第1話:聖女と檻
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ロージィは、夜ごと同じ夢を見る。
夢の中の彼女は、第一王子の婚約者で――よりによって“聖女”だった。
手入れのされない銀の髪は足元まで垂れ、冷たい泉の中でひたすら祈りを捧げている。
居場所は石造りの暗い部屋。外に出ることは許されず、王族や貴族に呼ばれるたび「国のため」「王家のため」と治癒や祈りを求められる。
休む間はなく、奉納金と引き換えに癒しをねだられる。やがて「まだ足りぬ」と欲に濁った目が陰のように迫ってきた。
力を搾り取られ、限界を迎えたロージィが石のベッドに横たわるその瞬間――王子は冷たく笑う。
『聖女は国のために死ぬのが役目だろう』
……ありがたいお言葉だ。
笑う暇があるなら休ませてほしい。
ロージィはそこでいつも目を覚ます。
胸は早鐘を打ち、全身は汗に濡れ、奥歯に力が入りきしむ音がした。
ここ数年――正確には母が亡くなってからの五年間、夢はますます鮮明さを増していた。
ただの夢ではない。未来を見せつけられているのだという確信が、胸の奥を冷たく締めつける。
「……そんな未来、絶対に御免だから」
彼女の名前はロージィ・アッシュフィールド。
田舎の農家の娘にすぎない。だが父は母を失ってから酒に溺れ、畑は荒れ放題となった。十二歳の娘が畑も家も、そして仕事をしない飲んだくれの父の介抱まで背負っていた。
――そう、この家を支えていたのは彼女ひとりだった。
だからこそ祈りは切実だ。
「どうか私を聖女に選ばないでください。普通に農家でいい。畑を耕し、父さんの面倒も見るから」
謙虚で、必死な祈り。
これを聞き入れない神がいるとしたら、それは果たして神と呼べるのか――そう思いたかった。
だがその日、神はいないと知る。
父は酒場に出かけたきり帰らなかった。
探しに出たロージィが、村から離れた街の路地裏で見つけたのは、血にまみれた父の亡骸だった。殴り合いに巻き込まれたのか、それとも酒欲しさに自ら喧嘩を売ったのか。顔は腫れ上がり、腹には幾つもの刺し傷。もう息はなかった。
「……父さん」
呼んでも返事はなく、彼女はひとりになった。
その夜。夢は変わった。
聖女として幽閉される夢に、今度は父までが現れたのだ。
『お前が聖女になるのを拒んだから、俺は助からなかったんだ』
「……違う。父さんが、お酒をやめないから。母さんも、赤ちゃんも……」
必死に否定する。だが胸の奥には罪悪感が刺さり、世界にひとり残された孤独がじわじわと広がっていった。
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