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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

古民家

作者: さんさい





ミーンミーンミーン、ミーンミーンミーン。

蝉の声が鳴り響く夏。

俺たちは田舎の古民家に来ていた。

大学の授業も試験も全て終わり夏休み入った。しばらくはサークル活動やバイトに勤しんでいたが、夏休みといえば旅行だろうということでサークルとバイトを休んで、古民家に旅行に来た。今どきこういう民泊のようなものをやっているところは少ないが、やはり日本の夏というものを感じたい。青い空と風に吹かれる風鈴、スイカと縁側。俺は生憎都会生まれで、こういった景色はテレビでしか見たことがなかったため憧れがあった。翔は母方のおじいちゃんおばあちゃんの家がいわゆる田舎にあるためこういったところには慣れているようで、俺の隣で「なんか懐かしいわー。あ、この風鈴おれのばあちゃん家と一緒だわ」とはしゃいでいる。






「翔のおばあちゃんの家もこんな感じなの?」






「うん、似てるかも。

俺の家は海も近いから、もうちょっと潮風って感じだけど。この木の感じとかは一緒。

今度ばあちゃん家いこう、なんか帰りたくなったわ」






「ふーん、なんかいいな。日本って感じ」






「じゃあ、今度遊びに来いよ。ばあちゃんたちそういうの大歓迎だから」






「あー、そうだな。考えおくよ」






翔は少し寂しそうな顔をした。俺はそれを見なかったふりをして、ベランダに出た。ごめん、まだ勇気出ないんだよ。






「風も気持ちいいなー。夏休み終わるまでいたいわ、ここに」






「もうあっという間に8月も終わりだもんな。

1ヶ月早いって」






「まあ、でも高校の時より夏休みが長いのはやっぱり結構嬉しいな」






「確かに!来年は海外行きたいなー」






「海外?いいなそれ笑

バイト頑張ってお金貯めようよ」






「そうだな」






夜ご飯の時間まではまだ2時間ほどあった。俺たちは外に散歩に出た。

ここは山が近く、緑が多いところだった。民泊先の夫婦に散歩コースにいいところを教えてもらった俺たちはその道を歩いていた。最近は暑すぎる夏だが、緑が生い茂っているおかげか涼しい。散歩コースの隣には小川が流れており、水の涼しげな音も暑さを忘れさせてくれるようだった。






「本当に緑って涼しいんだなー、

なんか感動かも」






「田舎は涼しいっていうけど、緑があるからなんだろうな」






グーー。翔のお腹が鳴った。






「結構歩いたからお腹すいた笑」






「確かに。そういえば宿のお母さんが今日は焼き魚って言ってたぞ。結構歩いたし戻るかー」






「そうだな、戻ってちょっとゆっくりしたら丁度くらいだな。あ、おれコンビニに寄って飲み物だけ買って帰りたい」






「宿の近くにあったけ?」






「なんか俺たちが来た側の反対側に進んだ方にあるって言ってた」






「そうなんだ、じゃあそこ寄って帰るか」






俺たちは来た道を戻った。畑や田んぼが多くて、ポツポツと木造建の家があった。外に洗濯物を干しているおばあちゃんや、畑仕事をしているおじいちゃん、井戸端会議をしているおばあちゃんたち。都会ではあまり見かけない光景で、これが昔の日本の風景だと思うとなぜだがあったかい気持ちになった。

翔はコンビニ着くと飲み物コーナーに向い、水とコーヒーを手に取った。そのままレジに向かうのかと思うと、入り口近くの日用品コーナーに向かった。






「何買う・・・なんで、それ買うの」






「忘れたから。ないと困るのは蓮でしょ?」






「は!?バカかよ。しないから!」






「まあまあ念の為。今日使わなくても今後も使えるからさ。じゃあ俺買ってくるから外で待ってて」






絶対目的そっちだったじゃん。バカすぎる。

俺はコンビニの入り口付近で翔を待った。

しばらくすると翔がコンビニから出てきた。俺たちはそのまま古民家に帰った。古民家に戻るとちょうど宿のお父さんも戻ってきたところだったようで、今からお風呂に入るのだという。お客様用のお風呂は別にあるらしく、夜ご飯が終わったら準備してくれるそうだ。

