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そんな暗い日々が一週間ほど続いたある日。
豪太はとつぜん恋に落ちた。お相手は隣のクラスの船山さん。船だったら海なのになんで山なの?なんて、
小学校の時の、お調子者状態の豪太だったら、気軽に声をかけていたかもしれない。
でも、そんなことを思う前に(もっというと名前を知る前に)恋に落ちてしまっていた。お人形みたいな顔をしているのに、3Dな生々しさもあり(人間なんだから当たり前だ)、本能的にくすぐられ、イチコロされてしまったのだ。
そもそも好きになったきっかけは至ってシンプルで。
豪太が理科の実験室にいく際に、ぼうっと歩いていたため、手の握力がゆるんでしまい、廊下で筆箱を落とし、盛大に中身をばらまいてしまったのだ。
そこにたまたま通りかかった彼女が一緒に拾って手渡してくれたのである。
もうだれがなんといおうと、本当にKing of ベタな展開だ。
少しはにかみながら、「はい」と、渡してくれて、手と手がほんのちょっぴり触れたときにI’m just a man Fall in Love,恋に落ちて、という次第。
「ありがとう」豪太はテレながら礼を言い、足早に実験室に向かった。
一応胸元の名札を盗み見て、名前を確認できたのは僥倖であった。
もはやその日の授業中は船山さんのことしか考えていなかったといっても過言ではない。
そんな(一方的に)運命的な出会いがあった日以来。
昼休みの校庭では彼女をいつも探したいたがみつからず。『インドア派なのかな』と思ってみたり。
また廊下で会わないかと期待したが、不思議なほど全く会わなかったり。
階段を降りてく一瞬だけ姿が見えたり。
恐らく小学生の時の同級生であろう子(とても不細工)に会いに、豪太のクラスにたまに来たり。
でもチラチラ見るのも気恥ずかしく、結局視線も送れない。
そんな悶々とした日々が続いていた。
そんなこんなのある土曜日。最寄り駅でなんとばったり会ってしまった。豪太が一番会いたくない形で。
つまり、ボーイフレンド風の男と一緒に楽しそうにお喋りしているところに出くわしてしまったのだ。豪太も例のごとくぼーっとしながら歩いていたから。2人に近づくまで全然気づけなかった。
今更この距離で踵を返したら完全に挙動不審者だ。と思い、やむを得ず普通に振る舞うことにする。
とはいってもばっちり胸を張って会った!と言えるのは一度きり。
向こうが自分を覚えているかも分からず。でも自分の心臓は、うるさいくらいに高鳴って。
ドキがムネムネしている状態。(爆)
顔が(主に耳が)熱すぎて、赤くなってしまってないか、それを向こうに気づかれてしまうんでないか、彼氏に怒られるんじゃないか、そんな不安もありつつ、豪太は軽く会釈するような形でとおりすぎようとしたら、むこうも気づいてあら、という顔をした。
なのでもう一度、気持ち大げさな(豪太体感比)会釈をして通り過ぎることにした。向こうも別に声はかけてこなかった。
豪太は電車に乗り込みながら、
『向こうも気づいた、ということは覚えてはくれてた』、と少し嬉しくなったが、すぐにもっと大きな問題が頭を占める。
『あれ、彼氏かな?ワンチャン兄弟の線もあるのかな?』
学校では見たことない顔だが、違うクラスの同級生を全員覚えているか?と考えると少し怪しい豪太である。それに上級生はまったくわからなかった。
考えていても、もはや答えの出ないラビリンスにはまりつつ、一駅電車に乗り、到着したのは図書館。
自宅からの最寄り駅の、その隣駅にあるわりと大型のもので、豪太はここにくるのが好きだった。また本は十冊まで、CDも1回に2枚までだったが借りることができた。
豪太の家には、亡くなった叔母が買い漁った本が大量にあって。
物心ついた頃から子供向けの本からちょっぴりエッチ(豪太体感比)な小説まで、興味津々に読みあさっていて、本は好きだった。
つまりエロガキだったとも言える。
そんな本を図書館で借りるハードルは高く、豪太は未チャレンジだったが。
それを除いても、お金もかからず、気軽に来れて、駅からもそう遠くないため、ちょくちょく行くことは多かった。
併設された卓球施設にも小学校の時、友達と何度もきている。『あの時は楽しかったな』なんて記憶がよみがえり、豪太はまた少し、憂鬱な気持ちになってしまった。
図書館では本を読んだり借りたり、楽しい時間はあっという間だったが、隣駅への戻り道の途中で、行きの事を思い出し、悶々としてしまった。
ただ、また家への帰り道に船山さんに会う!なんて奇跡的なことはなく。
ただただ豪太は家に戻ってこれてしまったのだった。
ありがとうございました。
また次話でお会いしましょう(^^♪




