命令は即座に中止された。


「だからこういう場合も考慮に入れて、しっかり対策を練ってくれなきゃ困るって言ったでしょ」

 こう言い残して総理は便所へ逃げた。


 窓ガラスが無くなって、容赦なく寒風が吹き込むホテルの6階の部屋では、aタイプが怒っていた。


「いきなり攻撃するなんて酷いわ! ゲスラの奥さんかわいそう」


 友和が言う。

「あんなに弱っちい奴だとは思わなかったな」




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