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第2話:別れの村

 父の葬儀はできなかった。


 棺桶を買う金もなく、近くの教会の共同墓地に埋めるしかなかった。手伝ってくれた人たちの厚意で、なんとか土に眠らせることができたのだ。


 けれど彼女の心は、重く沈んでいた。


「せめてお墓を……」そう思う一方で、「でも聖女みたいに命ごと捧げるのは絶対いや」と自分に言い聞かせるしかなかった。


 街の大教会は荘厳だった。


 尖塔は空を突き、重々しい扉には聖人の彫刻がびっしり。石畳を踏みしめるたび、冷たい音が響く。

 村の素朴な礼拝堂とはまるで違い、ロージィの質素な服装は場違いに映った。注がれる視線に耐えつつ、彼女は祭壇へ進む。


「娘よ、何用か」


 出迎えたのは、この教会を取り仕切る神父だった。六十を越えた壮年の男。灰色の髭に鋭い眼差しは、慈愛よりも裁きを思わせる。


 ロージィは震える声で語り出した。


「わ、私……毎晩、同じ夢を見るんです。聖女になって、王宮に閉じ込められて……働かされて、最後は……」


 涙がこぼれそうになったそのとき、神父の瞳が細くなった。


「つまりお前は、自分が聖女だと申すのか」


「ち、違います! ただ夢を見ただけで……あの、」


 慌てて否定するロージィ。


 しかし神父は冷たく切り捨てた。


「夢など妄想にすぎん。……聖女を騙り、処罰された女の話を知らぬわけではあるまい?」


 背中を冷たい汗が伝った。


 知ってる。偽聖女とされた娘は鎖に繋がれ、広場で処刑された。ほんの数年前の話だ。


「よいか。聖女を騙れば罰せられる。夢の通りになりたくなければ、二度と口にするな」


 声が教会に響く。ロージィは唇を噛み、うつむいた。相談に来ただけなのに、罪人のように扱われるなんて。


 さらに追い打ちをかける声が降る。


「さて、父を亡くしたお前は孤児だ。居場所を失った者に残される道は二つ――擁護院か、孤児院か」


 擁護院は教会直属の収容所。見目がよければ貴族の屋敷に奉公として売られ、そうでなければ下働きとして一生を終える。


 孤児院も同じだ。食事も乏しく、十六を過ぎれば労働力として搾り取られる。未来はどちらに転んでも真っ暗。


 しかし神父は淡々とした表情で続ける。


「さあ、選べ。擁護院か、孤児院か」


 重苦しい沈黙。


 ロージィは唇を噛み、必死に考えた。


 父はもういない。守る畑もない。夢の未来に怯え続け、過酷な収容所に行く? ……冗談じゃない。


 彼女は拳を握りしめた。


 ――逃げよう。村を出て、聖女なんかにならずに生きてやる!


 たとえ未来がどうあろうと、この国の「用意された檻」には絶対入らない。


 こうしてロージィの逃走劇が始まるのだった。

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