表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第12話:またいつか

 季節は、初夏の風が若葉を揺らす頃だった。


 谷間を抜けた先に、静かな村があった。聖王国の庇護の下にありながら、人々が穏やかに畑を耕し、子どもたちが笑い声をあげて走り回っている。山には実り多い果実や木の実が育ち、流れる川は清らかで、時折魚の鱗が光で反射する。


 羊の群れが若い芝を食べ、鶏も自由に村を闊歩する。卵を集めるのは幼い子供たちの仕事である。


 ロージィはそこで、ようやく腰を落ち着けることになった。


 村外れに建てられた小さな家。花の種を植え、裏庭には薬草を並べ、台所には干したハーブが吊るされている。


 ――彼女の「居場所」が、そこにあった。


 ある日の夕暮れ。


 戸口を叩く音がして外に出ると、カイルが立っていた。


「……来てくれたんだ」


 ロージィが微笑むと、彼は真面目な顔でうなずいた。


「行く前に、きちんと別れを言っておきたくてな」


 旅装束のままの彼は、もうこの村を離れて、聖王国へ戻るつもりらしい。


 短い沈黙のあと、カイルは真剣な瞳でロージィを見つめた。


「ロージィ。これから先、道は楽じゃない。王国はまだ諦めていないだろう。……だが、俺は信じてる。お前なら、きっと自分の生き方を選び抜ける」


 その声に、胸の奥がじんと熱くなる。


 ロージィはそっと手を握りしめた。


「ありがとう、カイル。あなたがいてくれたから、私はここまで来られたの」


 彼の表情がわずかに揺れる。けれど、言葉にはしなかった。


 その代わりに、右手を差し出す。


「……また会おう、ロージィ」


「うん。また、きっと」


 二人は固く手を握り合った。ほんのわずか、離すのが惜しいように。


 やがて、村を見下ろす丘で、ジョッシュが待っていた。大きな斧を肩にかつぎ、どこか懐かしそうに笑う。


「何も言わず、行っちまうのか、カイル」


「ああ。私はまだ、やらなければならないことがある。それに……ロージィに見合うだけの男にならないと。せめて、あんたに認められるぐらいのな。だからそれまでの間、ロージィを頼む」


「言われなくても。……俺はあいつの《《保護者》》だからな。だが、あんまり待たせんじゃねぇぞ。他にも狙ってる男はいくらでもいるからな」


 村を見上げると、ロージィがまだこちらに向かって手を振っていた。


「ロージィももう16歳になったからなぁ。どんどん綺麗になるぞ、俺たちの姫さんは」


「全くだ。急いで用事を済ませてこなければ」


「用事ってのは、あれか。あっちの国のことだろ?」


「……ああ。あの日のロージィの呪詛が神の耳にも届いたらしい…。そろそろだろうから。私も最終決着をつけにいかなければ」


「そっか。まあ、お前だったら問題ないだろうが…、気をつけていけよ」




 もう血と炎に追われる旅路ではない。それでも、心の奥で繋がっている。


 夕焼けに染まる空を見上げながら、ロージィは思った。


 ――この旅は終わりじゃない。形を変えて、これからも続いていくのだと。


 カイルの背が、丘の向こうに消えていく。


 ロージィはその姿を目に焼き付け、ゆっくりと家へと歩き出した。


 ここで生きていく。聖女として、人として。



 そして、またいつか。




 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