対策本部
東京には速やかに緊急対策本部が設置された。
「ゲスラ対策本部」である。
その隣には、もっと大規模で物々しい、東京都の対策本部が設置されている。
「東京都・ゲスラ対策本部」である。
都知事は行方不明であった。
この男、生来、野次馬根性が強く、ゲスラを直接見たくなって、ヘリコプターで現地入りしてしまった。
こうなったら、なかなか捕まらない男なのだ。
仕方がない内閣官房長官は、受話器を握りしめ、副知事相手にまくし立てる。
「だからね、米軍のオブザーバーやら各国大使が、間違ってそっち(東京都・ゲスラ対策本部)へ行っちゃうんだよ。──
紛らわしいんだよ、まったく。
いやしくも、こっちは国の対策本部だよ。
少しは遠慮してくれたっていいだろ?
幕末の、幕府と長州の関係じゃないんだから。
な、盛り立ててくれよ。日本国」
奥の部屋では、優柔不断とか無責任との国民の日頃の批判を払拭すべく、とりあえず防災服に身を固めた総理大臣が、攻撃の決意を固めようとしていた。
(この文章を書いている時点での総理は福田さんなので、どうしても意識してしまいます。しかし、どうせ長続きする訳もありませんから、遠慮なく〝キャラ化〟しちゃいます。)
「あの怪獣は本当に、米国とは関係してないんですね?」
真っ先きって駆け付けてきた防衛大臣は、いつもの赤ら顔だ。
市破という元祖オタク大臣であった。(この人に限って、名前で登場する事になります。哀愁を感じさせる、棄てがたいキャラクターです。)
「アメリカとは全く関係無いものと思われます」
と市破防衛大臣が答えた。
眼鏡をこころもちずり下げ、慎重な総理は質問を続ける。
「もしかして中国と、関係あったりしませんかね?」
こちらも赤面している外務大臣が、ダミ声で答える。(その後、コノヒトも総理になったけど、短かったね。)
「アレに関しては関係ありませんな。まあ、大丈夫ですよ」
総理はあくまで慎重である。
「まあ、大丈夫ってアナタね、太郎さん、顔が赤いですよ! また飲んでたんでしょ? そんな状態で、ちゃんと調べてみたんですか?」
「そんな風におっしゃるのなら総理、市破防衛大臣なんか、もっともっと、ずっと赤いじゃないか!」
と太郎外務大臣。
「あの人はほら、元々赤ら顔ですから。赤黒い感じのね。その事と、アナタが大酒飲みだって事は、関係ないでしょ?」
と総理。
市破防衛大臣も外務大臣に詰め寄る。
「外務大臣。太郎さん。アナタ、もしかして私の赤面症の事、馬鹿にしてるんですか?」
太郎外務大臣は逃げ腰だ。
「あたしゃてっきりアナタは、飲んでるから赤いんだとばかり思ってた。赤面症だなんて考えた事、一度もないよ」
市破防衛大臣は追及する。
「じゃあいつも私の事を、酔っ払いだと思ってたんだな!」
ここは一番、取り成してやるつもりの、厚生労働大臣が言った。(この人は、離党して新党結成したよね。)
「まあまあ、市破さん、飲んだか飲んでないか判別できない。これは政治家として大変得な体質だよ。羨ましい限りだ」
総理の首席秘書官がひたひたと、市破防衛大臣ににじり寄っって囁いた。
「総理はね、アナタの事だけは本当に信頼してるんだよ。うん、頼りにしてるんだよ」
実はこの首席秘書官、総理と二人っきりの時は、市破防衛大臣の事を、オタク風味の赤面大臣とか、赤防と呼んでいた。
電話が鳴った。
さっと受話器に飛びついた首席秘書官は、総理にひそひそと囁く。
「上様、外遊中の、自称キングメーカーの下駄面親父からですよ」
総理が受話器をひったくって言った。
「あ、精力モリモリ森先生、ご無沙汰です。今回の怪獣事件ね、これはもしかしてロシアと、関係あったりしませんかね? そうですか。じゃ韓国は? 北朝鮮の陰謀って可能性は? ……」
あくまでも慎重な総理であった。
── 蛇足 ──
今にして思うのだが、福田内閣は、何と〝怪獣モノ〟にピッタリの内閣であった事か。
現在の菅内閣に書き直そうかとも思ったが、腰が落ち着かないのはともかくとしても、キャラとして面白味に欠ける。
私はけっして自民党びいきではないし、かつては、民主党に期待を寄せた一人だ。
ただ、福田さんも、石破さんも、太郎さんも、なんとも言えぬ〝味〟があった。〝華〟とまでは言わぬが。
── 蛇足の蛇足 ──
その後、日本は本物の国難を迎えている。まさに、事実は小説より奇なり。
東日本の地震と津波はゲスラどころじゃない。
私自信も、連絡が取れない身内がいて、マイナス気温のさなか、余震が続く避難所を思うと、胸が張り裂けそうな思いだ。
原発事故もあり、復興にはかなりの歳月を要するだろうが、いつかは、上記のような、お気楽で無責任な、面白日本に戻ってほしい次第だ。
「暗い世相だからこそ、ユーモアが必要なんですね」なんて事を、バカ真面目に喋る時代が来るなんて……。
年頭のブログの挨拶に、カタストロフィーの予感がする。と書いてしまった。
予感のままで、何事も無いと思っていたのだが……。
カタストロフィーはいつまで続くのだろう。