部屋に戻りしばらくゆっくりしていると、お母さんが現れて、「せっかくだから一緒に夜ご飯食べない?」と誘ってくれたので、お言葉に甘えることにした。






「さ、2人はそっちに座って。座布団欲しかったら言ってね。あっちにあるから取ってくるわ」






「「ありがとうございます」」






「ほら、お母さんも席着いて。もう全部揃ってるよ」






「はいはい、お醤油だけ。ちょうど朝スーパーで美味しそうなお醤油見つけたの。

・・・・よし、では、食べましょうか」






「「「いただきまーす」」」






今日の献立は、白ご飯と夏野菜のお味噌汁、タコときゅうりの酢の物、鯵の塩焼き、冷奴だった。






「どう?最近、お医者さんに塩分を控えるように言われたからちょっと薄味でごめんね」






「そんなことないです!

魚とか野菜とかそのものの味がメインだけど、ちゃんと出汁とか醤油を感じれて、めっちゃ美味しいです!」






「酢の物もすごく美味しい。このきゅうりはここでとれたものなんですか?」






「そうだよ。野菜作りが趣味でね。自分たちの食べる分を基本的には作っていてね。たまにこうして泊まりに来てくれた人たちにも振舞っているんだ。その方が作り甲斐もあってね」






「ほんと、この人朝から晩まで畑ばっかりで」






「いいだろ、その方が君だって家で好きなことできるじゃないか」






「ふふふ、それはそうね。いつも気を遣ってくれてありがとう。でもたまには家でゆっくりしてくれてもいいじゃない、1人でいるの寂しい時だってあるのよ」






「・・・分かってるよ」






「じゃあ、今度の休日はお出かけしましょうね」






「君は本当に上手だね、・・・また行きたいところを決めておいてよ」






「ふふふ、楽しみね」






「お二人ともめっちゃ仲良しですね。羨ましいです」






「だいたいいつもこの手を使われるんだ。人の前だと俺が断れないことを知ってる」






「あら、人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。

あなただって楽しんでいるくせに」






旦那さんは照れくさいような困ったような顔をしている。翔も言ったが、本当に羨ましい。2人で好きなことをして、お互いを思いやりながら生きている。とても穏やかな幸せの形がそこにあった。






「それに、私にはあなたたち2人も幸せそうに見えるわ」






「え?」






「だって、あなたたち恋人でしょう?」






「こら、そんな野暮なことを、」






旦那さんが慌てたような表情で奥さんを咎めている。翔はどう言えばいいのかと悩んでいるみたいだった。俺がオープンすることを嫌がっていることを知っているから。ただ、俺はこの人たちには知られてもいいと思えた。なぜだかはわからない。幸せな空気に当てられたのか、はたまた言い当てられて言い逃れられないと思ったのか。それでも俺は自然と肯定できた。






「・・・はい。まだ付き合って半年を過ぎたくらいです」






隣にいる翔がびっくりした顔で見ているのが、そっちを見なくてもわかった。正直俺だってびっくりしているんだから。






「あら、素敵ね。半年なんてとっても楽しい時期じゃない。2人で旅行は初めてなの?」






「はい。高校の時は友達と含めて旅行したことはあったんですけど、2人は初めてです」






「えーー、そうなの!

初めてをここに選んでくれるなんて嬉しいわ。

だったらたくさんおもてなししなきゃ!

