表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

第6話:初めての街道

 最初の山道では、案の定、盗賊と鉢合わせた。

 だがカイルの剣が一閃すると、彼らは瞬く間に退けられてしまった。


 ――守ってくれる大人がいる。それだけで、こんなにも心強い。

 そう思った途端、自分がまだ十二歳の子どもであることを痛感した。


「十二歳だと?」

 カイルは目を丸くした。


 驚いた顔ですら整っていて、思わず吹き出してしまう。


「随分たくましく生きてきたんだな」

「まあ……。農民にも色々事情があるんですよ。特に飲んだくれの親がいるとね」

「酒か。飲んでも呑まれるなとはよく言うが」

「そんな常識、村には通じません」


 そんなやり取りを交わしながら、私たちは歩いた。


 道中、兎を狩り、焚き火で炙って食べたこともある。

 カイルの剣が一閃した瞬間、兎が倒れたときには思わず息を呑んだ。野生的で荒々しい光景だったが、その肉は驚くほど美味しかった。


 いくつかの野営を経て、一週間ほどが過ぎたころ。


 ようやく小さな町が見えてきた。石壁に囲まれ、旅人や商人でにぎわっている。牛車の列、呼び込みの声、焼いたパンの匂い――久しぶりに浴びる人の気配に胸が躍った。


「わぁ……」

 思わず声を漏らすと、カイルが一瞬こちらを見て小さく笑った。子ども扱いされている気がして、ほんの少しだけ悔しかった。


 宿屋を見つけ、二人で泊まることにした。宿代も食事も、カイルが出してくれる。けれど旅は思った以上に金がかかる。財布はすぐに寂しくなるだろう。


「少しは稼いだ方がいいね」

「俺が出す。だが……働きたいなら止めはしない」


 カイルはそう言ったが、私には剣も商売の才もない。冒険者ギルドも頭をよぎったが、カイルに止められた。この国で身を隠すつもりなら、登録は危険だという。もっともな意見だった。


 悩んだ末、私は市場で洗濯や薬草摘みを手伝い、小さな銅貨を得た。

 見知らぬ人に声をかけられるのは怖かった。けれど「ありがとう」と笑顔をもらえたとき、不思議な温かさが胸に広がった。


 その夜。宿の部屋で布袋を抱きしめる。中には銅貨が十枚。たったそれだけなのに、胸の奥が熱くなった。


「初めての給金か」


 窓辺で剣を磨くカイルが、ふと声をかけてきた。

 驚いて顔を上げると、彼は静かに続けた。


「昼間のお前の顔は、子どもの頃の俺に似ていた」


 何を意味するのか分からなかった。けれど、その横顔はどこか優しかった。


 ――翌朝。


 町を発とうとした矢先、事件は起こった。


 暴走した馬車が、轟音と共に突進してきたのだ。

 カイルが咄嗟に私を抱えて横へ飛ぶ。転がった拍子に土埃が舞い、視界が揺れた。


 顔を上げると、馬車は街角で大破し、藁や荷が散乱していた。馬は足を折り、苦しげに暴れている。処刑されるのが定めだと分かっていても、その瞳は助けを求めているように見えた。


 気づけば、私は駆け出していた。


「ロージィ!」


 周囲から「危ない!」「嬢ちゃん!」と声が飛ぶ。

 けれど耳には届かなかった。


「大丈夫。すぐに直してあげるから」


 震える首を撫で、必死に祈るように手を重ねた。

 すると、馬の体から淡い光が広がり……やがて立ち上がったのだ。


 ざわめきが広がる。


「今……光ってたぞ」

「怪我が治ったのか? まさか……」


 しまった。また力を使ってしまった――。


 慌てて地面に転がっていた人参を拾い上げ、無理に笑う。

「ほら、人参の力です!きっとね!」


 苦しい言い訳だった。だが人々の目は既に私ではなく、奇跡を起こした馬へと向いていた。


 背後から、低い声が響く。


「やはり……」


「カ、カイル……」


 振り返ると、彼はまっすぐに私を見据えていた。


「お前の力は本物だ。もう疑いようはない」


 胸が凍りつく。昨夜の「隠すな」という言葉が蘇る。


「でも……王家に知られたら、私はきっと殺される。聖女なんて、なりたくない……」


 震える声でそう漏らした瞬間、カイルは強い眼差しで告げた。


「俺が守る。だから、怖がらなくていい」


 胸が大きく跳ねる。

 それは冗談でも慰めでもなく、真実だけを語る声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