ねえ、どっちから告白したの?」






「おい!さすがにそんなこと聞くなよ」






「・・それもそうね。ごめんなさい。

私たち子供がいるんだけど、もう巣立っちゃってなかなか会えないから、若い子たちに会うのが新鮮でつい舞いあがっちゃったわ」






「いえ、普段こういう話をしないので

むしろ楽しいです」






「ふふふ、そう言ってもらえてよかったわ。

ありがとう。

さあ、冷めないうちに残りも食べてしまいましょう。もしおかわり欲しいならどんどん言ってね」






俺たちはその後も恋バナや夫婦の生活の話、奥さんの趣味のヨガの話で盛り上がった。ご飯を食べ終えるとお風呂の準備ができるまで少し時間がかかるから部屋で待っていてと言われたので、俺たちは一度部屋に戻ってきた。






「蓮、言ってよかったの?」






「うん、なんかあの2人は言ってもいいって思えて。なぜかわかんないし、他の人に言うのはまだ抵抗あるけど」






「そっか、でも俺嬉しかった。

蓮が俺の恋人だって堂々としていられたの初めてだったから。

蓮がオープンにすることに対して抵抗があるの分かってるつもりだし、無理に他の人に広めようっていうつもりもない。蓮が嫌がる事はしたくないから。でもやっぱり嬉しかった。だから、ありがとう」






「ううん、俺の方こそいつも俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。言うのは抵抗あるけど、俺ちゃんと翔とこれからも一緒にいたいって思ってるから。俺、翔とあの2人みたいになりたい」






「うん、なろうよ。

一緒に年取って、老後も穏やかにお互いに好きなことしながら過ごそうよ」






しばらくすると奥さんがお風呂の準備ができたと呼びに来てくれた。2人でも入れると言われたので、俺たちは一緒にお風呂に向かった。どうやらお風呂だけはお客さま用に増設したようで、旅館のようなお風呂だった。檜のいい香りがした。俺たちは家では味わえない、露天風呂風のお風呂を満喫した。

部屋に戻ると奥さんがスイカを持ってきてくれた。






「これうちの畑で取れたスイカなんだけど、今年初めて成功したの。よかったら食べて。もしかしたらちょっと甘みが足りないかもしれないんだけど、そこはご愛嬌ってことにしといてね」






「ありがとうございます。いただきます」






「ふふ、じゃあおやすみなさい。

・・・あ、私たちもう寝るから、何しても聞こえないわよ」






「え!!?それどういう・・・!」






「はい、ありがとうございます。この後もゆっくりさせてもらいます」






本当に物分かりが良すぎる人だ。別にスイカを食べた後はもう寝るだけだけど!!






「何してもいいって」






「は?何言ってんの。

スイカ食べたら俺寝るから!」






「はいはーい。

えー、スイカめっちゃ美味そう」






「話逸らした・・・」





奥さんからもらったスイカは美味しかった。

ちゃんと甘くて、塩との相性も抜群だった。

思わず口に入れ過ぎてリスみたいになってしまったくらいだった。

結局俺たちは疲れていたのもあって、スイカを食べ終わったらすぐ寝てしまった。

・・・・実は、ちょっと期待してたのに。





次の日も俺たちはお母さんのご飯を食べて、お父さんの畑を少し覗かせてもらって、また散歩して、とあちらではおおよそできないであろうことをして旅行を楽しんだ。帰り際には野菜やスイカをたくさん分けてくれた。また来年も翔と来れるといいなあ。





__________________



おまけ





奥さんにもらったスイカは美味しかった。蓮も美味しかったようで口いっぱいに入れて食べている。リスみたいで可愛い。今日は恋人って言ってもらえて、美味しいそうに食べてる姿も見れて幸せすぎる。

コンビニでいろいろ困らないようにと思って買ったが、本当にするつもりはなかった。でも、ちょっと、 






「・・・可愛すぎるよなあ」






「ん、なに?」






「ううん、こっちの話」






納得できなかったようで、蓮はしばらく訝しげにこちらを見つめていた。本当に、その日いろいろ我慢した俺を褒めて欲しいくらいだ。また、来年も来れるといいな。






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